あじさいのたまご
   


中国の指導者2人が先週、同国の厳格な新型コロナウイルス対策に不満を募らせている外国企業幹部を安心させようとした際、指導部の見解が割れているように見えたという。習近平国家主席は5月18日、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)によって世界が直面する経済的課題についてビデオ演説をした。だが、中国の厳しいコロナ対策によって悪化した国内経済の低迷についてはほとんど言及しなかった。

 

その翌日、李克強首相は対面での会合で、ほぼ中国自体の問題に絞り、より率直で融和的なトーンで話したという。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』の率直な感想である。この記事が取り上げているように、習近平氏と李克強氏の経済観には差があると見て間違いない。

 

中国の「ゼロコロナ」の強行は、中国経済に大きな後遺症を残すはずだ。習氏は、自らの国家主席3選に目が眩んでしまい、現実の中国経済の見分けがつかなくなっている。李氏は、この危険は状態を何とか避けたいと努力しているが、これ以上の「異見」は政治的対立を生みかねず危険である。

 


『日本経済新聞』(5月26日付)は、「中国はこれからも強いのか」と題する寄稿を掲載した。筆者は、著名な米ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマー氏である。

 

中国は今後10年でさらに強くなるだろうか、それとも弱くなるだろうか。中国の経済力や国際政治での影響力、増強しつつある軍事力をみると、繁栄かつ安定した未来は、中国の巨大な経済力と優れた技術力のどちらが重要になるかにより決まるだろう。経済の先行きには陰りが見えるが、新興テクノロジー超大国としての地位の方が重要になるかもしれない。

 

(1)「中国の大国への台頭は、国内だけでなく世界全体でかつてないほど多くの人に新たな機会をもたらし、国内外で中間層を生み出した。土台になったのは中国の2つの強みだった。1つ目は中国が数十年前、史上最大規模の低賃金の労働力という恩恵を享受できたことだ。2つ目は低賃金に促され、先進国の製造業がコスト削減と利益増のために中国に生産拠点をこぞって「移転」したことだった」

 


中国は、厖大な安い労働力によって世界のサプライチェーンを担い、国内と国外の経済成長に多大の貢献をした。ただ、忘れてならないのは、外資系企業が資本と技術を持ち込み、中国は労働力だけを提供したという事実だ。習近平氏は、故意か偶然かこれを忘れており尊大に振る舞っている。これが、中国最大の不幸である。謙虚さを打ち捨ててしまったのだ。

 

(2)「だが今や、2つの強みは失われた。中国人労働者のスキル向上に伴い賃金が急上昇し、より発展途上の国が中国の工場にはないほどの低賃金を提供できるようになった。さらに「一人っ子政策」で長期間、人口の伸びが抑えられた結果、労働供給量が相対的に減り、賃金に一段の上昇圧力がかかっている。世界経済はサービス貿易の比重が増し、工場労働の需要が減っている。そして米国など各国の政府や民間企業は中国に移した製造業の雇用を「回帰」させるよう求める政治的圧力を受けている」

 

中国発展の原動力になって労働力が、すでに桎梏状態へ向かっていることは大きな痛手である。中国は、この事態を乗り切る手法を持ち合わせていないのだ。習氏の強権手法で、民間の自由な経済活動を規制しており、サービス化経済への移行を妨害する結果になっている。

 


(3)「こうした理由から、中国の台頭はついに頭打ちになった可能性がある。多くの新興国は「中所得国の罠(わな)」に陥るとエコノミストは指摘する。経済成長を手柄としてきた支配政党は危険な状況に陥る。国民の期待をよそに成長が頭打ちでも非を認めないからだ」

 

