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米下院議長ペロシ氏は3日夕刻、無事に訪台を済ませて次の訪問国である韓国へ向かった。習近平中国国家主席は、バイデン米大統領との電話会談で「ペロシ氏の訪台は火遊びで身を滅ぼす」と露骨な言い方をしてけん制した。この効果もなくペロシ訪台は実行された。

 

中国は、この怒りを四方からの台湾包囲による軍事演習で爆発させる。米台側から見れば、中国の台湾侵攻の作戦の手の内を見せているようなものだ。艦船による台湾砲撃は、潜水艦の餌食になることを意味する。そういうリスクを忘れて、鬱憤晴らしをしているのだ。「夏の花火」演習に見えるのだ。

 

米議会上院は、近く審議を始める「台湾政策法案」は、台湾の武器購入や軍事演習へ4年間で45億ドル規模を支援すると定める。また、台湾関係法の修正も盛る。現在は、台湾の防衛に必要な武器供与を認めるが、新たに「中国人民解放軍による侵略行為を抑止するのに役立つ武器」の提供も可能にするとの文言を加えるのだ。中国は、「飛んで火に入る夏の虫」になってきた。

 


中国軍は、2日午後から台湾周辺で一連の合同軍事行動を展開すると発表した。それによると、中国軍は台湾北部、南西部、東南部の海域と空域で連合海上・空中訓練、台湾海峡で長距離火力実弾射撃をそれぞれ実施し、台湾東部海域で常用ミサイル火力試験射撃を実施する予定だと説明した。事実上、台湾を四方で包囲する形の全方向的「武力示威」となる。

 

米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月4日付)は、「中国の実弾演習、高い戦闘能力が送るメッセージ」と題する記事を掲載した。

 

中国が台湾周辺で47日に実施する実弾演習は、これまでの危機でみせた対応に比べ、軍事圧力を著しく強めており、中国軍による急速な戦闘能力の増強を浮き彫りにするものとなりそうだ。中国が軍事演習を発表したのは、ナンシー・ペロシ米下院議長が2日夜、台湾に到着した直後だった。台湾を包囲するかのように海空域6カ所で演習を行うという。

 

(1)「中国人民解放軍(PLA)は3日、実弾演習を控え、台湾の北、南西、南東で海軍、空軍、戦略ミサイル軍などの組織が合同演習を行ったと明らかにした。実弾演習では長距離兵器や通常ミサイルが投入される可能性がある。演習予定区域の大半は公海上だが、一部は台湾の主要港湾に近く、台湾が「領海」と主張する海域と重なる。そのため、民間の海上輸送にも支障が生じかねない。ミサイルの種類や発射場所にもよるが、PLAのミサイルが台湾の東部沖に向かう中で上空を通過することもあり得る、と専門家は話している。そうなれば、事態を相当エスカレートさせていると解釈される行為だ」

 

中国は過激な軍事演習を行なえば、米国の反発を招いてより一層の強力な支援体制をつくる反作用を忘れている。実際の戦争は、演習通りには進まないものだ。敵方が、その裏をかく戦術によって対抗するからだ。中国軍が、ここで全力を出し切れば、米軍は次の戦術を編み出すに違いない。

 


(2)「中国は今のところ、ペロシ氏の訪台を前に一部で懸念されていたような直接的な武力行使、あるいは危険な軍事的対峙(たいじ)を招く行為には至っていない。それでも、1995~96年の台湾海峡危機をはるかにしのぐ威嚇行為だと、西側の国防専門家は話している。中国は当時、台湾総統による訪米に反発してミサイル発射や上陸訓練を実施し、米中間で軍事的な緊張が近年で最も高まった。マサチューセッツ工科大学(MIT)安全保障研究プログラム責任者、M.テイラー・フレイベル教授は、「発表された軍事演習は、範囲のみならず、規模でも異例なものになる可能性が高い」と述べる」

 

中国軍が、1995~96年の戦力のままでないことは当たり前だ。厖大な軍事費を投入していているから「進化」は当然だ。驚くには当らない。

 

(3)「台湾海峡危機時の演習は、水陸両用攻撃に主眼を置いていたが、今回はPLAがいかに台湾周辺を封鎖し、空・海・陸からくまなく攻撃を仕掛けることができるかを誇示する狙いがあるという。フレイベル氏はとりわけ、中国が数十年にわたり軍の近代化を進める中で技術や演習を改善してきた点を挙げ、「1995~96年にはまだ備えていなかった能力を映し出す」と述べる。 

中国軍は、一対一で台湾軍と戦う想定の演習をしている。実際は、米国を中心とする同盟国が参戦する。そうなると、ここでいくら演習をしても無意味になる。まず、台湾を取り囲んで砲撃を開始する前に、肝心の中国艦船が同盟国の潜水艦部隊に攻撃されるのだ。中国海軍は、多国籍海軍と戦闘した経験がゼロである。指揮命令系統が追いつけないのだ。

 


(4)「ワシントンの非営利組織、共和党国際研究所(IRI)の上級顧問(在台北)、マイケル・コール氏は、PLAが演習に投入する兵器にはメッセージが込められていると話す。最大の狙いは台湾への威圧と思われるが、中国は米軍空母の破壊を念頭に設計された弾道ミサイルを発射することで、将来紛争が起きた時に米軍に介入しないよう「明確な抑止のメッセージ」を送ることもあり得るという」
 

空母が出動する前に、潜水艦部隊が攻撃を開始する。中国の潜水艦は、騒音の問題を抱えている。直ぐに発見されやすいのだ。こういう弱体な潜水艦部隊では、とても中国軍が想定する軍事行動は取れまい。西側諸国では、中国軍の軍備の数に注目するよりも、その稚拙な部隊運用に目を向けているのだ。兵站(へいたん)=後方支援の弱点も見抜いている。海上戦で戦った経験ゼロの中国海軍が、近代海軍として世界でもっとも歴史と経験を持つ米海軍とまともに戦えるとは信じがたい話である。

 


(5)「
コール氏は、「中国はペロシ氏訪問による利点を打ち消すとともに、米国や台湾のみならず、他の国・地域についてもこのようなハイレベル交流を将来繰り返さないようけん制することで、台湾に心理的な代償をもたらしたいと考えている」と指摘する。中国は近年、専門家が「グレーゾーン戦争」と呼ぶ作戦を展開している。台湾への圧力を強め、実際に衝突を招くことなく相手の軍事力を弱体化させることが狙いだ。具体的には、水陸両用攻撃演習や海上哨戒、軍用機の周辺飛行などに加え、サイバー攻撃や偽情報工作、外交的な圧力といった非軍事的な手法も含まれる」


中国軍の今回の総合的な実弾演習は、台湾を威圧することと、他国指導層が台湾を訪問すれば、こういう事態になるという見せしめ演習である。ロシア軍は、パレード用軍隊と揶揄されているが、中国軍も今のところはその趣を否定できない弱みを抱えているのだ。