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FBI(米連邦捜査局)が、米国前大統領トランプ氏の私邸を強制捜査したことで、大きな注目を集めている。トランプ氏についてはこれまで、21年1月の暴徒による米議会襲撃事件や所得税脱税容疑などが話題にされてきた。

 

当初、今回のトランプ氏の私邸への強制捜査は、前記の話題に関係していると見られ、賛否両論が飛び交ってきた。共和党は、今秋の中間選挙で結束してバイデン政権と対決するだろうという観測までされてきたのだ。FBIの捜索目的が明らかにされ、米国の安全保障リスク排除という国家レベルの問題へ発展している。

 


『ロイター』(8月15日付)は、「トランプ氏邸宅で機密文書押収、鮮明になった安全保障リスク」と題する記事を掲載した。

 

(1)「トランプ前大統領のフロリダ州の邸宅兼高級リゾート「マールアラーゴ」を米連邦捜査局(FBI)が家宅捜査し、政府の機密文書が押収された。そのことについて安全保障の専門家からは、トランプ氏とマールアラーゴにまつわる安全保障上のリスクが、改めて鮮明になったとの声が出ている。トランプ氏には、他国のためにスパイ活動をしたり、米国の防衛関連情報を不適切に扱うことを禁じたスパイ活動法違反の疑いが持たれている」

 

下線のように、トランプ氏には「スパイ活動法違反」容疑が持たれているという。この事件は、今後どのように進展するか分らないが、トランプ氏が次期大統領選に立候補する場合、大きな痛手になろう。「国家の安全を危うくする人物」というレッテルが貼られる危険性があるからだ。

 


(2)「トランプ氏は大統領時代、機密情報を無造作に共有することがあった。大統領就任早々、執務室で過激派組織・イスラム国掃討作戦計画に関する高度な機密情報をロシア外相に自発的に渡したとされる。今回の家宅捜査で、米国の機密情報が流出する重大なリスクが、かつて「冬のホワイトハウス」と呼ばれ、富裕層のパーティーが開かれる開放的なリゾート施設にあったことが明らかになった。」。

 

トランプ氏の生涯には、公的な生活がなかった。「機密情報」は、腹の中に収めておけばすんだであろう。国家は、すべて記録として残される。その違いの認識が甘かったのであろう。

 

(3)「元司法省職員のメアリー・マッコード氏は、司法省の捜索決定が国家安全保障上の懸念を明らかにしたと指摘する。(司法省は)機密資料を保護された場所に戻すことが、明らかに非常に重大なことだと考えた。マールアラーゴ、そこにいる海外からの訪問者や外国政府・機関と関係があるとみられる人々のことを考えると、不適切な保管場所に高度な機密文書を保持することが国家安全保障上の大きな脅威を生む」と述べた。トランプ氏は、自身のソーシャルメディアで、記録は「全て機密指定解除」されており「安全な保管場所」に置かれていたと主張している。しかし、マッコード氏は「彼が退任前に、一つ一つ意識的に機密指定を解除する決定を下したというもっともな議論」は見られなかったと述べるとともに、退任後は機密指定を解除する権限がないと指摘した」

 

トランプ氏は退任までの数週間、2020年大統領選での敗北を覆すことに気を取られていた。また、21年1月6日に発生した議会議事堂事件を巡り、自らの弾劾に賛成した共和党議員への報復について弁護士と協議しつつ最後の数日間をすごしていたという。さらにアドバイザーや元側近への恩赦に関する話し合いも行われていた。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月15日付)は、こう伝えている。公文書の分類が、正しく行なわれるような雰囲気でなかったようだ。

 


(4)「FBIの押収物は複数セットの文書、数十箱の量となった。米国の防衛に関する情報や「フランス大統領」に関する物もあり「高度な機密情報を慎重に扱うには悪夢のような環境。まさに悪夢だ」と元情報機関部員は語った。司法省は、押収した文書や写真がどこにどのように保管されていたのか、明らかにしていない」

 

仮に、トランプ氏が立件されれば、文書の保管状態が明らかになる。驚くような状態にあったとすれば、米国の安全保障について疑問符がつく。

 

(5)「国家安全保障分野が専門の弁護士、マーク・ザイド氏は「われわれが目にしたのは、トランプ氏があまりにもセキュリティーに無頓着で米政府以外の人間が観察・撮影できる場所で、戦争の可能性に関する機密会議を開いていたことだ」と述べた。「トランプ氏の発言を記録する装置を持つのは、誰でも簡単に発言内容を記録できた」という。安倍氏訪問時の大統領報道官、ショーン・スパイサー氏はその後、記者団に、トランプ氏がマールアラーゴの安全な部屋で北朝鮮のミサイル発射について説明を受けたと述べた」。

 

トランプ氏は、日頃からセキュリティーに無頓着であったと指摘されている。この感覚が、機密情報の保管について注意を払わなかった背景かも知れない。

 

(6)「2019年、マルウエアが入ったUSBを携えた中国人女性がセキュリティーチェックを通過して規制敷地内に入り、逮捕された。当時の大統領首席補佐官、ジョン・ケリー氏は、マールアラーゴでトランプ氏に接触できる人物を制限する取り組みを開始したが、トランプ氏が協力を拒否したため頓挫した(側近)という」

 

不審な中国人女性が、トランプ氏の私邸へ侵入したのは、中国当局がこういう事実を知っていた上での行動であったかも知れない。この事件は、女性の「頭がおかしい」という妙な理由であやふやにされた。米国は、外交問題になることを避けたのだろう。