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本欄は、世界の半導体市況に変調の見られることを一貫して報じてきたが、市況急落という形で危機は鮮明になってきた。3月末以降で、DRAM価格が3割も急落したのだ。

 

本欄が半導体市況異変に気付いたきっかけは、韓国の5月貿易収支で対中半導体貿易収支が主因で赤字になったことだ。中国が、中低価格の半導体輸出で攻勢をかけてきた結果と見た。韓国は、これまで対中貿易で黒字を出してきた。それが、突然の変化である。中国がゼロコロナによって需要が急減して、輸出攻勢をかけてきたと読んだのである。この読みに間違いはなかったようである。

 


『日本経済新聞 電子版』(7月12日付)は、「
半導体市場が一転、2年ぶり変調 台湾勢に警戒感強まる」と題する記事を掲載した。

 

供給不足で2年間の好調が続いていた半導体の市場が、一転して変調をきたし始めた。代表的な半導体であるDRAMの在庫が今春以降だぶつき、価格が30%強も急落するなど大きな変化がみられる。中国経済の減速懸念や世界的なインフレを受け、企業の設備投資や消費者の購入に対する意欲が減退している。世界の半導体生産の中心である台湾では、急速に警戒感が広がってきた。

 

(1)「DRAM世界3位の米マイクロンで台湾法人トップを務める盧東暉・董事長は6日、(世界の半導体市場では)今年の上半期までは楽観論があったが、今となっては、それはもう逆転した」と日本経済新聞の取材に対して答え、市場の急変に危機感を示した。マイクロンはDRAM最大の生産拠点を台湾に構える。盧氏は「市場のスローダウンがこの数カ月間続いている」とも指摘。現在起きている変化が、決して一過性のものではないことも強調した」

 

DRAMは、コンピュータの記憶装置であり汎用品である。どの電気製品でも大量に使われている。それだけに、消費の浮沈とともに価格は大きく変動する。これまでの「半導体飢餓」で、大規模な設備投資が行なわれてきた。その量産効果も出始めている。

 

(2)「11日にDRAM世界4位の台湾・南亜科技(ナンヤ・テクノロジー)が開いた決算発表の記者会見でも、やはり関心は「半導体市場の変化」に集中した。「需要が弱ってきた。(22年)79月期も、さらに半導体のDRAM価格は下落するだろう」と経営トップの李培瑛・総経理はこう述べ、今後の市場の見通しに対する危機感の強さをあらわにした。李氏は需要悪化の理由について、中国政府による上海市でのロックダウン(都市封鎖)の影響やインフレ、ロシアによるウクライナ侵攻が重なり、消費者の購入意欲が予想以上に落ちてきたと分析した」

 

DRAM価格の下落は、上海市のロックダウンと軌を一にしている。上海のロックダウンが終われば、再びDRAM価格は回復するかと言えば、その見通しは暗い。増産効果が出ていることと、ユーザーが品不足を見込んで二重、三重の過剰発注をしてきたので発注キャンセルが大量に出ている筈だ。

 

(3)「実際、半導体の消費市場としては世界最大の中国で、落ち込みは顕著だ。今年15月でみると、スマートフォンの出荷台数は前年同期比で27%の大幅減。新車販売も同12%落ち込んだ。さらに世界に目を向けても、パソコン出荷は今年8~10%の出荷減が予想され、半導体を取り巻く環境は今、大きく変化しつつある。業界全体を見渡すと、厳しいのは、記憶系の半導体であるDRAMだけではない。家電やパソコン向けなどに使う旧世代の汎用的な半導体にも影響は広がっている」

 

半導体の世界最大の市場は中国である。その中国の需要が急落していることから、前途は暗い。中国では、1~5月のスマートフォンの出荷台数が、前年同期比で27%減、新車販売も同12%減に見舞われている。

 

(4)「ある台湾の大手半導体メーカー幹部は「つい最近までの半導体不足が噓のようだ。4月から在庫調整が始まり、今も足元で続く。適正在庫は2カ月分だが、既に3カ月分を超えてしまった」と明かす。別の同業メーカーの幹部も「半導体の納入先の企業の生産が完全に落ちている。注文をもらった半導体のキャンセルも増え、潮目が変わったのは間違いない」と話した」

 

半導体メーカーでは、4月から在庫調整が始まっている。適正在庫の2ヶ月分を超えて3ヶ月分を超えている。半導体受注のキャンセルも増えているのだ。

 


(5)「市場の変調は、台湾半導体大手の直近の月次売上高からもみてとれる。例えば、液晶ディスプレー向けの半導体などを手掛ける聯詠科技(ノバテック)。同社は4月まで前年比で2ケタの成長をみせていた。ところが5月に減収に転じると、直近6月の業績はさらに悪化し、29.%の大幅減収に見舞われた。半導体市場は景気動向に敏感で、好不調の波が激しいのが特徴だ。好調が長く続いても、いったん市場が何らかのきっかけで弱気に転じると、歯止めが効かずに急変をみせることも少なくない。今回でいえば、3月末に始まった上海でのロックダウンが影響した可能性がある。時を同じくしてDRAM価格は急落した」

 

液晶ディスプレー向けの半導体も、5月から減収に転じている。6月はさらに悪化している。半導体市況は、2年サイクルで変動を繰返す。すでに上昇期は終わっている。今後、2年間は下落局面を迎えそうだ。過去2年間の半導体不足が劇的だっただけに、その反動も覚悟するほかない。

 


(6)「半導体は家電から車、スマホ、軍事、宇宙関連に至るまであらゆる製品に搭載されるため、景気の先行指標となる。一般的な半導体の発注から納期までのリードタイムはおよそ3カ月だ。そのため足元の半導体市場が弱含めば、その3カ月後から、景気が弱含むと推測できる。現在の半導体市場の変調も、3カ月先の景気後退のサインといえる。その半導体市場が今後さらに崩れるのか、それとも持ちこたえられるのかは、中国次第のところが大きい。中国は「ゼロコロナ」政策で、今春から経済が急失速した。そのため今後、どこまで効果的な景気対策を打てるかが焦点となる。「今の半導体価格の値崩れは止まらない」というのが業界の見立てだ」

 

このパラグラフでは、需要の落込みだけに焦点を合わせているが、供給増の視点を加えなければいけない。台湾での半導体大増産投資が、これから供給過剰に拍車をかける。その意味で、半導体の市況循環は生きている。

 

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