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韓国の「二股外交」には、中国経済の揺るぎない発展への信仰があった。人口14億を抱える中国と密接な関係を持たなければ、韓国の将来はないという妄念に取り憑かれてきたのだ。こういう妄念を取り払う「中国経済論」が、韓国で出版されて話題を呼んでいる。

 

これまで、中国への親近感に溢れていた『ハンギョレ新聞』が、前記の「中国経済論」を紹介して、生々しい中国経済の矛楯を紹介するほどになった。これも、一つの変化である。

 

『ハンギョレ新聞』(8月15日付)は、「中国という嵐の中で『反中』ではなく『用中』から道を探る」と題する記事を掲載した。

 

ハン・チョンフォン著『チャイナショック、韓国の選択ーなぜ今中国が問題なのか』を取り上げた書評である。

 

中国は、朝鮮半島の運命に最も致命的な影響を及ぼす存在であるにもかかわらず、韓国でこの問題は概して「嫌中」に近い反中感情に便乗したり、実質的な現実とはかけ離れたパラダイムに添って扱われたりする。問題の核心は、韓国がどれだけ冷静かつ立体的に、また客観的に中国の実体を眺めることができるかにある。

 

(1)「電気自動車、ディスプレイ、半導体などの領域で中国関連業務を行ってきた現場の専門家が書いた『チャイナショック、韓国の選択』は、このような期待に応えて中国問題を総合的に分析しようと試みた本だ。著者は、「韓国にとって中国という国は実体的な脅威かつ巨大なリスクであり、この国の山積した問題が積み重なって形成された『チャイナショック』がますます韓国社会に深刻な影響をもたらすだろう」とみている」

 

チャイナショックが、韓国でも認識され始めたことは、この問題を早くから取り上げてきた本欄として、肩の荷が下りるような爽快な感じである。

 


(2)「歴史的に中国は長い間、朝鮮半島に存在する脅威だったが、近代以降の冷戦時代を経て、韓国と中国は国交正常化から20年以上お互いに役立つ「黄金期」を送ることができた。しかし、中国に対して友好的だった韓国内の感情は、2015年以後たった7年で「反中」に変わった。これに対して著者は「数年間で韓国人が突然に人種主義者になったという説明よりも、韓国人の中国に対する認識を変える大きな変化が、中国で発生したとみる方が説得力がある」と述べている。中国の実質的な変化とは何であるかを直視しなければならないということだ」

 

中国経済を支えてきた不動産開発が、すでに息切れ状態にある。不動産バブルの崩壊だ。習近平氏は、この実態認識を欠いているに違いない。そうでなければ、台湾の全面封鎖という危険な演習を始めるはずがない。そう言っては失礼だが、習氏に「経済を見る眼」はなさそうだ。

 

(3)「変化の中心には、改革開放以前の30年と以後の30年を自身のやりかたで統合しようという野望を持った習近平政権がある。著者によれば、習近平は「毛沢東時代の肯定的な遺産を継承し、鄧小平時代の副作用と否定的な面を克服しようとする、一種の新毛沢東主義者であり、同時に米国と西欧の没落と中国の浮上を既成事実と信じる反西欧的伝統保守主義者」だ。改革開放は、「社会主義市場経済」という一見矛盾した志向点を掲げたが、中国は集団指導体制を基盤に、米国が主導する世界経済の下で急速に成長することができた」

 

下線部は、習氏の歴史認識の前近代性を物語っている。何を以て西側の没落というのか。中国の浮上に永続性があるか。そういう「科学的認識」を欠いて、マルクスレーニン主義の「ご託宣」を信じているに過ぎない。中国の浮上を支えたのは、紛れもなく不動産バブルである。中国の科学力ではないのだ。

 


(4)「2012年に政権についた習近平は、改革開放の間に蓄積された政治・経済・社会的矛盾に大々的にメスを入れる一方、「中国夢」を前面に押し出し、米国主導の世界秩序に挑戦状を突きつけるなど大々的な方向転換をする。著者は、2008年の米国発金融危機問題が中国に与えた自信、2012年の薄煕来政変危機の結果廃棄された集団指導体制などがその背景にあると分析する。「習近平と新毛沢東主義と反西欧的伝統保守主義は、中国内部に向けては社会的反動を、中国外部に向けては覇権的な外交戦略を呼び起こすことになる」と指摘する」

 

2008年のリーマンショックは、「4兆元」のインフラ投資で悪影響を遮断できた。だが、これ以来、インフラ投資が景気下支え役として常套手段になった。この結果、中国経済の抱える債務残高(対GDP比)は、昨年1~3月で335%にも達している。これ以上の債務による景気下支えは不可能な状態である。

 


(5)「いわゆる、「中国脅威論」は中国の勃興自体を問題視するが、著者は「衰退する中国」がむしろより大きな問題である可能性もあるとし、中国内部の構造的問題点、すなわち「見えない中国」に注目する。極端に広がった都市・農村格差とこの問題の解決を遮る「戸口(戸籍)」制度、あまりにも早く訪れた人口絶壁、雪だるま式に積もった負債、一時は「現能主義」と呼ばれ経済成長の中心動力に挙げられたが、今はその弊害がますます膨らんだ独特の政治構造など、著者はほぼすべての「チャイナリスク」を一つひとつ追及する」

 

衰退する中国こそ、新たなリスクである。早いうちに台湾侵攻をしなければならないという「衰退国リスク」が囁かれているほどだ。中国は、すでに「昇り龍」でなく、「年寄り龍」に成り下がった。

 

(6)「どんな方向であれ「ショック」を避けられない不確実な状況の下、私たちは何をしなければならないのか。著者は、中国という帝国の帰還が呼び起こした「新冷戦」時代を冷静に見通す一方、気後れするのではなく自信をもって周辺の大国に対応していく必要性を強調する。反中に巻き込まれるのではなく、「国益の最大化の観点から中国を積極的に活用する」ための「用中」は基本であり、半導体産業で中国との「超格差」を維持する一方、中国に対する経済的・産業的依存度を「漸進的」に縮小していかなければならないと説く。東アジア内の勢力均衡のために、日本を戦略的パートナーとする必要性も提起する


韓国は、中国が衰退過程にあることを認識すれば、日本との外交戦略がどうあるべきか、自然に答えが出るはずだ。中国に対して「唯々諾々」になるのでなく、「イエス・ノー」をはっきりさせることである。ユン政権は、その第一歩を歩き始めた。