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先のG7首脳会議は、ロシアへさらなる経済制裁を見送った。効果は確実に出始めた。資源高騰で外貨を稼いでいるが、経済制裁で部品や技術の供給が止まっている。これにより、国内の鉱工業生産に大きな影響が出る。4月は、3.0%のマイナス成長に落込んだ。これから、マイナス幅が拡大されるはずだ。

 

『日本経済新聞』(6月30日付 経済教室欄)は、「ロシア経済の強さと弱さ 制裁に伴う在庫不足、大打撃」と題する記事を掲載した。筆者は、ロシア・ユーラシア政治経済ビジネス研究所代表の隈部兼作氏である。

 

2月24日に始まったウクライナ侵攻により、ロシア経済を取り巻く環境は激変した。西側諸国は外貨準備の凍結、ロシア主要行の国際銀行間通信協会(SWIFT)排除、エネルギー資源の一部禁輸、半導体などの輸出制限、対ロ新規投資の禁止など、ロシアを国際金融システムや世界経済から孤立させる措置を次々と導入した。ウクライナは欧米諸国から供与される重火器などで反撃しており、紛争は長期化が予想される。

 


(1)「貿易に関しては、ロシア税関庁は侵攻後に通関統計の公表をやめている。対ロ輸出入の60%以上を占める欧州連合(EU)、米国、日本、中国、インドの統計から、これらの国の対ロ貿易が侵攻前後でどう変化したかを見る。34月の対ロ輸入は米国を除き前年比で増えた。資源価格の高騰が主因だ。ただし、制裁に参加している米国、EU、日本は減少傾向で、いち早くエネルギーを禁輸した米国は4月に前年同期比15%減少した。一方、制裁に参加していない中国は4月に57%、インドは253%増加させており、制裁参加国と非参加国の違いが鮮明だ」

 

インドと中国は、ロシアからの原油輸入が激増している。対ロ制裁で西側諸国は減少し、好対照である。

 

(2)「特筆すべきは制裁に参加していないインドで、割安なロシア産ウラル原油の輸入を急増させており、ロシアの原油輸出に占める割合は侵攻前の1%から18%に拡大した。インドは輸入した原油を精製し、その一部を米国、フランス、イタリア、英国などに輸出している。インドや中国が制裁の抜け道になると懸念していた欧米諸国は、ロシア産原油が原料であることを知りながら、インドからの石油製品輸入を増やしている。EUはロシア産石油を輸送する船舶への保険提供を禁止し、制裁を科していないインドなどへの輸出を制限する効果に期待するが、こちらも6カ月間の猶予期間があり即効性はない」

 

インドは、急増するロシア原油を精製して第三国へ輸出して利益を上げている。この便乗商法は、秋に船舶への海上保険付保が禁止されるので、不可能になる。西側諸国は、インドを陣営へ取り込もうとしており、見て見ぬ振りをしている。

 


(3)「6月に入りロシアから欧州へ天然ガスを輸送するパイプライン「ノルドストリーム」の輸送量が60%減少した。ロシア側の報道によれば、西側企業の撤退で出荷基地の保守・点検・修理ができなくなった。制裁による西側企業の撤退は、エネルギー禁輸よりも早くロシアのエネルギー産業に影響を与えそうだ」

 

下線部は、極めて重要だ。ロシアの原油出荷基地では、保守・点検・修理業務の6割を西側企業が担ってきた。西側企業の撤退で、前記業務が大幅に滞っている。これにより、ロシアは原油の生産減に追い込まれる。

 

(4)「各国の対ロ輸出をみると、3月以降大幅に減少した。制裁を科していない中国やインドも減少している。SWIFT除外の影響による海外送金の停滞、半導体などの先端技術の輸出制限強化、サプライチェーン(供給網)の分断などにより、ロシアのビジネス環境は急速に悪化し、企業の撤退や工場の操業停止が相次いでいる。これらの制裁は即効性が高く、ロシアは原材料、設備、部品、高度な技術などを西側から調達することが困難になった。現時点で電子部品などを海外から輸入する自動車工場はすべて操業を停止している」

 

ロシアの輸入ビジネスが、禁輸の影響を真っ正面から受けている。ロシアは、モノカルチャー経済ゆえに、禁輸の影響は甚大である。想像を超えるマイナス効果が及ぶはずだ。

 


(5)「ロシア中央銀行の調査では、ロシアの製造業の約4割が代替サプライヤー(部品会社など)を見つけるのが困難で生産に支障を来している。夏以降の生産に不安を抱く企業も多い。
ロシアは資源価格の高騰で外貨を稼げても、必要な物資や技術を海外から調達できない状況にある。エネルギー資源の生産・輸出についても、今後は西側企業の撤退により保守・点検・修理などが困難となり、生産量が減少する可能性が高い。中長期的にはエネルギー禁輸や船舶保険の提供禁止の発動により輸出も減少していくと考えられる

 

ロシアは資源価格高騰で外貨を稼いでいるが、その外貨を使った肝心の輸入ができないのだ。モノカルチャー経済最大の弱点である。中長期的には、海上保険の付保禁止の影響が、これからのし掛ってくる。

 

(6)「4月以降のロシア経済は景気後退が一段と鮮明になった。1~3月の実質経済成長率は3.%に達したが、4月は3.%のマイナスとなった。鉱工業生産は1.%減、小売売上高は9.%減など、経済指標は軒並み悪化している。1~5月の経常収支は資源価格の高騰による輸出増加と輸入激減から1103億ドルの黒字を計上し、一時暴落したルーブル相場は侵攻前よりも強くなった。だが、外貨があっても必要な物資や技術を海外から調達できない結果ともいえる」

 

外貨があっても、必要な物資や技術を海外から調達できない結果、下線部のように経済指標は軒並み悪化している。インドや中国では、その代役ができないのだ。

 


(7)「ロシアの連邦財政をみると、14月は歳入が前年比34%増えた。資源価格の高騰で石油ガス収入が91%増えたことが大きい。他方、非石油ガス収入は制裁による景気後退で5.%の増加にとどまり、侵攻後の34月は単月で前年よりも減少した。一方、歳出は3月以降急増し、4月は前年比40%増えた。ロシア財務省は侵攻後、歳出の内訳を公表せず詳細は不明だが、一部報道から算出すると4月の国防費が前年比約150%増えたことが原因とみられる。4月の連邦財政は赤字となった。22年の国防予算は3.5兆ルーブル(約9兆円)が計上されていたが、4月時点で4割強の1.5兆ルーブルが使われたことになる」

 

歳入は、石油関連が増えても非石油関連が減少し、トータルでは減っている。歳出は、国防費関連が激増し、財政赤字に陥っている。

 

(8)「今後も国防費が膨らむのは確実だ。ロシア政府は4月に国民福祉基金の資金の繰り入れと使途に関するルールを変更した。同月だけで基金残高は約2兆ルーブル減っており、戦費流用の可能性を指摘する専門家もいる。今後問題になる失業対策や年金などの社会保障についても、国防費が財政を圧迫する中で手当てせねばならない。原材料や部品の在庫が底をつき始める夏以降に、経済は厳しい状況になるだろう」

 

国防費激増分を賄うべく、国民福祉基金を流用し始めている。財政も悪化は必至である。輸入の原材料や部品の在庫が、夏以降に底をつく。これから、ロシア経済の危機が表面化するだろう。