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5月25日、国務院(政府)は、李首相と4人の副首相らが出席して、10万人の電話会議を開いた。会議の主旨は、景気回復策である。4~6月期のマイナス成長を何としても回避するように、というものだ。

 

マスコミの報道支配権を握る習近平氏の側近は、この大会議を内心、苦々しく見ているようで、メディアの扱いは5番目と「矮小化」されている。「帝王は習近平である」ことから、習の顔に泥を塗る行為は罷りならぬというのであろう。

 


『日本経済新聞 電子版』(6月1日付)は、「
中国にマイナス成長危機、隠された李首相『10万人集会』」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集委員である。

 

習近平政権による不動産、IT(情報技術) 業界への圧力が象徴する経済政策のミスと、新型コロナウイルスを封じ込める厳格な「ゼロコロナ」政策のダブルパンチで中国経済は大きなダメージを受けている。

 

(1)「危機感を抱く首相の李克強が率いる国務院(中央政府、内閣に相当)は5月25日、経済安定へ全国の幹部らを動員する異例の大規模テレビ電話会議を開いた。李は経済の最前線に立つ全国2800以上の地域の計10万人を超す幹部らに直接、テレビ電話で呼びかける効果的な手法を選んだのだ。「3月、特に4月以降、各種の経済指標が明らかに低迷し、ある分野で一定程度、2020年の新型コロナ感染が深刻だった時期に受けた衝撃よりも大きな困難に直面している」「コロナ対策と経済発展を効率よく統合させて困難に立ち向かおう」などの指摘があった」

 

全国2800以上の地域で、計10万人を超す幹部らに直接、テレビ電話で呼びかけた。中国経済が、いかに危機にあるかを示す象徴的な事例である。

 

(2)「中国の公式報道によれば、李はコロナ対策と経済発展の効率的なバランスという新しい微妙な表現を使いながら、46月の経済について「合理的な成長」を確保するため努力しようと号令をかけた。だが、実際に演説を聴いた多くの官僚らから漏れ伝わってくるのは、もっと深刻で率直な状況認識だ。出回っている「李発言要約メモ」によれば、主要目標として挙げられたのは、マイナス成長を回避し、プラスに持っていくこと。そして急激に上昇した失業率を下げに転じさせることである」

 

会議の内容は、相当に深刻なものだったという。4~6月期のマイナス成長をぜひとも避けよという主旨である。

 

(3)「李はもう一つ、手を打った。国務院が全国12省へ、統計に関する監督・査察チームを派遣すると同時に発表したのだ。46月の経済統計を巡り、成果を必要以上に誇示したい地方幹部らによる「水増し」を許さない厳しい姿勢である。裏にあるのは、いまだに目立つ統計不正の横行を許したまま来春、首相から退任すれば、地味ながら10年間、積み上げてきた自らの業績に傷が付くという思いだろう。李の本気度が分かる動きだ」

 

貧すれば鈍するで、データの水増しをしがちだが、それを許さないという厳しい姿勢を見せた。

 


(4)「すぐさま政官界や一般社会で問題化したのは、国民生活の窮状を救う国務院大会議の公式報道上の扱いが極めて小さく、矮小(わいしょう)化されたことだ。当日の5月25日夜、国営中央テレビが放映したメインニュースの扱いは5番目にすぎず、極めて地味だった。翌日付の共産党機関紙、人民日報1面の扱いも5番手で目立たない。もちろん10万人という規模も無視した。中国のインターネットの主要なポータルサイトでもトップページになく、検索しても出てこないケースさえあった」

 

この10万人集会が、メディアでは非常に小さい扱いであった。これが、意味するものは何か。権力闘争の序曲である臭いがするのだ。

 

(5)「当日夜から翌日にかけて、中国のネットでは、反発する見出しの文章、書き込みが目立った。それらは監視当局によって次々、削除され、すぐに閲覧不能になった。「(宣伝部門への)不満が目立つ形で文字、文章になり、すぐに閲覧できなくなったのは、内部での(権力)闘争の兆しとみてよい」。党内事情に通じる関係者は、この現象を李がいま直面する政治的な危うさの象徴だとみている」

 

ネットでは、メディアの小さな扱いに対する不満が掲載されたが、すぐに削除された。これこそ、李首相の置かれている政治的危うさを示しているという。

 


(6)「中国経済を救おうとする李の動きをあえて小さく扱う奇怪な動きについて、老党員は興味深い解説をする。「1962年に秘密裏に開かれた『7千人大会』を思い出せば理解できる」。全国各省・自治区、主要工場、軍から県党委員会級以上の幹部を集めた7千人大会は、共産党中央拡大工作会議の別称だ。毛沢東が主導した「大躍進」(58~62年)で農村経済が徹底的に破壊され、数千万人ともいわれる餓死者を出した経済工作(政策)上の「左」傾斜失敗を総括し、経済立て直しにカジを切った歴史的な会議だ」

 

中国経済を救おうとする李首相の動きを歓迎しないのは、毛沢東が推進した1958年からの「大躍進」の失敗後に、全国から7000人を集めた大会が開かれたが、当時は極秘扱いであった。これと、今回の「10万人会議」が似ている。

 


(7)「会議には当時としては空前の大人数である7千人が全国から参加したのに、開催の事実は一切、公表されなかった。失敗で権威を失いつつあったカリスマ、毛沢東の体面にも配慮し、存在自体を隠したのだ。毛の「左」の指導思想自体の誤りを根本的にただすこともなかった。今回の李による10万人大会の扱いが、極めて小さい理由も似た面がある。中国共産党の歴史を振り返ると、経済を巡る大政策、大方針と権力闘争は表裏一体だ」

 

毛沢東時代の7000人会議と今回の会議には、経済危機で開かれた点で類似性がある。経済を巡る政策の議論は、権力闘争と表裏一体である点に注意しなければならない。その意味で、李首相の「10万人会議」が、吉と出るか凶と出るかは今後の動きを見るほかない。