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紅二代と取引した習近平

南太平洋で米に外交敗北

欧州が人権問題で拒絶感

未来に絶望する若者たち

 

習近平氏は、生粋の毛沢東主義者である。若い時代から、強烈な民族主義者の薫陶を受けてきた。それゆえ、国家主席に就任した2012年以来、中国は大きく「左」へハンドルを切ることになった。

 

中国経済は習氏によって、それまでの民営化を主体とし国有企業を補佐する「民進国退」を放棄して、国有企業主体の「国進民退」へと逆戻りすることになった。「民進国退」を推進した鄧小平路線とは当然、対立する構図である。その後の習氏は、ことごとく鄧を否定し、自らの実績を誇示することが増えた。

 


不思議なのは、こうした路線変更が共産党内部で議論されないままに実施されていることだ。民主主義国では、選挙という国民の選択によって決まることが、中国では習氏を取り巻く少数の人々で決められている。それだけに、権力闘争の起こる基盤が存在する。習近平政権が、絶対に安泰と言えない背景に、こうした少数者による権力簒奪(さんだつ)のもたらす不安定性がつきまとうのだ。

 

紅二代と取引した習近平

習近平氏は、今秋に異例の「国家主席3選」を目指している。習氏には、国家主席就任当初から超長期政権を目指す狙いがあったと見られる。前述の「国進民退」には、中国共産党の古参幹部の子弟の支持を得る目的が隠されていた。国有企業は、古参幹部子弟が株主に名を連ねている。習氏は、この「紅二代」の利益を保証することで、支持を取り付けることに成功した。「国進民退」は、習氏の立身出世を保証する道具になった。

 

習氏による立身出世の目的が、習氏の行なった政策の出発点である。習氏が、終身皇帝になるために「中華の夢」を語り、米国の世界覇権へ挑戦することがこれに彩りを添えた。世界覇権を実現するには、ロシアのプーチン氏との協力が不可欠である。国内的には、少数民族による紛争を封じ込めなければならない。新疆ウイグル族弾圧は、こういう背景で始まった。100万人単位での強制収容が、「第二のホロコースト」と非難されていることは周知の通りである。

 

習氏は、今年2月にプーチン氏との「限りない友情」を誓い合う中ロ共同声明を発表した。これが、その後のロシアによるウクライナ侵攻で、西側諸国から習氏へ強い疑惑の目が注がれている。習氏が今後、台湾侵攻へ踏み切る手がかりにするのでないかという疑惑だ。もう一つ5月中旬に、新疆ウイグル族弾圧に関わる内部資料が写真付きで漏洩した。習氏が、新疆ウイグル族弾圧を指示した張本人であることを裏づけている。

 

このように、期せずして習氏にとって極めて不利な事態が起こっている。習氏が、永久政権という毛沢東張りの欲望を持たなければ、起こらなかった事件であろう。これらによって、中国は欧米諸国から強い警戒感に曝されている。

 

国内的には、ゼロコロナ政策によるロックダウンが、中国経済に重大な悪影響を与えただけでなく、中国の若い人たちに絶望感を与えた。共産党への信頼感が大きく崩れているのだ。このような「強権国家」で暮らすことへの疑問から、結婚・出産に疑念を深めている。結婚・出産に慎重になれば、出生率はさらに低下する。これが、中国経済を衰退に追い込むのだ。将来の中国問題は、今後の出生率が左右する。これについては、最後に取り上げたい。

 


一国経済の潜在成長率を示唆する指標には、生産年齢人口がある。国際的には、15~64歳である。中国は、健康上の理由から15~59歳となっている。中国の生産年齢人口は、国際基準よりも5歳若く、その分を労働力として換算すれば、国際標準よりも約1割少なくなる計算だ。この事実は、意外と知られていないで、中国経済について過剰評価をもたらす理由になっている。

 

中国基準の生産年齢人口が、総人口に占める比率は62.5%(2020年)である。米国の65.0%(同)をすでに下回っていることに目をとめていただきたい。この事実だけでも、中国が米国経済を追い越す可能性は、大きく後退している。

 

さらに、前述のような習氏による「プーチン氏への友情」と「新疆ウイグル族弾圧」のもたらす欧米からの中国非難が、習氏を追詰める要因になってきた。とりわけ、これまで欧州は、中国へ親和姿勢を取ってきた。それが、習氏に関わる前記の二要因によって、「中国と縁切り」へ進む可能性が大きく膨らむ状況だ。習氏は、この厳しい現実を受入れなければならない。

 

南太平洋諸国で外交敗北

米中関係が、一段と悪化していることは今さら指摘するまでもなくなった。中ロ接近が、米国の警戒感を一段と高めることになったのだ。米国は、インド太平洋経済枠組(IPEF)に南太平洋諸国のフィジーまで参加させ14ヶ国が同じテーブルに着く。これに慌てた中国は、南太平洋諸国10ヶ国を対象にして、地域安全保障のような協定を申入れたが失敗した。

 

米国と安保上の関係が深いミクロネシア連邦が、事前に公表した書簡で「地域の安定を脅かす」と反対を表明していたことが決め手になった。全会一致が、南太平洋諸国の決定ルールであることから、さすがの中国も引き下がらざるを得なかった。「札ビラ」で頬を叩く従来の中国外交スタイルが、功を奏さなかったのである。(つづく)