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中国は、米下院議長ペロシ氏の訪台をきっかけにして大軍事演習を始めた。その目的について、新たな解釈が出てきた。中国は、台湾と戦火を交えずに台湾を降伏させる手段として、海上での全島封鎖作戦を意図しているというもの。だが、封鎖行為は明らかな戦闘行為であるから、台湾が応戦しないはずもない。同盟国も座視する筈がない。こういう身勝手な戦術を編み出す中国の狙いは、中国自身が深傷を負えない経済的事情を暴露しているようなものであろう。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月5日付)は、「台湾封鎖の中国軍演習、『戦火なき統一』予行か」と題する記事を掲載した。

 

中国が台湾周辺で開始した実弾演習では、台湾を封鎖するシナリオに沿って作戦を実施しているもようだ。この演習からは、中台間で紛争が発生した際に中国指導部が展開し得る威圧的な戦術が透けて見える。中国は全面的な台湾侵攻に踏み出す能力はまだ持っておらず、向こう数年で実行する作戦としてはあまりに複雑でリスクが高すぎる、と指摘する専門家は多い

 

(1)「中国は、台湾を武力で抑え込むのではなく、締め付けて降伏させる道を選ぶとの見立てだ。米ワシントンのシンクタンク、ハドソン研究所のブライアン・クラーク上級研究員は「中国は兵力を大量集結させて(台湾を)封鎖するような印象を与えることで、これを実行できると誇示する狙いがある」と話す。中国軍は4日、軍用機や艦船を投入して演習を開始し、複数の弾道ミサイルを台湾周辺の海域に向けて発射した。軍事専門家によると、向こう数日間に海・空区域で大規模な訓練が行われる見通しで、台湾周辺海域を掌握できることを見せつける狙いがあるとみられる」

 

中国軍は、敵はいないから自由自在に振る舞い、あたかも巨大な軍事力を擁しているような行動を見せつけている。だが、日米はその動きを子細に分析しているはずだ。

 


(2)「演習場所は港湾施設や海上輸送ルートに近いことから、一部で貨物や航空機の流れに遅延が生じており、中国が台湾や諸外国に与え得る痛みの一端がうかがえる。台湾は自動車や最新兵器などに欠かせない先端半導体の生産で世界トップだ。中国人民解放軍国防大学の孟祥青教授は演習開始前に出演した4日朝の国営放送で「これで台湾の包囲網が形成される」と述べた。「これは統一に資するように戦略的な情勢を再形成する上で極めて望ましい環境を整える」と指摘する。

 

中国メディアによれば、今回の全島封鎖作戦は、侵攻に当っての予定通りの行動であることを示唆している。

 

(3)「国防アナリストや中国専門家は、軍事演習が終了した後も中国軍が周辺にとどまるか、また台湾周辺での演習を定期的に行うかに注目している。もしそうなれば、中国にとっては台湾経済と諸外国との関係に断続的にマイナスの影響をもたらす手段になり得る。台湾当局への市民の支持を損ない、中国への抵抗を弱めることがその目的だという。ランド研究所の研究員で、元海軍幹部のブラッドリー・マーティン氏は、「おそらく中国は目的を達成するために戦争をしたいとは考えていない」と話す。「全面的な衝突には至らないレベルで強い圧力をかけるというのが、最もあり得るシナリオだ」。

 

実際に戦火を交えるまでいかない紛争は、「グレーゾーン」戦争と呼ばれ、中国は台湾に加え、領土問題を抱える近隣諸国に対する戦術としても利用している。こういう中国の傾向から見れば、「準戦時体制」を取って台湾を屈服させる意図もあろう。

 


(4)「仮に中国が船舶の航行を全面的に禁止して周辺海域を封じれば、戦争行為と解釈される。そのため中国は部分的な封鎖を行う可能性が高く、中国軍の出版物でもこの選択肢が議論されている、と前出のマーティン氏は話している。部分封鎖なら、一部の船舶の航行を禁止する一方で食料輸送などは認めるといった選択肢を、中国当局が確保できるという。マーティン氏がランド研究所で共同執筆した、中国による封鎖措置に関する論文によると、事態がエスカレートした場合の負担は、台湾に近づく船舶に重くのしかかる。協力するか抵抗するかを決めざるを得ないためだ」

 

「自由で開かれたインド太平洋」という「クアッド」(日米豪印)の基本姿勢から言えば、中国による海上の台湾封鎖は、絶対に容認できない事態である。仮に部分封鎖しても、それは戦闘行為と見なされる。

 


(5)「
米国は、中国の封鎖措置に直面した場合、戦火を交えるリスクを冒すか封鎖を受け入れるかの厳しい判断を迫られかねない、とマーティン氏らの論文は指摘する。「何も行動しなければ、中国の行為を受け入れたのに等しい」と論文は述べている。アナリストによると、台湾を孤立させる戦術は、米国にとっては対処が難しい。

 

米国は、戦火を交えても全島封鎖作戦を排除しなければ、同盟国の信頼を裏切ることになろう。

 

(6)「米国には法律上、台湾が自力で防衛できるように支援する義務がある。一方、これまでは中台双方が武力行使に出ないよう、危機時の米国の関与を示唆しつつも明言はしない「戦略的な曖昧さ」と呼ばれる政策を維持してきた。ジョー・バイデン米大統領は、中国が攻撃すれば米国が台湾を守ると表明したが、他のシナリオでは曖昧さは残るとアナリストは話している。中国が海上を封鎖して台湾を孤立させるシナリオを巡っては、米国、台湾双方の軍に準備ができていないとして、米国の安全保障関係者や議員から懸念の声が上がっている」 

米国は、中国に対して部分封鎖でも認めないとはっきり意思表示すべきだろう。こういう、悪例を残したら、どの国も中国の餌食になる。中国は、戦わずして勝利を収める「孫氏の兵法」を実戦しようとしている。戦国時代の兵糧攻めと瓜二つの戦術だ。