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旧ソ連崩壊(1991年)から32年で、再び「第二次冷戦」思考が復活する事態になった。6月30日にNATO(北大西洋条約機構)首脳会議は、新戦略概念の発表で、ロシアを「脅威」と規定した。有事の際には即時、30万の兵士を動員する体制を構築すると宣言しており、ロシアに対する抑止力を働かせる。

 

第二次世界大戦(1945年)後から1991年まで、米ソ対立(第一次冷戦)が続いた。ソ連崩壊で世界は平和な時代が来ると期待したが、ロシアのウクライナ侵攻によって夢は敗れた。ロシアのプーチン大統領は、公然と領土拡大が歴史の使命と宣言しており、自ら第二次冷戦を宣言したようなものである。これを受けた形で、NATOはロシアを「脅威の対象」と規定した。

 


英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月30日付)は、「NATO、ロシア抑止で冷戦期のドクトリン復活」と題する記事を掲載した。

 

ロシアの本格的なウクライナ侵攻を受け、欧州の防衛を支える基盤は北大西洋条約機構(NATO)であることが再確認され、NATO首脳は冷戦期のドクトリンが復活する今、ロシアにいかに立ち向かうか再考を迫られた。

 

(1)「NATO首脳会議で発表された宣言は4つのポイントからなる。

1)有事の際に即応できる部隊の7倍への増員を目指す

2)NATOの東方前線で初めて米軍の常設司令部を設ける

3)フィンランドとスウェーデンの加盟を認める

4)今後10年の指針となる新「戦略概念」ではロシアとの連携という幻想を捨てる。NATOで重視すべき点が本質的に絞り込まれた格好だ」

 


NATO防衛線が、ロシア軍によって突破されやすい地点は、バルト3国とされている。そこで、ポーランドに米軍の常設司令部を置き、ロシア軍を監視して戦術を編み出すという役割を担うことになった。ロシア軍にとって、急所を突かれた感じだろう。

 

(2)「NATO首脳宣言は、「我々は共同軍事訓練を強化して高強度のマルチドメイン(多領域横断)作戦への準備を整えるとともに、短期間での加盟国への増援体制を強化する」と表明した。「これにより、敵の目的遂行を阻みNATOの領土への侵攻を食い止める」という。英国王立防衛安全保障研究所のマルコム・チャルマーズ副所長は、NATOが「冷戦時代の任務に戻り」、最大の目的として「ロシアの抑止力となること」を掲げていると語った」

 

冷戦時代は、米軍が有事に即応できる体制であった。NATO軍は、これに代わって短期間に兵力を集中させる機動力をつけることになった。

 


(3)「NATO元事務次長のローズ・ゴッテモラー 氏は、NATOが「有事の際の即応体制を大幅に刷新」することで合意したと語った。「ロシアを抑止するために、より効率的で効果の高い方法が必要だ。それは領土を守る準備と戦力を初動から備えることに他ならない」。事前配置する戦闘部隊の増強も1つの手段だ。米国はルーマニアに5000人、英国はエストニアに1000人の兵士を追加派遣すると表明している。だが、ゴッテモラー氏によると、最大の変化はNATOが即応部隊の大幅増員を約束したことだという。各国部隊を適した地点、適した任務に配備するプランニングが進んでいることにもそれが表れている

 

ウクライナ軍は、機動力に優れていると評価されている。これは、NATO軍による訓練の成果である。NATO軍は、この機動力にさらなる磨きをかけて、ロシア軍に対抗・撃破するシステム作りに着手する。

 

(4)「有事の際に30日以内に出動できる即応部隊を30万人に増員する計画は冷戦時代のドクトリン復活を意味し、軍司令官は特定地域で敵から受けた攻撃を想定し、具体的にどの部隊や兵器を使って応戦していくか詳細な計画を用意する必要がある。そうした即応体制を支援するのは米国がポーランドに設置する常設司令部であり、NATOが加盟国から部隊派遣の約束を取りまとめたうえで23年に設置される予定だ」

 

NATO軍は、即応部隊を30万人に増員する。その司令塔は、ポーランドに設置する米軍の常設司令部が当る。脆弱なバルト3国の防衛線を守るためだ。ロシアは、このバルト3国の併合を狙っている。

 

(5)「米シンクタンク大西洋評議会のシニアフェロー、レイチェル・リゾ氏は「米国は欧州の同盟国とともに、NATOの東欧加盟国の懸念を払拭する方策を懸命に探り当てようとしている。同時に、東欧における前線配備と抑止策を強固にしてプーチン(ロシア大統領)を十分かつ確実に思いとどまらせようともしている」と話す。30万人の即応部隊を実現させるうえで、大規模な戦闘部隊を配備するよりも、永続的にプランニング、訓練、命令指揮機能を与える米国の常設司令部が重要になるとゴッテモラー氏は言う」

  

NATOは今後、東欧加盟国の懸念を払拭することに最大の努力を払う。ポーランドはかねてから、ロシアの欺瞞性を鋭く指摘してきたが、NATO内部では重視されなかった。今回のウクライナ侵攻で、これが立証された形だ。NATOは、ポーランドの主張を大幅に飲まざるを得ない事情にある。

 


(6)「在欧米陸軍司令官だったベン・ホッジ氏は、「冷戦時代に必要だった規模は不要だが、コミットメントの姿勢を示すことと実際に能力を備えることが重要だ。特に防空・ミサイル防衛体制、軍司令部、兵たんといった能力は非常に重要になる」と言う。「これは大幅な兵力増強だ、しかも強力な武器になる」。ウォレス英国防相は米国の派兵は、「引き続き同盟国に安心してもらうために欧州駐留米軍を増強する」意志が、米国にあることを示していると述べた。しかしNATOが今週、首脳会議に合わせて即応部隊の30万人への増強を大々的に発表したとはいえ、NATO高官は増強計画がまだ概念的なものにすぎず、実際の構成や規模は加盟国が軍隊派遣を正式に約束するまで不透明なままだと認めた」

 

米国は、NATOへ大幅に肩入れする形になった。中国が、ロシア支援に動いているのは、米国を欧州に釘付けする意図であろう。これを深読みしている米国は、中国をロシア同様にNATOの「厄介国家」に指名した。中国をけん制するためだ。中国は、自由世界の包囲網に取り込またのである。

 

米国が、ウクライナ侵攻で軍隊を派遣しないのは、中国軍の動きを警戒しているためだ。米国にとっては、中国との戦闘が死活的意味を持っている。ウクライナでは力を温存して、中国との一戦に備えているのが真相である。