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習近平氏は、取り返しの付かない外交的な失敗を重ねている。年齢的に1歳しか違わないロシアのプーチン氏と「二人三脚」で、世界秩序への挑戦を夢見てきた。だが、プーチン氏のウクライナ侵攻という時ならぬ暴走で、計画は水を浴びせられた形である。本人が、そのように自覚しているかどうかと関わりなく、西側諸国は「中ロ枢軸」と一本化して警戒感を強めている。習氏は、選ぶ相手を間違えたのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(8月13日付)は、「台湾が迫る欧州の覚悟」と題する記事を掲載した。

 

ドイツ空軍が異例の訓練を始める。その名は「ラピッド・パシフィック2022」。遠く離れた太平洋に航空部隊を送る。主力戦闘機ユーロファイターと空中給油機、戦術輸送機がインドなどを経てシンガポールへ。オーストラリアや韓国、そして9月末には日本に立ち寄り、ドイツ空軍がアジアでも活動できることを証明する。

 


(1)「戦闘能力のある航空機を戦後初めてインド太平洋に展開する狙いはなにか。「多様性や国際秩序を守る、という価値観を安全保障上のパートナーとともに示したい」と独国防省報道官は取材に答えた。中国へのけん制にほかならない。2021年にフリゲート艦を極東に派遣したのに続く政治メッセージとなる」

 

中国と経済関係を強めているドイツが、中独の関係見直しに入っている。理由は、中ロの一体化だ。欧州は、ロシアのウクライナ侵攻で大揺れだが、そのロシアを支援する中国は、欧州の「敵」という認識である。「敵の味方は、敵である」とする理屈付だ。

 

(2)「中国偏重とされたドイツは変わった。戦後ドイツで平和主義を唱え、共産圏融和策(東方政策)を掲げてきた与党・社会民主党(SPD)が方針を転換した。強権国家と深く付き合い過ぎるとどうなるか。1970年代から半世紀にわたってエネルギーをロシアに頼ってきたドイツは、いま脱ロシアで四苦八苦する。SPD重鎮のミュラー連邦議会議員(前ベルリン州首相)は取材に力説した。「(ドイツは)中国に依存してはいけない。それが今回のロシア・ウクライナ危機からの教訓だ」と指摘する」

 

ロシアのウクライナ侵攻は、欧州がロシアへ科した経済制裁とからみ、欧州経済にも大きな動揺を来たしている。中国は、ロシアと同じ政治体質だけに、いつロシア同様の「台湾侵攻」を始めるかも知れないとする「危機連鎖」に身構えるようになった。火事の「延焼」を防ぐという認識に変わったのだ。

 


(3)「ドイツですら中国離れが進むなか、ほかの欧州諸国は推して知るべし。「目先の心配はロシアだが、長期的には中国の脅威のほうが大きい」(フランスのガトレン上院議員)という見方は欧州政界に広がる。だからこそ、模様眺めをしていた欧州が、台湾問題でも米国に寄り添った。ペロシ米下院議長が台湾を訪問し、中国が実弾を使った軍事演習で応じると欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表が批判した。「正当化できない」。フランス外務省も「秩序の尊重」を中国に求めた」

 

ペロシ米下院議長の訪台へ反発する中国は、台湾を封鎖する形での演習で世界を驚かせた。ウクライナと同じ侵攻が、台湾でも起ころうることを世界へ認識させたのである。

 


(4)「ロシアの脅威に直面する欧州は、「大西洋同盟」と称する米国との絆の大切さを再認識した。対ロシアで後ろ盾になってもらう米国。その米国が、中国と対峙するなら支えざるを得ない――。そう覚悟しつつある。連携を深める米欧にくさびを打ち込もうと、中国は欧州各国に2国間協議を持ちかけているようだ。民主主義陣営の分断を誘うのが強権国家の常とう手段。欧州はのらりくらりとかわす」

 

欧州は、ロシア脅威への対抗策として、米国の後ろ盾が必要である。その米国は、アジアで中国と対抗せざるを得ない事態だ。こういう世界の危機において、欧州は米国による支援を必要とする以上、米国をアジアで支援する「ギブ・アンド・テイク」が必要という認識に目覚めたのである。大きな前進である。

 


(5)「台湾は、この状況を好機とみる。5月、経済部(経済省)の陳正祺・政務次官がリトアニアを訪れ、「産業協力ラウンドテーブル」を開いた。企業の連携を後押ししたい、と同次官は日本経済新聞に意欲を示した。もっとも、欧州経済にとって脱中国は脱ロシアよりはるかに難しい。今秋の共産党大会後に、中国が柔軟になるとの淡い期待を抱き、ひとまず中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」政策は堅持する。英国の次期首相に名乗りを上げたトラス外相は、自他共に認める対中強硬派。それでも「首相として台湾を訪問するつもりはない」と英テレビで宣言した」

 

ドイツは経済面で、中国と距離を置くと言っても慎重に行なわなければならない。欧州と中国の相互依存関係が、すでに出来上がっているためだ。この関係を徐々に薄めていくというのである。ただ、中国が台湾へ侵攻すれば、有無を言わせずに希薄化される。そのショックが大きくならぬように、関係を薄めることになろう。

 


(6)「ドイツでは、親台湾の国会議員が超党派で訪台を計画中だ。この議員団は、「ベルリン台北 議員の友達グループ」という妙な名称で活動する。「ドイツ台湾議員連盟」という公的色彩の濃いものに改称しようとしたが独議会に却下されたという。グループ代表のウィルシュ議員が取材に明かした。極東は、欧州にとって伝統的な関心領域ではない。蓄積が浅いから迷い、試行錯誤しながら対中政策を探る。日本を含めアジアの民主主義陣営には、チャンスといえる。将来の有事に備え、いまこそ欧州との絆を深めるべきだ」

 

NATO(北大西洋条約機構)は、すでに中国を警戒すべき国家に上げている。具体的には、NATOと日本・豪州・韓国・NZ(ニュージーランド)との関係強化にある。いずれ、台湾もこの対象に加えられよう。事態は、ここまで進んでいるのだ。