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中国人民銀(中央銀行)は15日、1年物中期貸出制度(MLF)の金利を0.1%引き下げた。雀の涙である。この程度の利下げ効果など期待薄である。社会全体が7月、銀行や市場から新たに調達した資金(社会融資規模)は7561億元(約15兆円)だった。前年比で3割もの減少である。市場は、2割増を見込んでいただけに事態は深刻である。

 

このように資金需要が減ったのは、民間による資金調達意欲が大きく落込んでいることが響いている。この中で、政府が債券を発行して調達した金額は全体の53%を占めている。5割を超すのは遡れる2017年以降で初めてである。

 


不振を極める中国経済を立て直すには、財政による支援が必要である。中国では、財政支援といえば「インフラ投資」しか行なわない。だが、先進国の行なったように、家計を直接支援する政策も検討する段階だ。

 

『ロイター』(8月15日付)は、「中国、中央政府の財政出動急務 『出し惜しみ』は危険」と題するコラムを掲載した。

 

何かあっても必ず「出し惜しみ」をするのは、非常に代償の大きな習慣と言える。中国経済が悪化を続けているというのに、政府はそれに歯止めをかけるために幾つかの政策的なブレーキを解除するのをためらっている。15日には、特に企業借り入れや若者の失業率など一連の指標が失望を誘う内容だったことを受け、人民銀行(中央銀行)が2つの政策金利引き下げに動いた。これは効果がないだろうが、政府はなお財政出動に消極的だ。

 

(1)「習近平政権を悩ませている経済危機は主として低調な需要に起因している。新型コロナウイルスの集団感染に対応して各地でロックダウン(都市封鎖)を実施した結果、消費者と消費者にモノやサービスを売る企業の活動が萎縮。小売売上高や民間投資が圧迫される事態になった。不動産価格の下落も、家計の含み資産を損ないつつある」

 


中国国家統計局が15日、7月の主要統計を発表した。前年同月と比べた増加率は工業生産が3.%、小売売上高が2.%だった。いずれも市場予想に反して、6月の伸びより縮まった。景気の停滞は、誰の目にも明らかだ。特に、小売売上高は惨憺たるものだ。平常時は8%前後の伸び率を維持していた。

 

住宅ローンを払い続けても、肝心の住宅が手に入るか未確定という、「噓」のような本当の話が起こっている。不動産開発業者が、資金を流用してしまい建築を続けられないという、信じ難い話だ。多分、地方政府にせがまれて先行する土地購入費に化けたのであろう。中国では、メチャクチャな話がまかり通る世界である。こういう不安を取り除かなければならないが、中央政府は見て見ぬ振りをしている。

 


(2)「
中国では家計、企業の双方が多額の債務を背負っており、多くは消費や投資よりも恐らく今は借金返済に奔走している。だから利下げの効果は弱まるだろう。名目上の流動性は潤沢であっても、7月の企業向け人民元建て新規融資は前月比87%も減ってわずか2880億元(420億ドル)にとどまった。誰もが明日はもっと状況が悪くなると予想している中で、もはやどれだけ多く借りられるか、あるいは借金のコストに意味はない

 

企業では、7月の新規資金需要が極端に落込んでいる。下線のように、中国経済はさらに悪化すると身構えている。金利が低下しても返済の当てがない借入れをするはずがない。最悪事態を迎えている。

 


(3)「人民銀は依然として、「洪水のような刺激策」を発動するのを渋っている。政策担当者に言わせればそれは資産バブルと不良債権問題の元凶であり、一部の見積もりでは国内不良債権額は1兆5000億ドル超に達する。その点では実に公正な判断なのだが、現時点で政府が積極的に需要を下支えしないと、ほかにそれができる経済主体は存在しない」

 

民間部門は、企業も個人も総崩れである。残る経済主体は政府である。と言っても、例のインフラ投資を増やすという「芸のない話」でなく最低限、家計の流動性を増やす方法を考えることだ。西側諸国が、パンデミック下で行なったような現金支給も考えるべきである。中国政府は、なぜかこれを避けている。目に見える形の財政赤字増大を忌避しているのだ。

 


(4)「中国では通常、中央政府が景気刺激策を打ち出しても、実際の政策措置の大部分は地方政府と政策銀行、国有企業が実行するので、中央政府のバランスシートはきれいなままだ。中央政府の債務の対国内総生産(GDP)比が約20%で推移している半面、非金融セクター向け与信の対GDP比は300%近くまで切り上がっている。しかし今や多くの地方政府や国有企業は既に借金まみれであるばかりか、収入も減ってきているため、中央政府の景気刺激策代行者としては信頼が置けなくなった」

 

中国政府は、見栄っ張りである。インフラ投資の資金は、中央政府が出さずに地方政府や国有企業に負担させている。これらは、すべて公的部門の債務として処理されるから、中央政府の財政だけ「健全」と判断されないのだ。こういう仕組みを知らないような無知なことを行なっている。

 

(5)「中央政府が、景気刺激策の実行を「外注」すべきと考えている理由は幾つかある。シーフェアラーのニコラス・ボースト氏は、頻繁に必要となる国有企業救済という事態に備えてバランスシートをできるだけ健全に保っているのだと指摘する。とはいえ現時点で、中国共産党は新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年よりも深刻な信用危機に直面しながら、それでも中央政府の財政赤字をより小幅にすることを目指し続けている」

 

中央政府の財政赤字をより小幅に見せかけている理由は、中国共産党の正統性を国民に示したいのだろう。地方政府や国有企業に堪っている負債は、これら機関の「無能」と言う形で責任転嫁する下準備である。もう一つ考えられる理由は、戦争などの緊急事態に備えて、中央政府の赤字を減らしておく算段であろう。中国政府は、「戦争」を最大の目標にしているからだ。