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日米豪印の「Quad(クアッド)」開催中の5月24日、中国軍のH6爆撃機とロシア軍のTU95爆撃機が2機ずつ、日本海と東シナ海の上空を飛んだ。その後に、中国機2機がH6爆撃機と推定される別の2機と入れ替わり、沖縄本島と宮古島の間を通過して東シナ海と太平洋を往復したと報じられている。

 

この中ロ空軍の合同飛行は、日米豪印の「クアッド」へ警戒姿勢を見せたもので、「中ロ枢軸」を一段と印象づけることになった。中国としては、ロシアとの合同訓練によって「自国が孤立しているわけではない」と国民に訴えかけられる内政上の利点もあると指摘されている。

 


中国軍爆撃機H6には、核兵器を搭載できるタイプもあるという。中国軍は、自らの「虎の子」兵器であるJL3を無力化するため米軍が日本海北部に進入するなら、戦術核兵器でこれを排除することも辞さないとの強烈な威嚇を合同飛行によって示したと専門家は指摘する。JL3とは、射程延伸型のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)及びそれを搭載するための新型SSBN(弾道ミサイル搭載原子力潜水艦)を指す。

 

中国のH6爆撃機が、日本海を飛行した裏には、以上のような狙いがあるとされる。ただ、中国の海空軍は、百戦錬磨の米軍と交戦した経験がない。この米軍と対抗するには、ロシア軍に共同訓練などを頼み、技量の向上を図ることが欠かせないと指摘されている。

 

ロシアは近年、地下資源や武器など自国産品を中国に購入してもらうっている。ロシアは最近、ウクライナ侵攻に伴う経済制裁下で、中国に原油や天然ガスの購入量をさらに増やして貰わなければならない事情を抱える。こうしたわけで、中国から合同訓練を頼まれれば断れないと推測される。ロシアは、協力させられているという見立てだ。

 


『日本経済新聞 電子版』(5月27日付)は、「中国・ロシア、軍事面で相互運用拡大 爆撃機共同飛行」と題する記事を掲載した。

 

中国とロシアが日本周辺の軍事協力を拡大してきた。爆撃機の共同飛行や海上演習を通じて既成事実を積み上げ、相互運用力を高めようとする狙いがある。中国はウクライナ侵攻を巡りロシア支持を控えるものの、軍事面の結びつきは強める構図が浮かぶ。東アジアの安全保障の脅威となる。

 

(1)「防衛省は27日、自民党の国防部会で中ロ両軍の爆撃機の飛行状況を説明した。これまでのうちもっとも南方まで飛行した。飛行時間もロシア国防省は13時間と発表した。前回は「10時間超」だった。防衛省は「爆撃機に護衛の戦闘機がついてきておらず、実戦的な意味合いは少ない示威行為だ」と指摘した。「中ロの協力の進化を示す意義があったのではないか」との分析を示した」

 

爆撃機に護衛の戦闘機がついていないのは、演習でなくただの「威嚇飛行」と見られる。嫌がらせの飛行だ。

 


(2)「防衛省が、日本周辺で中ロ両軍の長距離共同飛行を公表したのは2019年以降、4年連続4回目となる。これまでは1年ほどだった飛行の間隔は今回、前回から半年後と短くなった。機数は21年が4機だったのに対し、今回は計6機へ増えた。自衛隊の杉山良行元航空幕僚長は、「軍事演習は繰り返すことに意味がある。日本海に入って政治的なメッセージを強めている」と語る。「爆撃目標など高いレベルの戦術は確認していないと推定するが、恒常的に示威行動を続けて作戦の相互運用性を高めているとも言える」と話す」

 

中ロの軍機が、飛行中に無線連絡して実践感覚を磨いているのであろう。中ロの共通語は何だろうか。まさか英語ではあるまい。興味が持たれる点だ。

 


(3)「中ロ両軍が、合同演習「平和の使命」を開始したのは05年だ。12年以降、定期的な海軍合同演習「海上連合」を展開する。18年からはロシアが毎年実施する最大規模の軍事演習に中国軍が参加するようになった。21年10月には「合同海上パトロール」と称して津軽海峡や大隅海峡を初めて一緒に通過し、日本列島をほぼ1周した」

 

中ロ軍機が、同時並行で飛行するのは、中ロにとっては「見せ場」であろう。ただ、ロシアがウクライナ侵攻で評価を落としているから、西側諸国から見る中国のイメージは芳しいものでない。中国側は、それをどこまで理解しているか疑問だ。中国は、ただの「鬱憤晴らし」に行なっているとすれば、取り返しのつかないイメージダウンになる。

 


(4)「中ロ両政府は、表向きには正式な軍事同盟ではないと主張する。それでも中国は1990年以降、戦闘機や駆逐艦、潜水艦などの武器をロシアから購入し始めた。最大の武器供給国はロシアとなり、軍事面でのつながりの深さは明らかだ。弾道ミサイルや宇宙ロケットの発射計画を相互に通告する政府間協定も結ぶ。これらの動きを中ロは、「新時代の包括的・戦略的協力パートナーシップ」と呼ぶ。ロシアのプーチン大統領はかつて中国と軍事同盟を形成する可能性を「理論的には十分想像できる」と述べた」

 

ロシアのウクライナ侵攻で、ロシア空軍はその評価を大きく下げている。「ロシア空軍は米軍より30年遅れている」と米軍専門家が見下げているのだ。ロシア空軍の戦闘法が、過去と全く変わらず、やたらとミサイル攻撃しているだけだと指摘する。そのミサイルも、極めて命中度が低く、40%にも達していないという。精密な半導体不足も影響しているのだろう。

 


(5)「中ロの接近は東アジアの最大のリスクとされる台湾有事とも密接だ。自民党安保調査会の小野寺五典会長は27日の党部会で、「中国、ロシアにあわせたかたちで北朝鮮が弾道ミサイルを実験する。まさしく3正面が現実に起きている」と強調した。台湾有事になると、ロシアが権威主義国の枠組みで中国に加勢し、北朝鮮も足並みをそろえるといったシナリオだ。岸田文雄首相とバイデン米大統領はこうした動きを踏まえ、23日の首脳会談で抑止力と対処力を強化することで一致した。共同声明で「軍事面における中ロ間の協力に引き続き注意を払っていくことに関与する」とうたった」

 

中朝ロが一体化して、日米へ攻撃をしけてくるか。その場合、中国にはメリットがあるとしても、ロシアと北朝鮮には何のメリットもない。第一、ロシア軍がウクライナ侵攻で被った被害が簡単に癒えるはずがない。厭戦気分が蔓延している。さらに、経済制裁が長期に続けば、ロシアの軍需生産は止まる危険性が高まる。ロシアの武器生産が止まれば、中国も購入不可能だ。よって、日米へ開戦したくても武器が整わない事態となろう。日米は、中ロの開戦抑止を怠ってならないが、無闇に恐れる必要もあるまい。