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ウクライナ軍は、ロシア軍に占領されている南部へルソン州の奪還に向けた本格的な反攻を開始した。地元高官が8月29日に、明らかにした。

 

ウクライナのポロシェンコ前大統領は8月29日、CNNに対し、ロシア支配地域を奪還する「待望の」反攻が南部で進行中だと明らかにした。ポロシェンコ氏は「これは待望の反攻作戦だ。本日の(現地時間)午前7時に作戦が始まり、砲撃やミサイル攻撃が行われた」と説明。ウクライナ軍の部隊が反攻のためにこれほど集中投入されるのは今年2月以降初めてで、西側から供与された火砲や高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」、ミサイルも投入されているという。

 

今回の反攻作戦は、ウクライナが準備万端整えた上で開始したものだ。欧米からの長距離砲の供与によって、ウクライナ軍が主導権を握っての戦いである。

 


『ニューズウィーク 日本語版』(8月30付)は、
「『本人も困惑している』プーチンの負け戦、主導権はウクライナ側へ」と題する記事を掲載した。筆者は、元米陸軍情報分析官ウィリアム・アーキン氏である。

 

(1)「新たな戦略の用意がなく、攻勢を強めようにも兵力と装備が足りないとなれば、さすがのプーチンも停戦交渉に入るか、偽りの勝利宣言をするしかあるまい。あるいは、核兵器の使用をちらつかせることが勝利(あるいは延命)への最善の道と考えるか。米政府は当初から核兵器使用のリスクを考慮し、ウクライナ政府に対してはロシア領内の標的を攻撃しないよう、固くクギを刺してきた。結果、ロシアはある意味で戦術的な優位に立てた。だが、プーチンが核兵器を実際に使用するとは考えにくい。核兵器で攻撃するほどの軍事的標的がないからだ」

 

プーチン氏は負け戦になれば、最後に戦術核を投下するのでないかと恐れられている。だが、核兵器で攻撃するほどの軍事的標的はないのだ。この点の再認識が重要である。

 


(2)「ウクライナ兵100万のうち、4分の3に当たる75万人は2400キロ以上に及ぶ前線と後方地域、国内各地の基地に分散している。一方、第2次大戦ではナチス・ドイツとソ連・欧州連合軍が前線に1500万兵力を集結させていた。「戦術」核兵器という概念が生まれたのは、これほどの兵士が戦場に集まっていた時代だ。核兵器を擁護する人々の考えが間違っているのは、昔の戦場の状況を現代に当てはめている点にある」

 

ロシアが、ウクライナ侵攻で戦術核を使用するような客観条件がない。ウクライナ軍は全軍でも100万人でうち75万人が全土にバラバラになって位置している。一カ所に終結しているのでない。戦術核を投下しても効果はないのだ。

 


(3)「ロシア軍の士気は、確実に低下している。一方、米政府およびNATOの情報機関によれば、ウクライナ軍も同程度の死傷者が出ているものの、士気は依然として高い。新たな部隊を次々と投入し、兵士の命を守るための作戦も講じている。プーチンの号令の下、ドンバス地方の残り半分(ドネツク州)の戦線ではもっぱら砲撃戦が続いている。接近戦では士気の高いウクライナ軍に勝てないから、ロシア軍は伝統的な砲撃戦を重視し、ミサイルやロケット弾の雨を降らせている。今まではウクライナ軍が劣勢だったが、西側からの追加軍事支援により、長射程で精度の高い武器を使えるようになってきた」

 

ウクライナ戦線は、全般に状況が大きく変わっている。ロシア軍の劣勢とウクライナ軍の高い士気である。

 


(4)「オデーサを含む南部戦線では、様相が異なる。ロシア軍は立ち往生し、ドニプロ川の西側の占領地域で孤立している。ウクライナ軍が、川に架かる主要な道路や鉄道橋を破壊し、補給線を断ったためだ。前線で持ちこたえるのをやめ、ロシアの前線部隊への補給を断ち、兵糧攻めにする。ウクライナがそういう戦略に転換したため、この戦いは長引いている。もはや最前線の戦闘員を殺し、戦車を破壊すれば済む話ではない。今のウクライナ軍は後方にあるロシア軍の基地や弾薬庫、物資や燃料も攻撃できる」

 

ウクライナ軍が、ロシア軍の後方にある兵站線を叩く戦術は、NATO(北大西洋条約機構)譲りの戦術という。これは、白兵戦と異なりウクライナ軍の犠牲を少なくする作戦とされる。ロシア軍に、情勢不利と悟って自然と撤退させる高等戦術なのだ。

 

(5)「南部戦線の司令官ドミトロ・マルチェンコは、通信社RBCウクライナの取材に「いずれヘルソンは完全に解放される」と語ったが、その時期についての明言は避けた。「予測は好きじゃないが」と彼は言った。「こちらが必要とし、供与を約束された武器が全て手に入れば、来年の春には勝利を祝えると思う」。今年の春までに戦争は終わると、プーチンは読んでいた。その読みを見事に覆したウクライナの人たちは今、自信をもって先を見据える。そう、勝負は「来年」の春だ」

 

ウクライナ軍は、欧米の重火器の支援を引き続き得られれば、来年春が「勝負の時」になるとしている。勝運がウクライナ軍へ傾けば、NATO諸国の支援にも力が入るはずだ。ドイツのショルツ首相は29日、ウクライナに対し「必要な限り」支援を続けると表明した。

 

ドイツは、ウクライナに対する軍事支援について、ここ数カ月の間に「根本な心境の変化」があったとし、ウクライナへの支援を「必要な限り継続する」と表明。ドイツは向こう数週間から数カ月以内に、防空・レーダーシステムや偵察用無人機などの最新鋭の兵器をウクライナに提供すると確約した。『ロイター』(8月29日付)が報じた。