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中国政府による新疆ウイグル族弾圧は、ドイツ政府の対中政策を大きく揺さぶっている。ナチスのユダヤ人弾圧という暗い過去を持つドイツとして、中国政府へ毅然として対応することで、歴史への警鐘を鳴らしたいのであろう。

 

米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月3日付)は、「ドイツ『脱中国』鮮明、VWの投資保証拒否」と題する記事を掲載した。

 

ドイツ政府は、自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の中国での投資に対する保証の更新を拒否した。このことは、国際関係において政治より貿易を長らく優先させてきた同国が転換点を迎えていることを示している。ドイツ政府がVWの申請を拒否した背景には、中国政府によるイスラム教徒の少数民族ウイグル族の扱いがある。中国はドイツにとって最大の貿易相手国だが、この動きは中国を含む権威主義政権に対して一段と厳しい姿勢で臨むとするドイツ新政府の約束に沿うものだ。

 


(1)「この決定は公式に発表されたものではないが、事情に詳しい複数の人物が確認している。ドイツ企業が中国での活動をやめる可能性は低いとみられるが、事業のリスクは高まる。中国に投資するドイツ企業への支援と、中国政府によるウイグル族の扱いとをドイツ政府が関連付けたのは初めて。ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候保護相は「ウイグルに対する強制労働と虐待を前にして、われわれは新疆でのいかなるプロジェクトにも保証を提供することはできない」と述べている」

 

ハーベック経済・気候保護相は、非人道的行為を行なっている中国で、経済活動を行なうドイツ企業にいかなる保証も与えない、とした。これは、これまでのドイツ企業への「投資保証」に撤回を意味する。厳しい環境になった。

 


(2)「VWのヘルベルト・ディース最高経営責任者(CEO)は1日、地元テレビ局とのインタビューで、今後も中国が世界にとって経済成長の主な原動力と同社は考えており、中国と新疆の工場に注力していくとの考えを示した。「われわれは現地で強制労働を行っておらず、わが社の基準に従って活動していると保証できる。この地域でプラスの貢献をしている。だからこそわれわれは問題視していない」とディース氏は語った」

 

中国のような権威主義国家で行なう投資に、ドイツ政府の保証がつかなくなると、政治的リスクはいやが上にも高まる。慎重にならざるを得ないのだ。

 


(3)「企業は、外国での政変によって事業や資産を失った場合の政府保証を申請することができる。そうした保証の大半は何年も、中国で活動する企業に提供されてきた。ロシアのウクライナ侵攻後の2月にそうしたように、政府が保証の提供をやめるなら、企業は自らリスクを負って外国で活動しなければならなくなり、そうした国々への投資を抑制しかねないとエコノミストは指摘する」

 

このパラグラフは、重要な点を指摘している。いわゆる「カントリー・リスク」の問題である。中国で万一騒乱が起こっても、ドイツ政府の「保証」があれば、なんなくクリア可能だ。ドイツ政府は今後、中国投資での「保証」をつけない方針に切り替わる。

 


(4)「ドイツ政府は、中国への戦略的・経済的な依存脱却を目指し、関係の見直しを図っている。この新アプローチの下で、政府は企業に対して国外進出先を多様化させ、巨大な中国市場への依存を減らすよう促している。これにより、国外事業に積極的な欧州企業の投資先が、中国の対抗勢力とみられている米国に一段と振り向けられるようになる可能性がある。調査会社ロジウム・グループのアナリスト、ノア・バーキン氏は、「ハーベック氏の決定は重大だ。なぜなら、こうした保証がVWにとって極めて重要だというだけでなく、政府が対中投資について以前よりもかなり懐疑的に見ているからだ」と述べた」

 

欧州企業の対外投資先は、中国から米国へ振り向けられる公算が強まった。中国の評価が下がったのだ。

 


(5)「習近平国家主席の下、国内では権威主義的、国外では攻撃的な姿勢を強める中国に対して西側の懸念が高まる一方、多くのドイツ企業は依然として中国を最も有望な市場と見なしている。ドイツの自動車産業を担うVW、BMW、メルセデス・ベンツ・グループの大手3社に加え、サプライヤーの多くは、年間売上高の4割、利益の相当な割合を中国から得ている。こうした中国への依存は、コロナ禍の2年間で見られたように政治的・経済的混乱が起きた場合、これら企業ばかりかドイツ経済全体を危機にさらすことになるとエコノミストは指摘する。中国のロックダウン(都市封鎖)で世界のサプライチェーン(供給網)はまひし、ドイツの工場を直撃した」

 

中国への過度の依存が、危機を招くことはロックダウンによって証明済である。そこへ持ち上がった新疆ウイグル族弾圧事件の全貌が判明したことで、中国のカントリーリスクは無視できないものになった。

 


(6)「アナレーナ・ベアボック外相と専門家は、新たな中国戦略を具体化するため、シンクタンクとワークショップを開いてきた。外相は5月初めには、中国で大規模に事業を展開する大手各社のCEOと会談している。ベアボック氏は必要なら数年内に中国から完全に脱却できるか尋ねたと、協議に詳しいある人物は明かしたウイグル抑圧を示す証拠が相次いで明るみに出ており、中国脱却への世論の支持は固まりつつある。人権団体「共産主義犠牲者記念財団」は先月、強制収容所に入れられているウイグル族の画像を含む、中国警察当局による弾圧とみられる関連資料を公表した。ベアボック氏はこの資料に言及し、独立かつ透明性のある調査を求めた」

 

ベアボック外相は、下線のように数年内にドイツ企業が数年内に中国から完全撤退できるか聞いている。この動きは重要だ。中国政府の新疆ウイグル族弾圧は、大きな波紋を呼びそうである。

 

(7)「オラフ・ショルツ首相が所属する社会民主党(SPD)の共同党首ラース・クリングバイル氏は5月初め、ウクライナ戦争を考慮するなら、ドイツは中国に対して「態度を変え、もっと批判的になる」必要があると述べた。ショルツ氏は5月に世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で行った演説で、中国を政治的に孤立させないようくぎを刺した上で、こう語った。『新疆で見られるように、人権が侵害されているときにわれわれは見ないふりをすることなどできない』」

 

ドイツ首相は、ウクライナ侵攻と新疆ウイグル族弾圧が、同等の重みを持つとしている。中国にとって、厄介な問題になってきたと言うべきだろう。