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先のペロシ米下院議長の訪台を巡って、中国では訪台阻止を目指した習近平氏の「恫喝発言」まで飛び出した。ペロシ氏は、これを無視し予定通り訪台を実現させた。韓国では、中国の主張に肩を持つコラムが登場している。「中国ベッタリ」である。

 

台湾問題は、中国の視点で論じるのでなく、自由世界における普遍的な価値維持という歴史的な視点が必要である。香港を見れば分る通り、言論の自由は奪われ政治の選択は不可能になった。これは、「明日の台湾」でもある。こういう現実を見れば、台湾の民主主義を守るのは、自由を享受している側が国境を越えて支援すべき義務と言えるだろう。

 


『中央日報』(8月16日付)は、「ペロシ訪台で失ったもの」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のパク・ソンフン北京特派員である。

 

米国のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪れて12日後、米国の上下院議員5人が再び台湾を訪問した。“支援射撃”だったのかもしれないが、反響は大きくなかった。エドワード・マーキー議員は民主党所属の上院外交委員会東アジア太平洋委員長だ。「今回の訪問が台湾海峡の安定と平和を増進するだろう」という彼の言葉は虚しかった。少なくとも現在の危機はペロシ議長の訪台が招いたものだからだ。

 

(1)「今回の事態で米国は中国との名分争いで押された側面がある。中国政府は1978年の「中米関係外交樹立に関する声明」に基づき、「米国は台湾とは文化、商業、その他非公式的関係だけ維持することにした」という点を繰り返し強調した。米国権力序列3位のペロシ議長の訪台は国家次元の公式訪問であり、両国間の外交的合意違反という部分に傍点をつけたのだ」

 

米国は、1979年に国内法として「台湾関係法」を制定している。これによれば、米国は中国の意向を忖度することなく、台湾との関係を継続できることになっている。その内容は、次のようなものだ。

 


米合衆国が中国と外交関係を樹立するのは、台湾の未来が平和的に解決することを期待することを基礎としている。

1)台湾に関して、米合衆国の国内法へ影響を与えずこれまで通りとする。

)1979年以前の台湾と米合衆国との間のすべての条約、外交上の協定を維持する。

3)台湾を諸外国の国家または政府と同様に扱う。ただし、米国における台湾外交官への外交特権は、認められない場合がある。

4)米国在台湾協会に対して免税措置を与える。

防衛関係

5)平和構築関係維持の為に台湾に、あくまで台湾防衛用のみに限り米国製兵器の提供を行う。

6)米合衆国は台湾居民の安全、社会や経済の制度を脅かすいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる防衛力を維持し、適切な行動を取らなければならない。

その他

7)米議会は台湾関係法について、その施行および監督を行う義務がある。

 

「台湾関係法」によれば、米議会議員が台湾を訪問する上で、何らの障害もない。この事実を、ぜひ知って欲しい。また、6)は米国の台湾防衛義務を間接的に示唆している。

 


(2)「逆に米国は中国の主張に反論する根拠が不足した。米ホワイトハウスは三権分立に基づき、訪問するかどうかに対する判断はペロシ議長にあると避けた。ペロシ議長も台湾到着直後、「習近平主席が人権と法治を無視した」と直撃したが、合意無視という中国側の主張には反論できなかった。これは結果的に中国が台湾の主要航路と港を塞ぐ初の「封鎖訓練」に口実を提供した」

 

ペロシ氏は、台湾関係法によって訪中できるのだ。このパラグラフは、完全に中国寄りである。

 

(3)「威力誇示の絶頂は、中国が台湾上空を越える弾道ミサイル発射したことだった。韓国領空を北朝鮮のミサイルが越えてきたとしたらどうだったかと想像するのは難しくない。それでも台湾国防部は「大気圏の外に飛んできて領空危険がないと判断、防空警報を発令しなかった」という納得しがたい声明を出した。発射軌跡を探知した米軍も沈黙を守った。台湾海峡境界線は常時侵犯モードだ。米議員団訪問で、中国戦闘機10機がまた台湾海峡中間線を越えた。人民開放軍報は中国ステルス戦闘機J-20が台湾海峡危機線に接近不可能だった地域まで飛行していると公開した。この際境界線を曖昧にしようという勢いだ」

 

米国が、抑制した行動を取ったのは先に行なって米中首脳電話会談で、習氏が「戦争する意思はない」と示唆した結果だ。だが、中国軍の動きを米軍は子細に傍受して分析している。米軍にとっては、またとない中国軍を観察する機会をえたのだ。早速、米国では「図上演習」が行なわれ、中国軍による兵站戦略の弱点を見抜いている。

 


(4)「22年ぶりに出した3回目の台湾白書で中国は露骨に本音を表わした。「平和統一と一国二制度」を前面に出したが、具体的表現は「平和的手段による祖国統一が優先的選択」だった。次善は武力統一だ。一国二制度の境界は曖昧だ。以前の白書では本土が軍を台湾に駐留しないと約束し、1993年白書には台湾の「軍備維持」にまで言及したが今回はすべて消えた。台湾統一は習主席が宣言した最大の政治的課題だ。名分を作ったペロシ議長に中国はかえって感謝しているかもしれない。米国も再反撃に立ち向かう雰囲気だ。台湾海峡の対決構図はさらに鋭くなった」

下線部は、完全に見誤った見解である。習氏が、国家主席3期目や4期目を目指すのは、台湾侵攻を目標にしているからだ。この前提に立てば、今回のペロシ訪台に対する中国軍の軍事演習は、またとない「事前詳細情報」を得る機会になった。その意味で成功だ。