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ロシアは7月3日、ウクライナ側の最後の拠点となっていた東部リシチャンスクを掌握し、ルガンスク州全域を制圧したと発表した。ウクライナ軍司令部は、兵士の命を守るためリシチャンスクから撤退したと説明。ゼレンスキー大統領もビデオ演説で撤退を認めた。だが「戦術と近代的な武器の供給増によって、われわれは戻ってくる」と強調している。

 

ウクライナ侵攻作戦で、今回の東部リシチャンスクを巡る攻防戦は激しいものだった。第二次世界大戦を彷彿とさせる都市破壊が行なわれた。ウクライナ軍が長期の抵抗作戦を行い、ロシア軍の進撃を食止めていたのは、西側の強力な火砲到着までの時間稼ぎの目的であった。ゼレンスキー大統領が、前述のように「近代的な武器の供給増で戻ってくる」と発言したのは、リシチャンスク撤退が戦略的であることを覗わせている。

 


英国『BBC』(7月5日付)は、「プーチン氏、いま何を計画しているのか 東部ルハンスク州が陥落」と題する解説記事を掲載した。

 

ウクライナ東部ルハンスク州の都市リシチャンスクで予想されていた激しい長期戦は、同州のセルヒィ・ハイダイ知事によれば、戦略的な撤退によって回避された。リシチャンスクの占拠により、ロシアは実質的にルハンスク州全体を掌握したことになる。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、これをウクライナ侵攻の重要な戦略目標としてきた。

これは、ドンバス地方における戦いと、さらに広範囲での戦争で、何を意味するのか。 

(1)「ウクライナにとって重要だったのは、南部の港湾都市マリウポリで見られたような包囲網の回避だった。同市を防衛したことで、ロシアの進軍を何週間も遅らせた。だがその結果、ウクライナ兵の精鋭数千人が、殺されたり捕虜になったりした。ウクライナは何としても、同じ事態を避けたかった。ハイダイ知事は、次のように言った。「私たちの部隊は、より強固な陣地に退いた。(中略)私たちはルハンスクの防衛を5カ月間維持した。その間に、ドネツク州に新たな要塞を建設した。部隊は今、そこに移った」。 

ウクライナ軍は、次の反撃に備える態勢を整える時間稼ぎで、リシチャンスクでロシア軍の進撃を食止めていた。すでに、その態勢が固まったことと、犠牲を大きくしないための撤退であった。

 

(2)「リシチャンスク陥落の数時間、ウクライナのオレクシー・アレストヴィッチ大統領顧問は、リシチャンスクとセヴェロドネツクの防衛を「見事な軍事作戦」とまで表現した。彼が言いたいのは、ウクライナは長いゲームをし、貴重な時間を稼いだということだ。この発言を理解するには、ウクライナの抗戦における西側兵器の重要性を理解する必要がある。簡単に言えば、NATOの補給がなければ、ウクライナは今以上に困難な状況に陥ってしまう」

 

ウクライナ軍は、高い士気に支えられている。学生や大学教授までが、武器を取って最前線で戦っているのだ。近代兵器さえあれば、ロシア軍を圧倒できると自信満々である。

 


(3)「
ロシアの進軍を遅らせるほど、ウクライナはより高度なロケット砲や大砲のシステムを戦闘に導入できる。アメリカが提供するロケット砲システムHIMARSはすでに稼働しており、この紛争のバランスを大きく変えると言われている。時間を稼ぐほど供給を増やすことができ、ウクライナに有利になる。ロシアが制裁によってハードウェアの交換や弾薬の補給に苦労している状況では、なおさらそうだ」

 

米国提供のロケット砲システムHIMARSは、すでに4基が稼働している。7月半ばまでに追加で4基が追加される。77キロ先を攻撃できる能力を持つ。ウクライナ軍は、ロシア軍に探知されないように夜間攻撃に使用している。ロシア新兵の宿泊所や司令部、弾薬庫を攻撃して戦果を上げた。ロケット発射後数秒で、直ぐに移動して発射地点を探索されない用心深さを見せている。ウクライナ兵は、米軍に感謝している、と『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月4日付)が報じた。

 


(4)「ロシアの視点でみてみよう。ロシアは、ドンバス地方の占拠(ロシアが言う「解放」)が目標だと明言している。ルハンスク州の奪取は、それに一歩近づく。プーチン大統領は4日、ルハンスク州を攻略した指揮官を、ロシア最高の栄誉である「ロシアの英雄」に加え、その重要性を強調した。次はどうなるのか。ドンバス地方の残りの地域、特に最近砲撃したスラヴャンスクとクラマトルスク両市の制圧を目指すのは、ほぼ確実と思われる」

 

ロシア軍は、目的であったルハンスク州を占領できた。一息入れて、スラヴャンスクとクラマトルスク両市の制圧作戦に移ることは間違いない、とされている。

 

(5)「それ以上のロシアの戦略は、明確ではない。ドンバス地方を占領した場合は、ロシア軍がどんな状態にあるかに、その後の戦略は大きく依拠することになる。プーチン大統領は4日、それを暗に認め、こう言った。「ルハンスク方面で積極的な戦闘行為に参加し、成功と勝利を収めた部隊は、きちんと休息し、戦闘能力を高めるべきだ」。もしロシア軍がまだ急速な前進を続けているなら、ウクライナの南部全域の掌握に向けて攻撃を続けるかもしれない。主要都市ドニプロや、その先の都市の占拠を目指す可能性がある」

 

ロシア軍は、余力を振り絞ってウクライナ南部の攻撃に移ることも十分に予想できる。ウクライナ軍もそれに備えた「決戦態勢」を敷いているからだ。NATOからの強力火砲を揃えて迎え撃つ構えである。

 


(6)「多くのアナリストが予測し、プーチン氏もほのめかしているとおり、ロシア軍が疲れ果てれば、ロシアの言う「特別軍事作戦」の終了を宣言する可能性はある。一方的に停戦することで、フランスやドイツなどが和平を求め、ウクライナに対する国際的な支持への勢いが弱まることを、ロシアは期待するかもしれない」

 

ロシアが弱音を吐いて、南部攻略前に「特別軍事作戦終了」宣言する可能性もあるようだ。ただ、ウクライナ国民の9割は、世論調査でロシアへ領土割譲をしないと答えている。大変は士気の高さだ。EUは、ウクライナが終戦を決めることを支持するとしている。ロシアが弱気を見せれば、かえってウクライナの戦意を昂揚させるだろう。