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習近平氏は焦っているようだ。23日からのBRICS(中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカ)首脳会議で、BRICSを米欧との対抗軸に押し上げる「策略」を練っていると伝えられる。

 

習氏は22日、中国やロシアなど新興5カ国(BRICS)の関連会合で演説した。ロシアの侵攻によるウクライナ危機を巡り、「実力に基づく地位を妄信して軍事同盟を拡張し、他国の安全を犠牲にすれば必然的に(自国の)安全も苦しい立場に陥る」と主張した。米国が、主導し対ロで結束を強める北大西洋条約機構(NATO)を批判したものだ。習氏は、「制裁はブーメランであり、もろ刃の剣だ」とも語り、米国がロシアに科している制裁に改めて反対した。

 


この習氏の演説は、今後の米欧との関係をさらに悪化させることは確実である。ウクライナ侵攻では、一貫してロシアを支持する立場を見せているからだ。これによって、西側諸国の怒りを一層買うことは確実である。中国にとっては、経済的にはロシアよりも欧州の関係が重要である。その関係性を自ら絶つような演説である。外交的には失敗である。

 

中国が、今年の新興5カ国(BRICS)首脳会議を利用しようとするのに対し、インドは抵抗する構えだ。事情に詳しい複数のインド政府当局者が明らかにした。『ブルームバーグ』(6月22日付)が報じた。この報道通りになれば、習氏の思惑は外れることになろう。インドは、これまでロシアへ依存してきた武器供給を、米英仏イスラエルなどと共同開発する方向へ舵を切っている。それだけにBRICSが一本化して、米欧への対抗に与することにはなるまい。

 


『日本経済新聞 電子版』(6月23日付)は、「米欧と対抗、BRICS軸に 中国が模索」と題する記事を掲載した。

 

中国の習近平国家主席は23日、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカと構成するBRICSのオンライン形式による首脳協議を主宰する。中ロへの非難を強める米欧に対抗するため、BRICSの連携を強めようとしている。

 

(1)「習氏は22日の関連会合で演説し「痛ましい歴史が示すように覇権主義、集団政治、陣営間の対立は戦争と衝突をもたらす」と強調した。ロシアの侵攻によるウクライナ危機をめぐって「実力に基づく地位を妄信して軍事同盟を拡張し、他国の安全を犠牲にすれば必然的に(自国の)安全も苦しい立場に陥る」とも主張した。米国が主導してロシアに圧力をかける北大西洋条約機構(NATO)を批判した発言だ」

 

中国は、伝統的に「同盟」を毛嫌いする性癖がある。相手が団結して中国へ圧力をかけることに恐怖を感じているからだ。「合従連衡」が中国外交の基本だ。秦の始皇帝は、合従(同盟)を壊して連衡(一対一の関係)へ持ち込み、中国を統一した経緯がある。習氏も、この手を使おうと考えているのだ。古い手である。

 

(2)「BRICSの枠組みによる連携で、大きなカギをにぎるのはインドだ。インドは日米やオーストラリアとともに構成する4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」に入る一方で、ウクライナに侵攻したロシアへの非難は見送っている。インドは兵器輸入の約5割をロシアに頼る。インドと中国には国境係争地での対立がある。中国は経済での結びつきを強めて取り込む戦略を描いているとみられる。中国国営の新華社は6月9日に中印の貿易額が2021年に初めて1000億ドル(約13億5000万円)を超えたと伝えた」

 

インド最大の敵は、中国である。国境線で繰返される武力紛争がそれを示している。インドが、好き好んで中国の片棒を担ぐはずがない。中国が、インドへ接近しているとすれば、外交的に米欧と対立して苦しい立場に立たされていることを示すものだ。

 


(3)「インド市場には、中国の小米(シャオミ)やOPPO(オッポ)などのスマホメーカーが進出。中国もインド産の唐辛子やクミン、フェンネルなどの香辛料を大量に買い入れている。新華社は「中印の市場や人口に比べ両国の貿易額はまだ不十分」との見方を伝え、今後さらに貿易額が膨らむ可能性があると指摘した。中国が主導して設立したBRICS諸国が運営する新開発銀行(NDB)は5月にインドに地域事務所を設立したと発表した。NDBは上海に本部を構える。インフラ整備や農村振興などを支援し、インドを引き寄せる狙いがありそうだ」

 

BRICS諸国が運営する新開発銀行(NDB)は、中国の主宰するAIB(アジア投資銀行)と同じで、屋上屋を架すことで無駄な存在だ。中国は、NDBへ資金を供給する余力がなくなっている。AIBも開店休業状態だ。

 


(4)「習氏は、24日には加盟国以外の新興国や途上国もオンライン協議に招く。中国は5月のBRICS外相協議で、王毅(ワン・イー)国務委員兼外相が加盟国の拡大を検討する考えを明らかにした。インドネシアやサウジアラビア、アルゼンチンなどを想定しているとみられる。ただ、中ロとの接近を強く印象づけるBRICS加盟には慎重な国が多いとみられる。インドも当初は先進国への対抗軸として新興国の枠組みに強い関心を示していたが、現在は中国に対抗するクアッドに軸足を移している」

 

中国は、BRICS加盟国を増やす意向という。参加するメリットがなければ、加盟国は増えないだろう。中国が本気で、米欧との対抗を策しているとすれば墓穴を掘るようなものだ。いくら弱小国を集めても、強国集団にはならないのだ。中国は、悪あがきしている。これによって、ますます米欧との溝が深まる。