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米国は、40年ぶりの消費者物価上昇率になった。欧州もほぼ同じ傾向である。日本もその余波が押し寄せている。供給制限が、物価上昇の理由と見られがちである。だが、隠れた要因として海上運賃の高騰がある。中国のゼロコロナに伴う都市封鎖で、上海港は2ヶ月も船舶が動けなかった。また、過去のパンデミックで新造船の建造が遅れた要因も影響した。

 

IMF(国際通貨基金)の試算では、世界物価上昇のうち、1.5ポイントが海上運賃値上りの影響という。この状態は、最長1年は続くとみられる。厳しい状況は、これからが本番と言えそうだ。

 


『ロイター』(6月21日付)は、「貨物船不足で老朽船賃料まで高騰 世界的インフレ助長も」と題する記事を掲載した。

 

新型コロナウイルス対策の厳しい規制措置に起因する世界貿易の混乱に新造貨物船不足が重なり、本来なら解体されるはずの老朽船の用船料(賃料)が記録的水準に達している。海上輸送コストの高止まりは、この先何年も世界的なインフレを助長する恐れがある。6月21日、新型コロナウイルス対策の厳しい規制措置に起因する世界貿易の混乱に新造貨物船不足が重なり、本来なら解体されるはずの老朽船の用船料(賃料)が記録的水準に達している。

 

(1)「海運調査会社クラークソンズ・リサーチによると、世界のコンテナ輸送量は18年に5.6%、19年に4%伸びた後、パンデミックが起きた20年も2.9%増加した。しかしロックダウン(都市封鎖)期間中に消費財の需要が急拡大した上に、港湾で貨物処理が滞って想定より長く船舶が足止めされ、さらに新環境基準順守問題を巡る不透明感との兼ね合いなどから新造船の供給が鈍化した影響で、貨物船需給が引き締まり、用船料が高騰した。コンテナ輸送量は昨年も4.5%増加。これは主に老朽船を解体せず使用し続けたためだったが、用船料押し下げには至らなかった」

 

世界のサプライセンターである中国が、ゼロコロナ政策によってロックダウンした影響が、広範囲に及んでいる。貨物船不足に加え、中国の港湾機能の停止が、海上運賃の高騰をもたらしている。

 


(2)「ロイターが、過去半年で締結された定期用船契約30件を調べたところ、船主側は数十年に1度の強気市場を背景に期間を長く、しかも用船料を極めて高水準に設定していることが分かった。海上運賃情報プラットフォーム企業ゼネタの指数に基づくと、5月のコンテナ輸送コストの上昇率は30.1%と、長期輸送運賃の月間ベースで過去最高になった」

 

船主側には、思いもよらぬ利益が転がり込んだ形だ。5月のコンテナ輸送コストの上昇率は30.1%にも上がった。

 

(3)「国際通貨基金(IMF)は、昨年のコンテナ輸送コスト上昇は世界の物価を1.5%ポイント押し上げ、米国の物価上昇率に占めるウエートはおよそ25%だったと見積もっている。IMFのアジア太平洋部門シニアエコノミスト、ヤン・キャリエールスワロー氏は「海上輸送コストが物価動向に及ぼす影響は大きく幅広い。世界中の国に波及しつつある」と指摘。ロシアのウクライナ侵攻に伴う食料や原油の値上がりを消費者が実感するのは2カ月以内だが、海上輸送コスト上昇の影響が全面的に感じられるようになるのは最長で1年もかかると付け加えた」

 

米国は、40年ぶりの物価上昇率8.5%(5月)に苦しんでいる。このうち、およそ25%分が海上運賃の高騰によるものという。米国は、生産機能の多くを海外へ移転したので、輸送コストの増加の影響を大きく受けている。

 

(4)「中国では、新型コロナウイルス感染症の再拡大で港湾施設がまだうまく機能しておらず、造船会社は過去最高の新造貨物船を発注されているものの、大半は来年か2024年以降まで就役しない。国連貿易開発会議(UNCTAD)の物流問題責任者ヤン・ホフマン氏は、「高止まりしている海上輸送料は来年のかなりの時期まで消費者物価に上昇圧力を加え続けるだろう。輸送料はまだこの先何年も、コロナ禍前より高い状態になるのではないか」と述べた。2人の船舶ブローカーが提供したデータによると、現在カリフォルニア州と中国の間を航行している貨物船「ナビオス・スプリング」は1月に3年の定期用船契約が結ばれ、用船料は1日当たり6万ドルと2年前の同8250ドルのおよそ7倍になっている」

 

カリフォルニア州と中国の間を航行する貨物船の定期用船契約は、1日当たり6万ドルと2年前のおよそ7倍に跳ね上がっている。

 


(5)「主要企業の発注した巨大新造船の多くが、就役する来年ないし2年後には、貨物船需給ひっ迫局面は終わりを迎える可能性がある。世界海運協議会(WSC)のデータでは、昨年発注されたコンテナ船は計555隻、総額425億ドルと過去最高を更新。今年これまでにも208隻、総額184億ドルの注文が出ている」

 

主要企業の発注した巨大新造船の多くは、就役する時期が来年ないし2年後にという。それまでは海上運賃の高騰の影が残る。