中国は、構造的に言えば労働力不足に直面している。現状は、政策不況で失業率を高めているが、中期的には人口減=労働力不足になる。この状態で、途上国はどこも「中所得国の罠(わな)」にはまっている。1人当たり名目GDPが、1万5000ドル程度で停滞状態に落込むのだ。中国は、習氏の強硬策でIT関連企業を抑圧し、失業率を人為的に高めている。すべて、習氏の「反資本=反企業」という毛沢東思想踏襲の結果である。習氏は、毛沢東思想をひっさげて、国家主席3期目を狙っているのである。

 


(4)「中国は巨額の公的債務、特に中国企業の債務問題も抱えている。政府は何年もの間、多くの雇用と国内銀行の支払い能力を維持するため、各分野の最大手企業をデフォルト(債務不履行)から救ってきた。借り手も貸し手も救済してもらえると高をくくるようになり、問題がさらに悪化している。解決には経済の痛みに耐える必要がある。だが、新型コロナウイルスや、ウクライナ侵攻によるエネルギーや食料の価格の上昇で、市民の忍耐は既に限界に達している」

 

「ゼロコロナ」が、諸悪の根源である。防疫対策を政治目的に利用しており、コロナの死者が少ないことをアピールしている。現実の死者は多く、すべて隠蔽されている結果だ。防疫設備の不備を国民に悟られないように、「ゼロコロナ」という奇想天外の対策を持出しているに過ぎない。

 


(5)「それでも中国は急成長しつつある技術力のおかげで、経済の脆弱性のダメージを一定程度に抑えられるだろう。ここ10年、独裁国家や巨大テック企業が、膨大なデータを収集し、私たちがどんな人物で何を欲しがり、それを手にするのにどう行動するかを熟知する「データ革命」に移行している。中国はこの分野で圧倒的な強みを誇る。中国企業は電子商取引(EC)だけでなく顔認証や音声認証も急速に高度化し、独裁国家が権力の集中が制限される政治制度よりもはるかに円滑に技術を開発できるという強みを示した」

 

技術力と言っても、監視カメラなどである。民主主義社会で、とても通用しないシステムであり先進国へ輸出できる代物ではない。中国の主要技術は、西側諸国が持込んだものである。現実に、半導体も高級品は製造不可能である。

 


(6)「もっとも、最大の強みは国家が国内テック企業に政治的に有用な製品の開発を命じ、巨額の資金を投じて活動をとりまとめ、監視技術を他国に売って国際社会での影響力を拡大できる点だ。自国やほかの独裁国家、民主主義国もこうした製品を購入するだろう」

 

中国の監視システムは、情報が北京へ筒抜けになるとして、米国防省が中国製について、使用禁止処分にしている。

 

(7)「中国の未来を決めるのに、もう一つ重要なのは、欧米や日本が中国の次の段階にどう対処するかというさらに難しい問題だ。ウクライナ侵攻で、欧米は今のところ冷戦終結後で最も固く結束している。一方で中国はロシアへの支援を限定的ながらも続けており、西側諸国は中国の外交政策の意図に根深い疑念を抱いている」

 

西側諸国は、中ロを「枢軸」とみて一括りに扱っている。IPEF(インド太平洋経済枠組)も、中国への対抗組織である。ASEANから7ヶ国が参加し、全体で13ヶ国が結成することになった。中国にとっては、深刻な事態が起こっている。その認識が、中国にあるのか不明である。

 

(8)「グローバル経済での中国の重要性を考えると、中国の脆弱性が今後も世界のアキレス腱になるのは明らかだ。中国と西側諸国の指導者が、この点を肝に銘じながら変わる関係に対応できるかが、何よりも重要な問題になるだろう」

 

米中デカップリング(分断)が進めば、米国経済圏は、安定したシステムが作れるであろう。中国という「攪乱分子」が取り除かれるメリットのほうが大きいはずだ。防衛は、NATO(北大西洋条約機構)と連携して、地球規模で権威主義国家からの侵略を防ぐ。同一価値観の国で経済も安保も一体化する。グローバル社会の理想型から言えば異例だが、安全保障のためにはやむを得ない措置である。