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ロシアのルーブル相場が高騰している。ウクライナ侵攻前は、1ドル75ルーブルと安定していたが、開戦によって一時は158ルーブルまで暴落した。その後は、資源価格の高騰によって現在は51.25ルーブル(7月1日終値)へと大幅な値上りである。

 

ロシア政府は、このルーブル高騰によって歳入が減少するという新たな悩みに直面している。経済制裁によって西側諸国との取引を禁じられているので、相場介入もできずにただルーブル高を傍観するばかりだ。そこで、友好国とルーブルへの相場介入を目指しているというのである。

 


『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月30日付)は、「ロシアの意外な悩み、ルーブル高」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナとの戦争が膠着する中、ロシアは外貨建て国債で1世紀ぶりのデフォルト(債務不履行)に陥った。通貨ルーブルの暴落を予想する声が出てもおかしくないが、ロシアは正反対の悩みを抱えている。

 

(1)「ルーブルは足元、対ドルで約7年ぶりの高値に急伸。ウクライナ侵攻直後の急落から驚くべき復活を遂げた。29日時点で、ルーブルは今年に入り対ドルで41%上昇と、主要通貨の対ドル相場で値上がりトップに立っている。ダウ・ジョーンズ・マーケット・データが56通貨を分析した」

 

ルーブルは、今年に入って対ドルで41%もの上昇である。経済制裁によってドル売りができないため、ルーブルの異常高を招いている。これが、資源輸出代金を半減させる事態になった。財政的にはSOSである。

 


(2)「通貨高は痛みを伴う。ルーブル高はドル建ての石油・ガス収入の価値を目減りさせることで、財政を圧迫しかねない。キャピタル・エコノミクスの新興国エコノミスト、リアム・ピーチ氏は、今のルーブルは「ロシアにとって強すぎる」と話す。ルーブルは3ヵ月前と比べて対ドルで2倍近くに値上がりしており、ルーブル換算の石油・ガス収入は約半減しているという。「財政への打撃が続く公算が大きいことで、政策担当者は懸念を強めているはずだ」と指摘」

 

ルーブルの異常高によって、ロシア財政が困窮している話は初めてである。巷間、資源高で戦費を賄っているとの説が流れた。実態は逆であった。これも、経済制裁の効果に数えられる。

 


(3)「ロシアのアントン・シルアノフ財務相は6月29日、新たな通貨高抑制案を発表。「友好国」の通貨を購入して、対ドル・ユーロでのルーブル相場に影響を与えることを目指すという。背景には、西側諸国が発動したロシア制裁により、ロシア銀行(中央銀行)が従来のようには為替市場に介入できないことがある。ピーチ氏は、ロシアは西側の制裁措置により、単純にルーブルを売ってドルを買うことができないという問題を抱えていると指摘する。「そのため、友好国との間でやろうとしている」と言う」

 

友好国とは、中国のことだ。ロシアと中国の間でルーブル売り=ドル買いの操作をして、ルーブルの値段を下げる(ルーブル安)のであろう。

 


(4)「4カ月前、ロシアは全く異なる問題に直面していた。ウクライナ侵攻直後のルーブル暴落で、ロシア当局者は通貨の下支えに向けて資本規制の導入を余儀なくされた。ロシア中銀は、銀行口座からの外貨引き出し額に制限を設けたほか、企業に外貨建て収入の8割をルーブルと強制的に交換させた。さらに政策金利を20%に引き上げ、実質的にルーブル保有の妙味を高めた。一連の資本規制は奏功し、ルーブル相場は回復。資源高という追い風がさらにルーブルを押し上げた。タレットプレボンによると、ルーブルは3月初旬、日中の取引で過去最安値となる1ドル=約158ルーブルまで売られたが、6月29日は53ルーブル前後で取引された」

 

ロシアは、輸入禁止の制裁を受けているので、貿易黒字はたまっている。ただ、これも過渡期のことで、EU(欧州連合)の石油輸入規制が年末までに増えるので、いつまでも貿易黒字が増える状態は続かない。いずれは、本格的なルーブル安に見舞われる環境だ。

 


(5)「ロシアは最近になって、一転して通貨高抑制に乗り出した。資本規制を緩和し、利下げを行ったが、まだ効果が出ていない。こうした中、ロシアは石油・ガス収入の余剰分で「友好国」の通貨を購入して、対ドル・ユーロでルーブルの為替レートに影響を与えることを検討している。シルアノフ財務相は、どの通貨を購入するかは明らかにしていない。ルーブルはオフショア市場の取引で、同氏の発言を受けていったん値を消したものの、その後は切り返した」

 

経済制裁は、輸入禁止効果が国内生産に大きな影響を与える段階に来ている。ルーブル高に幻惑されて、経済制裁効果が薄いのでないかとみられがちである。だが、輸入減によるルーブル高は、経済制裁効果そのものである。