テイカカズラ
   

ロシアのハイテク産業は、経済制裁を受けて総崩れである。半導体の国産メーカーMCSTTは21年、委託生産で試作品をつくったが結果は不合格。将来の展望はゼロだ。最近、IT技術者が相次いでロシアから出国しており、深刻な「人材流出」が続いている。この状態を見ても、中国は支援に動かずじっと様子見に徹している。中ロの「限りない友情」は、言葉だけに終わっている。

 

英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月2日付)は、「『何もかも消えた』、制裁直撃のロシアテック業界」と題する記事を掲載した。

 

西側諸国の対ロシア制裁を受け、ロシア企業がテクノロジー危機に陥っている。半導体や電子機器、国内のデータセンターに必要なハードウエアの供給に深刻なボトルネックが生じているためだ。

 


(1)「米国、英国、欧州(連合)が欧米で製造・設計された半導体を搭載する製品の輸出を制限したことを受け、インテルやサムスン電子、台湾積体電路製造(TSMC)、クアルコムといった世界の半導体大手はほとんどがロシアへの販売を全面的に停止している。このためロシア国内では、自動車や家電、軍事機器の製造に使用される大型で低価格帯の半導体が不足している。先端の家電製品やIT(情報技術)ハードウエアに使用される高度な半導体の供給も大幅に縮小されている。さらに、スマートフォンやネットワーク機器、データサーバーなど、半導体を搭載した外国製の技術や機器類の輸入も甚だしく阻害されている。「サーバーからコンピューター、iPhone(アイフォーン)に至るまで、あらゆる製品のあらゆる供給ルートが消えた」。西側の半導体メーカー幹部はこう語る」

 

ロシアは、2月24日を境にITを巡る供給状況が一変した。すべて、西側諸国へ依存してきたツケが回ってきた感じだ。

 


(2)「ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻を受けて西側が科した前例のない包括的な制裁により、ロシア経済は手痛い「構造改革」(ロシア中央銀行)を迫られている。ロシアは原料のほとんどを輸出できず、重要な製品を輸入することも世界の金融市場にアクセスすることもできない。このため、ロシアの2022年の国内総生産(GDP)は15%縮小するとエコノミストは試算している。マイクロチップ、半導体、サーバーなどの「軍民両用(デュアルユース)」技術の輸出制限はロシア経済に与える影響が特に深刻で、長く尾を引きそうだ。ロシアの通信大手は高速通信規格「5G」の対応機器を調達できなくなるだろう」

 

世界は、ITなしには動かない環境になっている。その心臓部門の半導体関連分野が、すべて対ロ輸出禁止措置を受けている。「暗夜」へ切り替わった。

 


(3)「ロシアではテクノロジー業界の発達が遅れ、半導体の消費は世界の1%にも満たない。つまり、テクノロジーに特化した制裁が目先でロシアに及ぼす影響は、テクノロジー製品を世界に供給する一大製造拠点である中国に19年に課された同様の輸出制限が及ぼした影響よりはるかに軽微なものにとどまるはずだった。ロシアにもJSCミクロンやMCST、バイカル・エレクトロニクスなど半導体の国産メーカーはある。ロシア各社は従来、中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)、米インテル、独インフィニオンなどの外国メーカーから大量に輸入した半導体の完成品に頼っていた。MCSTとバイカルは自社で設計した半導体の製造を台湾や欧州などのファウンダリー(製造受託企業)に委託していた」

 

ロシア半導体は、他国からの輸入依存であった。それだけに、輸入禁止措置を受けて大騒ぎになるのは当然である。

 


(4)「ロシアのビジネスニュースサイトRBCによると、MCSTは5月30日、半導体の製造をJSCミクロンが所有する国内工場に切り替えることを検討中と発表し、「ロシアの独自技術を駆使して価値あるプロセッサー(演算処理装置)」を製造できると表明した。しかし、MCSTが開発した半導体「エルブルス」をテストしたズベルバンクは21年、メモリー、処理能力、帯域幅でインテル製品を大幅に下回る「散々な」結果だったと明かしている。こうした状況に対し、ロシア政府には創意工夫が求められる」

 

ロシアの国産半導体設計企業MCSTは5月、国内企業に委託して生産する方針を発表した。だが、21年にも同様の試みをやって大失敗した経緯がある。短期間に半導体製造技術は発展する筈がない。成果に期待をつなげないのだ。

 

(5)「ロシアはサーバーや自動車、電話、半導体などのハードウエアを、商標や著作権所有企業の同意を得ずに企業が「並行輸入」することを認める輸入制度を導入し、調達先候補企業も多数列挙した。ロシアは従来、技術・軍事機器の一部については不正な「グレーマーケット」のサプライチェーンに頼り、アジアやアフリカの再販業者から仲介業者を通じて欧米の製品を購入することができた。しかし、半導体や重要なITハードウエアが世界的に不足している今、こうしたグレーな販路でも製品が枯渇している」

 

ロシアは、技術・軍事機器の一部について不正な「グレーマーケット」のサプライチェーンに依存してきた。ウクライナ侵攻で使われているロシアミサイルは、約4割が標的を外れているという。半導体精度が劣る結果に違いない。

 


(6)「ロシア当局は、中国のファウンダリーに製造を委託することも検討しているが、中国政府が支援に乗り出す兆候はほとんどない。半導体大手の幹部は「家電や携帯電話、PC、データセンターの分野では、国外メーカーのほとんどがロシアに製品を供給していない。たとえ中国製のレガシー(旧世代の)半導体を搭載している製品でも供給されていない」と話す。また、中国の習近平国家主席がウクライナ戦争を非難しようとしないにもかかわらず、スマートフォンのロシアへの販売打ち切りを決めた中国企業もある」

 

中国は、ロシアからの半導体受託生産を引き受ける兆候を見せていない。これは、米国の「二次制裁」を恐れている結果である。半導体の「母国」は米国である。米国が、あらゆる半導体技術の基本を抑えているので、中国は「二次制裁」を最も恐れている。

 


(7)「VKクラウド・ソリューションズは、5月にロシア政府に書簡を送り、「数万台規模のサーバー」確保について即時支援を要請したとロシア国内で報道されている。国内企業は欧米企業からサーバーを調達できないうえ、サーバーに搭載する高度な半導体が不足しているためロシアのITメーカーも自社で増産できない状況になっている。米調査会社IDCのデータによると、ロシアが21年に調達した主流の「x86サーバー」は15万8000台に上る。そのうちロシア企業の製造は27%、欧米企業の製造は39%、残りはアジアでの製造だったという」

 

ロシアのサーバー不足が深刻になっている。数万台規模で必要な状況である。サーバーの国内供給は3割弱である。これも、半導体供給が杜絶すれば国内生産は不可能になる。サーバーの生産が止まれば、ロシア社会はストップする。