a0960_008417_m
   

習近平氏は、今秋の共産党大会で国家主席3選を目指している。そのためには、強い国民の支持が必要である。台湾問題は、中国共産党にとって是が非でも解決しなければならない喫緊の課題だ。降って湧いたように、米下院議長ペロシ氏が台湾を訪問した。習氏は、この機会を利用して台湾封鎖演習を行い、「強い習近平」を見せつけている。

 

現在、中国が行なっている「台湾封鎖演習」には、こういうニュアンスが臭う。壊れそうな中国経済の実態を知る者には、習氏の行動が何とも不可解に映るのだ。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月9日付)は、「不動産という虎に乗る習氏、落ちれば影響甚大」と題する寄稿を掲載した。筆者のデービッド・アッシャー、トーマス・J・デュスターバーグ両氏は、米ハドソン研究所の上級研究員である。

 

新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)や住宅購入者の反乱で、中国の不動産市場が混乱する中、習近平国家主席は「虎に乗る」――権力を維持しながら、今の地位に自身を押し上げた無謀な政策にしがみつく――ことを試みている。だが中国人民銀行(中央銀行)の関係者が同国の不動産バブルについて語ったように、虎に乗ることの問題点は、もし落ちれば虎に食われることだ。習氏がその餌食となる可能性はどれくらいあるのか。

 

(1)「中国経済の逆風は、すでに低迷していた不動産セクターから影響を受けている。中国の不動産開発会社は負債依存の経営手法をとり、借入金の相当の部分がドル建てだ。ドル高と金利高騰により、中国の開発会社は記録的なペースで債務不履行(デフォルト)に陥っている。上位100社のうち、28社が過去1年間に債務の一部が不履行となった。過剰な借入れと投機的な事業運営で知られる中国恒大集団から始まった危機は、良好な経営状態で知られる同業大手にも波及している。中国は新興国市場で最大のドル建て債務を抱えており、不動産開発会社は債務の借り換えができない。同国の不動産業界が内側から崩壊すれば、より大きな危機を引き起こす可能性がある。すでに新興国市場インデックスファンドは、中国の社債や株式の保有を減らしている」

 


不動産開発上位100社のうち、28社が過去1年間に債務の一部が不履行に陥る危機的状況だ。ドル建て債務が多く、ドル高と金利高騰に直撃されている。中国当局が、かつてドル債発行を奨励したことが裏目に出た形だ。下線部のような時限爆弾を抱えている。

 

(2)「ロックダウンは、多くの都市の不動産価格を低迷させ、不動産転売を手がける巨大な産業に痛手を与えた。中国都市部の不動産価格は過去25年間上昇基調にあったが、ロックダウンや過剰な建設、新型コロナウイルスによる景気減速で、それが反転した。ロックダウンが耐え難くなり、多くの中国人が都心から逃げ出すようになると、売り手が買い手を大幅に上回る。その影響が及んだ人々(国内外の不動産投資家や中国の抵当権者)の多くは中国政府の救済を期待したが、政府は今のところ実質的な救済策を講じていない。人民銀も急激な価格下落を埋め合わせるほどの住宅ローン金利引き下げには応じていない」

 

不動産開発は、中国GDPの25~30%も寄与する。習氏の執心するゼロコロナ政策が、住宅市場を不振に追込んでいる。今、政府が打つべき手は住宅市場へのテコ入れだが、空振りに終わっている。

 


(3)「不動産開発会社の財務悪化は建設の遅れにつながり、住宅ローン返済を拒否する人が続出している。
中国の集合住宅の約85%は「事前販売」の形で購入され、入居前に住宅ローン返済が始まるのが一般的だ。事前販売で資金を得る開発プロジェクトでは、不動産会社が支払い不能に陥り、工事の中断や中止に追い込まれている。購入者が支払いを拒否している大規模プロジェクトは300余りに上り、事前販売による約3500億ドル(約47兆2700億円)の債務が危うい状況にある」

 

住宅販売の85%が、「青田売り」という危険な手法だ。日本もこれで不動産開発を膨張させ、最後は致命傷になった。中国も同じ道を歩んでいる。それだけに、事前販売の約3500億ドルが不良債権になると、中国経済は危機へ直面する。

 

(4)「中国の5つの省が、短期的な住宅ローンの停止や不動産開発会社の救済策を検討している。だが危機の影響で、その支援能力が抑えられている。地方政府は歴史的に収入の約5割を土地使用権の売却に頼ってきたが、そうした収入源は今年に入って31%減少。大半の省が財政赤字に陥っている。さらに地方政府は、中央政府が承認した2022年の債券発行枠の92%以上を使い果たし、救済に乗り出す能力には限りがある。中央政府がこれ以上支援する可能性は低い。政府は各省で何とかすべき問題だと述べている」

 

地方政府は、「青田売り」による住宅危機を救済する力を失っている。土地販売収入が、すでに前年比4割も減少しているからだ。私の指摘する「土地本位性」が崩壊したのである。

 


(5)「習氏の頭の中では、汚職撲滅と資本主義の封じ込めを同一視しているようだ。習氏のイデオロギーは、中国経済の奇跡のモデルそのものを危険にさらしている。習氏は恐らく、テクノ資本主義の封じ込めや、金融業界の行き過ぎと投機への対策、不動産バブルの沈静化を、労働者階級と共産党支持者に向けた「共同富裕」政策を確実に推進する手段と見なしているのだろう」

 

習氏は、市場経済システムに大きな偏見を持っている。汚職撲滅=資本主義封じ込めと同一視している。中国のガンは汚職多発だ。汚職撲滅には、市場経済の完全履行によって最大効果を上げるのだが、習氏はそれを誤解している。習氏の限界がここにある。

 

(6)「習氏の政策は、中国の経済成長にとってあまりに破滅的なため、多くの中国人は、習氏の目標は経済よりむしろ地政学的にあるのではないかと考えている。台湾奪取の試みに先立ち、制裁を見越して国を強化しているのではないかと。だが、経済の「虎」に振り落とされずにまたがっていなければ、習氏はその目標を達成できない」

 

このパラグラフは重要である。習氏は、台湾奪取を急いでいるので住宅救済の重要性を見落としている。習氏が、経済の「虎」(不動産バブル)に振り落とされる危険性が迫っているのだ。

 


(7)「もし状況が一段と悲惨になれば、習氏が最高指導部内で政敵らと対峙する事態も起こりうる。だが、この危険は同氏ひとりのものではない。中国経済の混乱は世界的な債務危機を引き起こす可能性があり、そうなれば、習氏は政治的リスクがあることを承知で、台湾に対して行動に出るかもしれない。世界の金融市場や中央銀行、そして民主主義の指導者たちは波乱に身構えるべきだ」

 

中国の経済破綻が濃厚になれば、党内の対立も頂点に達する。習氏は、台湾奪取へ手を打つリスクが高まる。それは、世界経済の危機を招くであろう、としている。