米議会は、中国の妨害工作をものともせずに台湾を訪問している。8月3日、ペロシ米下院議長が訪問した。14日には、マーキー米上院議員の率いる5人の米議員団が、事前発表なしに台湾を訪問して蔡英文総統と会談した。中国軍は、ペロシ氏の訪台に反発し4日間にわたる大規模軍事演習を実施したが、15日にも再び、台湾周辺で軍事演習を実施したと発表した。
中国軍は、ペロシ訪台に抗議して「力一杯」の実弾軍事演習を4日間も行なった。だが、米議会には何の痛痒も感じないどころか、強い反感を示している。「台湾政策法2022」立法府を目指し、中国へ報復する姿勢を見せている。
米議会が、このように強気の対応を取っている裏には、中国が台湾侵攻作戦を行なえば、中国自身が大きな返り血を浴びる事態になるからだ。こういう、冷静な判断が垣間見える。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月16日付)は、「中国の台湾封鎖、半導体など世界経済への影響は」と題する記事を掲載した。
台湾海峡をめぐる緊張と、中国が台湾を封鎖しようとした場合に世界経済に及ぶ可能性のある影響をまとめた。
(1)「中国が台湾を封鎖すれば、世界のサプライチェーン(供給網)が寸断され、アジアで貨物運賃が上昇するだろう。値上がりはその他の地域に及ぶ恐れもある。人口約2300万人の台湾が世界のビジネスで果たす役割が非常に大きいためだ。台湾は世界の半導体供給量の約70%を占め、スマートフォン、コンピューター、自動車などの生産チェーンの重要な一部だ。また、何兆ドルもの規模の貨物を積んで東アジアを往来する船舶が通過する太平洋航路に隣接している。台湾の輸出が停止すれば、自動車や電子機器向けの半導体が不足し、インフレ圧力が高まるだろうと指摘される」
台湾は、世界の半導体供給量の約70%を占めている。ここが、戦乱に巻き込まれれば大変な事態になる。世界経済は、止まってしまうのだ。中国は、そういう危機を引き起こそうと狙っている。
(2)「台湾は世界最大の半導体受託製造会社、台湾積体電路製造(TSMC)の本拠地。同社はアップルやクアルコムなどの企業向けに半導体を生産している。調査会社ガートナーによると、TSMCは昨年、1000億ドル(約13兆3000億円)規模の半導体製造市場で半分以上のシェアを占めた。ボストン・コンサルティング・グループと米半導体工業会(SIA)がまとめた2021年の報告書によると、台湾の半導体サプライチェーンが1年にわたって混乱した場合、世界の電子機器メーカーは約4900億ドルの損失を被る可能性がある。さらに、台湾の半導体生産が恒久的に混乱すれば、それを穴埋めする生産能力を他の地域で構築するために少なくとも3年の年月と3500億ドルの経費が必要になるという」
このパラグラフでは、台湾がいかに重要な地位を占めているかを示唆している。下線のように、中国軍によって台湾侵攻が行なわれれば、他の地域で3年の歳月と建設費3500億ドルが必要になるという。
(3)「世界的な半導体不足や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に伴うサプライチェーンの混乱により、半導体産業が台湾に圧倒的に依存していることが浮き彫りになった。このため、西側主要国は既に台湾製半導体への依存によるリスクヘッジを図ろうとしていた。米国および欧州連合(EU)は、国内・域内での将来の半導体生産拡大とアジア諸国に対する競争力強化を図るため、何百億ドルもの資金を投入する方針を表明している。ジョー・バイデン大米統領が先週署名して成立した半導体補助法による補助金支給対象候補であるTSMCは現在、アリゾナ州に120億ドルの工場を建設中である。同社はまた、日本でも70億ドルの工場建設を行っている」
台湾が、半導体「聖地」になっている以上、この台湾へ攻撃リスクがあれば、日米は国内生産を増やして「台湾ショック」に備えるべきだろう。
(4)「国際法上の戦争行為の1つである封鎖は、すべてのヒトとモノの台湾への出入りを妨げる全面的な行動から、特定タイプの行き来や商品を対象とするもっと緩い措置まで、多様な形態を取り得る。アナリストらによれば、中国軍は、空・海軍によるパトロールを実施したり、機雷を設置したり、さらに踏み込んで空港や港湾を破壊したりする可能性もある。封鎖措置を宣言するだけでも、航空会社、海運会社は、警戒措置としての運航ルートの変更を迫られるかもしれない」
台湾海峡が封鎖されれば、航空会社、海運会社は、警戒措置としての運航ルートの変更を迫られる。多大のコスト増になる。
(5)「中国軍が、台湾封鎖を維持できるだけの資源を持ち合わせているかどうかは不透明だ。シンガポールのリー・クアンユー公共政策学院の客員上級研究員であるドリュー・トンプソン氏によれば、台湾封鎖の試みはどのようなものであっても、米国、日本、その他の国々による介入を招く可能性が高いという。アナリストらによれば、軍事的、地政学的コスト以外にも、中国政府に台湾封鎖の試みを躊躇させる大きな要因が1つあるという。それは中国自体が貿易、雇用面で台湾に依存しているということだ。中国政府は、自国経済に打撃を与えずに台湾経済を損なうことはできないということだ」
台湾海峡は、国際法上の公海である。中国軍が公海を封鎖することは違法であり、日米豪などの関係国が実力を以て排除するのは当然の権利である。
中国は、最先端のコンピューターや産業機器に必要な半導体の供給をTSMCに依存している。iPhone(アイフォーン)の組み立てで最大のシェアを持つ鴻海科技集団(フォックスコン・テクノロジー・グループ)などの台湾企業は、中国本土で民間部門の雇用に大きく貢献している。そして台湾は、中国にとって太平洋航路の戦略的出入り口の役割を担っている。そこを封鎖することは、中国にも不利益になるのだ。
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