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8月の人民元相場は、月間ベースで6カ月連続の下落となった。米中貿易戦争のまっただ中にあった2018年10月以来、最長の値下がり局面だ。9月5日のオフショア相場では、1ドル=6.9344元(9月5日18時15分)と下げている。7元に向けた下げ相場基調である。

 

米中の金利差縮小だけで、元安相場を招いているわけでない。中国経済の失速が、失望売りを呼んでいるもの。さらに、南アジア諸国にデフォルト懸念が強くなっている。一帯一路で中国と深い関係にある国々だ。中国への負担が増えるのだ。

 


『ブルームバーグ』(9月5日付)は、「
中国人民元、安全資産から脅威に変化 他の新興国通貨も下押しか」と題する記事を掲載した。

 

ほんの数カ月前、中国人民元はウクライナでの戦争に伴う混乱やインフレ高進から投資家を保護し、新興国市場の独自の安全資産として支配的な地位を占めていた。しかし、それが今や脅威に変わりつつある。

 

(1)「中国の経済成長が失速する中、人民元は2年ぶり安値まで下落している上に、一段安が見込まれている。これを受け、ゴールドマン・サックス・グループやスカンジナビスカ・エンスキルダ・バンケン(SEB)などは、中国の近隣地域だけでなく、遠く離れたアフリカや中南米にも衝撃波が及び、元安がそれらの地域の輸出品の魅力を損ね、競争的な通貨切り下げを招くと予想している。SEBの新興国市場担当チーフストラテジスト、ペール・ハマールンド氏は「人民元がさらに下落する見込みの中、他の新興国・地域の通貨も下落圧力に直面するだろう」と指摘し、「影響は中国と輸出で直接競合する国が最も大きくなる」との見通しを示した」

 

人民元安によって、新興国通貨に影響する懸念が出て来た。そこで、中国への輸出競争力維持のために、通貨切り下げに追込まれるというものだ。中国は、これまで自国「勢力圏」を意図的に拡大してきたので、一帯一路に組込まれた諸国には大きな影響が出る。

 

(2)「人民元は8月に月間ベースで6カ月連続下落した。年内にさらに下落し、心理的な節目である1ドル=7元を超える元安になる見通しだと、ソシエテ・ジェネラルや野村ホールディングス、クレディ・アグリコルCIBなどが指摘している。ゴールドマンやソシエテ・ジェネラルは、人民元安によって韓国ウォン、台湾ドル、タイ・バーツ、マレーシア・リンギット、南アフリカ・ランドも押し下げられる可能性があると指摘。SEBは、メキシコ・ペソ、ハンガリー・フォリント、ルーマニア・レイ、トルコ・リラが最も脆弱(ぜいじゃく)だとみている」

 

人民元安では、韓国・台湾・タイなどの各国通貨が押し下げられる可能性があると見られる。

 

(3)「ソシエテ・ジェネラルの調査責任者、フェニックス・カレン氏は「中国と他の新興国・地域との貿易・金融面での関係は、過去10年間に著しく強まった。こうした深く根付いた関係を受け、世界の新興国通貨の中国からのデカップリング(切り離し)は一段と困難な状況となっている」と指摘した。中国人民銀行(中央銀行)は9月5日、人民元の中心レートを9営業日連続で予想より元高方向に設定。元安に歯止めをかけようとしているものの、強いドルがこうした防衛戦術の効力を弱めている」

 

中国は、人民元安に歯止めを掛けるべく動いているが、市場の実勢に抵抗できずにいる。すでに1ドル=7元割れは必至とみられているからだ。

 


『朝鮮日報』(9月3日付)は、「『経済危機ドミノ』が到来か、スリランカ・パキスタン・バングラデシュがIMFに支援要請」と題する記事を掲載した。

 

(4)「今年4月にデフォルト(債務不履行)を宣言したスリランカに続き、バングラデシュ、ラオス、パキスタンなど南アジア諸国が連鎖的に国家危機に陥っている。コロナ大流行以降、サプライチェーンが崩壊し、原油高によるインフレと米国など先進国の急激な利上げなどで世界的に景気が急速に後退局面に入る中、大洪水などが重なり最悪の状況を迎えているのだ。これらの国々は国際通貨基金(IMF)に緊急資金支援を要請しているが、資金支援が行われても一時的効果にとどまるとの見方が示されている」

 

英経済分析機関エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は、今後4年以内にデフォルトを宣言する可能性が高い国として、スリランカ、バングラデシュ、ラオス、パキスタンなどを上げている。いずれも、一帯一路で中国経済と深く関わっている。これら諸国の経済危機が深まれば、中国へも波及せざるを得ない。中国からの輸出が減るほかに、債務減免などを余儀なくされよう。

 


(5)「パキスタンの非営利金融コンサルティング団体「カランダーズパキスタン」のアマル・ハビブ・カーン危険管理責任者は、ブルームバーグに対し「南アジア諸国はこの10年間、低コストでドル資金を導入し、盛大なパーティーを楽しんだ。1997年の東南アジア危機の時と雰囲気が似ている」と診断した。米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)も「新興国の外貨準備高が世界的金融危機当時の2008年以後、最も急速に減少している」とし、「世界で最もぜい弱な経済圏でデフォルトのリスクが高まっている」と警告した」

 

南アジア諸国は、この10年間にわたり低コストでドル資金を導入し、急激な経済成長を遂げてきた。その反動が、これから出るというもの。中国の「裏庭」に当る諸国である。中国経済は、自国だけでも大きな問題を抱えているがさらに、これら諸国の荷物が加わると深刻度が増す。