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ロシアのプーチン大統領は、意気軒昂である。西側諸国から経済制裁を受けているが、ロシアの経常収支黒字は資源価格の高騰で、今年1月~5月に約3倍増の1100億ドル(約14兆5600億円)にも達している。このまま行けば、今年は過去最高の経常黒字となる見通しだ。

 

いったい、ロシアへの経済制裁はいつから効き出すのか。この夏から秋にかけて、ロシア経済の問題点が浮き彫りになる。失業率の顕著な上昇である。GDP成長率は、今年と来年の2年間のマイナス成長によって、過去の成長率をゼロにするほどの効き方になると予測されている。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月17日付)は、「対ロシア制裁、まだ効かないのはなぜ」と題する記事を掲載した。

 

ロシアに対する制裁は、エネルギー価格高騰という予想外の恩恵によって相殺され、十分な経済的痛みを与えられずにいる。ロシアの戦争遂行努力を妨げ、ウラジーミル・プーチン大統領を交渉の席に着かせる狙いはうまくいっていない。ただ、この「耐性」は長続きしないと見られている。年内に深刻な景気後退が始まり、貧困が拡大し、経済的潜在力が長期的に低下すると多くのエコノミストが予測している。今のところ、制裁を科すペースが遅く、ロシアの経済安定化への取り組みが成功し、石油・ガス輸出を継続できていることが、同国に与える打撃を和らげている。

 

(1)「ドイツ国際安全保障問題研究所のロシア経済専門家ヤニス・クルーゲ氏は、「現時点で、経済制裁はロシアに交渉に臨む動機を与えていない」と指摘。「ロシア政府は数年間の景気悪化を乗り切り、好転するまで待てるだろうと確信している。西側の制裁をかわすのに成功していることが、ロシアをつけあがらせている」。ロシアのサンクトペテルブルクで今週開催されている国際経済フォーラムには、例年ここに集う世界の政治、経済、実業界のリーダーたちの姿がなかった。

 

現在のロシアは、経済制裁によって資源価格が高騰してその恩恵に浴している。制裁のマイナスをはるかに超過している。

 


(2)「欧州はエネルギー面のロシア依存脱却に躍起となるが、ロシアは世界的な価格高騰のおかげもあって毎日何億ドルもの石油・ガス販売収入を得ている。その結果、ロシアの対外貿易の指標である経常収支の黒字額は、今年1月~5月に約3倍増の1100億ドル(約14兆5600億円)に達した。このまま行けば今年は過去最高の経常黒字となる見通しで、ロシアは準備金を相当積み増せる。ロシアはこの潤沢な資金を緊急時に備えるためではなく、経済の下支えに使っている」

 

今年1月~5月で経常収支の黒字額は前年比、約3倍増の1100億ドルにも達している。その分が、制裁を科している西側諸国の負担になる皮肉なことが起こっている。独仏が、ウクライナ支援に二の足を踏み始めた背景である。

 

(3)「国際金融協会(IIF)は今月取りまとめた報告書の中で、「ロシアの構造的な経常黒字はバッファーの迅速な構築につながり、制裁の効果が時間と共に低下するのは必至だ」と指摘した。IIFの試算によると、資源価格が高止まりし、ロシアがこれまで通り石油・ガス輸出を続けるならば、ロシアは今年、3000億ドル以上のエネルギー販売代価を受け取る可能性がある。これは西側の制裁で凍結されたロシアの外貨準備の額にほぼ匹敵する」

 

ロシアは今年、3000億ドル以上のエネルギー販売代価を受け取る可能性があるという。凍結された外貨準備高に匹敵する。これでは、プーチン氏も鼻息が荒くなろう。

 


(4)「西側諸国にとっては、ロシアへの締めつけを強めるほど、消費者物価の急上昇に直面する自国経済の巻き添えリスクが高まるという現状がある。リスクとのバランスを図るため、西側諸国はエネルギー関連の制裁に慎重にならざるを得ない。欧州連合(EU)がロシア産石油の90%の輸入停止で合意したのは大きな一歩だが、この措置が完全に効力を生じるのは今年末だ。プーチン氏は、西側が仕掛けた経済の電撃戦は失敗したと主張し、制裁の経済的影響を小さく見せようとしている。だが短期的な危機を回避できたのは、ロシア中央銀行が迅速に策を講じたことによるものだ」

 

EUは、ロシア産石油の90%の輸入停止措置を行なうが、完全に効力を生じるのは今年末からである。それまで部分的にしか、制裁効果は発揮しないである。タイムラグがあるのだ。

 


(5)「西側が科す制裁の影響は一様ではない。金融セクターの制裁――ロシアを世界的な決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除し、ロシア中銀との取引を禁じるなど――は即効性があるものの、マクロ経済に影響が出るのは時間がかかるとアナリストは言う。IIFの報告書は、「経済制裁は一夜にしてロシアの行動を止めることはできない。行動を続けることで支払う代償を引き上げるのが狙いだ」と指摘した。「その代償は最終的に、ロシアのウクライナに対する戦争が法外に高くつく水準に達する可能性がある」 それがいつ頃になるかは不明だが、すでに将来の経済停滞の輪郭は見え始めている。経済への影響は今年下半期に拡大する見通しだ。アナリストの予想では、これまで横ばいだった失業率が今秋には上昇するという。ロシア事業の縮小を表明した1000社余りの外資企業の多くは、労働者に賃金を払い続けている」。

 

ロシア経済への影響は、今年下半期から拡大する見通しだ。具体的には、今秋から失業率の目立った上昇が始まると見られる。現状では、外資企業の1000社余りが労働者へ賃金を払い続けている。これも秋頃には期限切れになるからだ。

 


(6)「前出のドイツのロシア経済専門家ヤニス・クルーゲ氏は、「夏から秋にかけてロシア経済の問題点が、徐々にではあるが増大するだろう」と語った。IIFはロシア経済が今年は15%、2023年も3%のマイナス成長になると予想。それによって約15年分の経済成長が消し飛ぶとみている。ロシアの今年の国内総生産(GDP)の落ち込みをより控え目に予想するアナリストもいるが、それでも10%程度は減少する見込みだという。ロシア中銀のアナリストは、今後経験するのは「産業化の逆行」だと話す。すなわち、より前の段階の技術を生かした経済成長だ」

 

IIFは、ロシア経済の今年の成長率がマイナス15%、2023年もマイナス3%成長率になると予想する。この2年間のマイナス成長で、過去15年分の成長率が帳消しになり、古い技術による経済成長を余儀なくされる、というのだ。