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ロシアのウクライナ侵攻は、すでに開戦6ヶ月を経た。ウクライナ軍は、南部戦線でヘルソン市奪回を目指してロシア軍へ攻勢を強めている。ドニプロ川岸には、ウクライナ軍によって兵站線を破壊された結果、数千名のロシア兵が孤立状態とされている。ロシア軍は、物資補給を目指す渡河作戦を封じられているからだ。

 

ロシア軍にとって不利な戦いになっているが、ロシアの世論はウクライナ侵攻についてどのような見方か注目される。戦争が長期化の気配を強めると共に、「賛否」が拮抗していることが分った。すでに、熱狂的な支持は消えているのだ。

 


『NHK』(9月2日付)は、「“侵攻継続と和平交渉で意見が二分” ロシア 世論調査」と題する記事を掲載した

 

ウクライナ侵攻をめぐってロシアの独立系の世論調査機関は、ロシア国内では侵攻の継続と和平交渉への移行で意見が二分しているとする調査結果を発表しました。ロシア軍によるウクライナ侵攻後、ロシアの世論調査機関「レバダセンター」は毎月下旬に全国の1600人余りを対象に対面形式で調査を行っています。

(1)「9月1日、8月の調査結果を発表し、この中で「軍事行動を続けるべきか和平交渉を開始すべきか」という質問に対して、
「軍事行動の継続」  48%  「和平交渉の開始」  44%

意見がほぼ二分しました。このうち40歳未満では過半数が「和平交渉」を選んでいて、若い世代ほど和平交渉への移行を望んでいることがうかがえます。特に18歳から24歳までの若者の30%は「ロシア軍の行動を支持しない」と答え、情報統制が強まる中でも、およそ3人に1人が侵攻への反対姿勢を示した形です。「レバダセンター」はいわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され、政権の圧力を受けながらも、独自の世論調査活動や分析を続けています」

 


この調査では、戦争継続(48%)と和平交渉(44%)がほぼ拮抗した状態である。ロシア政府が情報統制していても、ロシア軍の死傷者が最大8万名(米国防省推計)という、壊滅的な打撃を受けたニュースは浸透していると見られる。勝ち戦であれば、「戦争継続」派がもっと多かったであろう。

 

18歳から24歳までの若者では、30%が「ロシア軍の行動を支持しない」としている。この状況では、徴兵強化が大きな反対論を巻き起こすことは確実である。ロシア軍の兵士不足は深刻である。「60歳まで応募可能」という信じられない募集条件を出しているほどだ。

 

間違いなく、ロシアで「厭戦気分」が強まっている。これが、プーチン戦争の先行きを占う「カギ」になりそうだ。2024年は、ロシアの大統領選挙である。プーチン氏は、これがデッドラインになって、自ら解決策を模索せざるを得ないであろう。

 


最近、ロシアで気になる動きが増えている。国家主義者による「戦争批判」である。これは、ロシア軍部への批判であって、プーチン氏を対象にした批判でない。戦争を始めた張本人のプーチン氏でなく、軍部の稚拙な戦闘を非難する意味は、何かである。

 

米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月24日付)は、「ロシアで異例の政府批判、極右の国家主義者ら」と題する記事を掲載した。

 

ロシアで国家主義者の大物や戦争支持派のブロガーらが、ウクライナ戦争でのロシア軍の失敗やミスについて政府に批判を浴びせている。ロシア政府は戦果に関する否定的な報道を抑圧しており、そうした人たちの主張は政府が流布している内容と矛盾している。

 


(2)「ソーシャルメディア「テレグラム」のチャンネルでは、概してロシアのウクライナでの作戦を支持する論客が、ロシアの戦争への準備不足や不必要に多い犠牲者数、攻撃ペースの遅さについて、ウラジーミル・プーチン大統領率いる政府を非難している。「クレムリン(大統領府)がのんびりといつものように鼻くそをかみ続けている間、われわれの尊敬するウクライナの相手は、事もなげに手当たり次第破壊している」。極右の国家主義者イゴール・ガーキン氏は、ウクライナ軍が7月に米国から供給された兵器でロシアの標的を攻撃した後、こう書き込んだ。さらに今月、「ウクライナにおけるロシアの軍事戦略の失敗は明らかだ」とも述べた」

 

情報統制の中で、こうした発言が放置されているのは、プーチン氏へ向けられた非難でないから許されるのだ。プーチン氏は、軍部に責任を取らせて自らは逃れられると見ている証拠だ。

 


(3)「米シンクタンク、外交政策研究所(FPRI)の上級研究員を務めるロブ・リー氏は、「こうした論客の多くは、ロシア政府が手ぬるいと不満を訴えている」とし、「もしプーチンが戦争をエスカレートさせることを決めれば、彼らはそれを支持し、喜ぶだろう。その点で、彼らは政府にとって有用だ」と述べた。さらに同氏は「プーチンは恐らく、否定しきれない大きな軍事的失敗があることに気づいているだろう」と指摘。「そのはけ口が必要だ。それが政治指導者ではなく、軍事指導者に向けられている限り、問題ないだろう」と述べた」

 

ロシア内部で、こうした「内輪揉め」が起こっていることは注目に値する。一般大衆へは、厭戦ムードを高める効果として働く筈だ。ロシア内部で「化学変化」が起こっている前兆である。開戦当初、勝利を意味する「Z」マークが街中に氾濫していたが、現在は180度変わったのだ。