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ドイツ経済は、1990年の東西ドイツの統合後、経済成長失速に見舞われた。だが、EU(欧州連合)発足の1993年を機にして、ドイツにとって割安なユーロを武器に輸出急拡大を実現した。特に、ロシアや中国への接近が、ドイツ経済の起死回生につながった。

 

その中ロが、西側諸国にとって安全保障上のライバルになった以上、ドイツのロシアや中国への政策は抜本見直しを迫られている。大きな衝撃である。

 

米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月28日付)は、「ドイツの牧歌的状況の終わり」と題するコラムを掲載した。

 

先週末、ドイツは平常通りに見えた。柔和なオラフ・ショルツ首相は他の先進7カ国(G7)首脳やゲストたちを、バイエルン州のアルプス山脈に囲まれた豪華なエルマウ城に迎え入れた。しかし、外見は当てにならない。ドイツは第2次世界大戦後の連邦共和国の建国以来、最大の試練に直面している。

 


(1)「これは突然起きたことだ。2020年の時点では、ほぼ全世界がドイツの独善的な自己評価に同意していた。つまり、ドイツは世界で最も成功した経済モデルを構築し、世界で最も野心的な気候変動対策に着手しておおむね成功し、極めて低コストで自国の安全保障と国際的な人気を確保する「価値に基づく外交政策」を完成させた、というものだ」

 

これまで、ドイツの経済成長は順風満帆であった。対米外交では、独自性を主張して「我が道を行く」スタイルであった。中ロに太いパイプを築いてきたからだ。防衛費も対GDP比1%と最低に抑制してきた。この状況が、ロシアのウクライナ侵攻で、根本から引っ繰り返った。

 


(2)「そのいずれも真実ではなかった。ドイツの経済モデルは世界政治に関する非現実的な想定に基づいており、現在の混乱を乗り切れる可能性は低い。ドイツのエネルギー政策は大混乱しており、他の国々にとって何をすべきでないかを示す格好の例となっている。ドイツの「価値に基づく外交政策」への評判は、ウクライナ支援をめぐる煮え切れない対応によって大きく傷ついた。そして、ドイツの安全保障専門家らは、非常に不愉快な真実を受け入れつつある。攻撃的なロシアと対峙(たいじ)すると、ドイツは欧州全体と同様に、安全保障面で米国に完全に依存するということだ」

 

ドイツは、ウクライナ侵攻後に大慌てで米国から防空システムを購入した。防衛費も対GDP比2%へ引上げると発表し、「歴史的転換点」と国際情勢急変に驚愕した。日本と比べて、極めてナイーブであり過ぎたのだ。それまでのドイツは、日米一体化を日本外交の独自性喪失とみていたほど。ドイツは、目を覚ましたのだ。

 


(3)「ショルツ氏と同氏の連立政権は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻を受け、ドイツの基準で見れば一連の「革命的な変化」で対応してきた。ドイツは再軍備を始めているほか、出だしでつまずきながらもウクライナに兵器を供与している。野心的な気候変動政策を犠牲にしてまでも、ロシアからエネルギー面で独立するための第一歩を踏み出した。石炭火力発電所を徐々に復活させ、新たな天然ガス処理工場を建設する予定だ。欧州全体に対しては、もはや現実的に思えなくなった脱炭素の義務化の先送りを求めている」

 

このパラグラフのように、ドイツは空想的世界でうたた寝を愉しんでいた。エネルギー政策は、ロシア(天然ガス)とフランス(原発)に依存し、自らは手を汚さずに気候変動政策に熱中してきた。これらの人任せのエネルギー安保政策が破綻したのだ。かねてから、米国が厳しく批判して来た点である。

 

(4)「しかし、本当の仕事はまだなされていない。現代ドイツの国づくりは、何よりも経済プロジェクトだった。1949年に再建された瞬間から、中心的な目標は経済成長だった。経済成長は戦争による破壊を修復し、平和的な西欧への統合を促進し、共産主義の魅力を低下させた。国民の多大な努力、政治家の現実的な政策、企業経営陣の技能と決意、そして米国主導の世界秩序の形成がもたらした望ましい国際環境により、ドイツ経済は最高潮に達した」

 

ドイツは、米国主導の世界秩序(NATO)の下で、経済的繁栄を謳歌してきた。この批判は、安倍政権登場までの日本へも向けられた批判である。世界の安全保障政策に責任を分かち合わないという共通の批判だ。

 


(5)「近年のドイツの経済的な奇跡は、工業力、ロシアから調達する安いエネルギー、世界市場(とりわけ中国市場)へのアクセスという三つの要素に依拠してきた。現在、これらの全てが脅威にさらされている。1世紀にわたる産業界の取り組みを通じてドイツが身に付けてきた自動車の技術は、電気自動車(EV)へのシフトによる挑戦を受けている。19世紀以降、自国の技術で世界をけん引してきた化学業界は、世界的な競争が激化する中、環境面での試練に直面している」

 

ドイツの経済的な奇跡は、次の三つの要素に依存してきた。

1)高い工業力水準

2)ロシアから調達する安いエネルギー

3)中国市場へのアクセス

 

ドイツは、前記の「成長三要素」のうち、ロシアを失い、中国はセーブされる。大きな痛手になることは避けられまい。

 

(6)「ショルツ氏は、リベラルな価値観の重要性や気候変動の危険性に関して、理論上はジョー・バイデン米大統領に賛同するかもしれない。しかし、ドイツの実情を踏まえて計算するはずだ。当然ながら、それはロシアや中国との関係をいかに修復すべきか、という考え方につながる。バイデン氏の仕事は、ショルツ氏とともに西側の価値観を賛美することではなく、米国による安全保障の傘には代償が伴うことを独政府に理解させることだ。世界中で危機が拡大し深刻化している今、米国の政治的現実を考えれば、ドイツは米国を支えるためにさらに行動しなければ米国からの支援継続を期待することはできない」。

 

ドイツは、いずれ自国の国益追求でロシアや中国の関係修復に動き出すかも知れない。だが、ドイツは安全保障で米国を助ける行動が求められる。そうでなければ、米国から安保上のメリットを受けられないことを知るべきである。日本は、すでに日米安全保障で同一歩調を取っている。ドイツも、同じことが求められるであろう。