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一日当りの乗降客数十人規模の辺鄙な村にも、中国版新幹線の高速鉄道が開通した。推して知るべしで、採算が採れるはずがない。昨年12月末の累積赤字は120兆円に達した。それでもなお、路線延長工事が続いている。GDP成長率を引上げるには、止めるに止められない重要なインフラ工事であるからだ。

 

中国経済が、長引くロックダウンの悪影響をはね返すには、こうした不採算工事しか残っていないのである。すでに、好採算のインフラ工事は終わっている。落ち穂拾いのように行なっている工事だけに、今後の経済的負担が増すだけである。

 


『日本経済新聞 電子版』(7月5日付)は、「中国版新幹線、負債120兆円 広がる赤字路線のリスク」と題する記事を掲載した。

 

中国版新幹線「高速鉄道」を運営する国有企業、中国国家鉄路集団の路線延伸がとまらない。景気底上げを目指す政府の意向をくみ、2035年に路線を現在より7割増やす方針だ。ただ、無軌道な拡大で不採算路線が増え、足元の負債総額は120兆円の大台に達した。今後さらに70兆円超の建設費がかかるとみられ、巨大国有企業が抱える「国の隠れ債務」が、中国経済のリスク要因となる懸念がある。

 

(1)「中国の高速鉄道は一国としては世界最長を誇り、総延長は4万キロメートルを超える。日本の新幹線(約3300キロメートル)の10倍以上で、21年はさらに2168キロメートル延びた。だが高速鉄道の延伸はとどまるところを知らない。同社は総延長を25年に5万キロメートル、35年に7万キロメートルにそれぞれ延ばす計画だ。21年比では7割延びる。中国の鉄道は地方政府が競って誘致し、路線が延びる一因になっている。鉄道建設で雇用を創出し、関連産業も育てて景気を下支えする狙いがある。

 


赤字垂れ流しの高速鉄道延長工事である。人口密度の極端に低い地域まで、巨額投資の必要な高速鉄道延長工事を行なっている。正気の沙汰とは思えない振る舞いだ。事業の合理性は吹き飛んでしまい、将来の内乱発生の際に軍隊を迅速に移動できる目的が隠されている。この国は、権力護持だけが目的で、国家の発展という真っ当な視点は消え失せている。

 

(2)「建設に関するコスト意識は希薄で、累積する債務や採算は横に置かれている。交通に詳しい北京交通大の趙堅教授は「政府は経済成長を優先し、債務返済を気にとめないが、1キロメートルの延伸に1億2000万~1億3000万元かかる」と試算する。3万キロメートル延ばすには、単純計算で3兆6000億元(約73兆円)の巨額投資が必要となる。こうした債務は、国有企業が負担し、国の見かけ上の債務が増えないようにみせる「隠れ債務」と呼ばれる。鉄路集団の財務報告書によると、同社の負債総額は21年末時点で20年末比4%増の5兆9100億元。中国の国内総生産(GDP)の約5%に相当する債務額を、一社で背負っている格好だ」

 

高速鉄道を所管する鉄路集団の財務報告書では、21年末の負債総額が対GDP比で約5%にも達している。国有企業の債務は、国の債務である。巨額すぎて卒倒するほどの巨額債務を抱えるに至った。

 

(3)「当然、借金は返済が求められるが、返済原資を稼ぐための業績は厳しい。21年12月期の最終損益は498億元の赤字となり、赤字額は前の年の554億元に迫る水準だ。普通列車を含む延べの旅客人数は25億3000万人と、コロナ禍前の19年比で29%減った。中国では感染者が高水準で推移し、22年1~3月期も旅客人数は低い水準だ。中部の湖北省黄岡市で4月22日、新たな高速鉄道が開通した。新設された駅の近くに住む男性は取材に「乗客は地元住民のみで、1日あたり数十人だけだ」と証言した。もともと目立った産業のない農村のため、ホテルなどの新規投資もないという」

 

21年12月期の最終損益は、498億元(約9960億円)でざっと1兆円規模の赤字である。路線延長工事に伴い年々、1兆円以上赤字が膨らんでいく計算だ。カネを捨てているようなものである。

 


(4)「政府内には債務抑制と路線延長という2つの矛盾した方針が併存している。陸董事長は21年3月、中国メディアに「鉄道の投資効率を重視し、負債規模を合理的に制御し、債務リスクを防ぐ」と発言。国務院も同時期、債務を厳格に制御するように要求した。経営改善の動きの中で注力するのが貨物部門だ。巨大経済圏構想「一帯一路」戦略の一環として、中国から欧州へ輸送する貨物列車「中欧班列」は、21年の運行本数は20年比で22%増、16年比では8.9倍に急増した。グループ全体で貨物事業の売上高は21年が4359億元で、旅客売上高(3021億元)を上回る」

 

中国から欧州へ輸送する貨物列車の運航本数は増えているが、これからの見通しは不透明になった。NATO(北大西洋条約機構)の「新戦略概念」は、中国をロシアと一括りにして軍事上の「警戒対象」にしたからだ。欧州との経済関係悪化が不可避となろう。