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EU(欧州連合)で最大の経済大国のドイツが、ウクライナへの武器供与で他国に比べて「ワンテンポ」遅れている。対ロシア関係への配慮が働いていると見られる。ショルツ首相は、「歴史的大転換」とロシアへの姿勢を180度切り変えると宣言したものの、やっぱり、拘りがあるようだ。ウクライナは、この点を鋭く批判している。

 

ウクライナのドミトロ・クレバ外相は13日、ドイツが兵器の提供を止めていることを批判。「合理的な議論はひとつもなく、抽象的な恐怖と言い訳があるだけだ」とツイートした。また、ドイツは8月までに、ウクライナに12億ドル以上の軍事支援を行った。大きな額だが、イギリスやアメリカよりはるかに少なく、経済規模の小さいポーランドよりも少ないのだ。

 


ショルツ氏は14日、ドイツがウクライナに提供した武器が「決定的」な効果を生み、ウクライナ東部で「状況を変えた」と大見得を切った。だが、前述のようにウクライナ支援実態は、ポーランドよりも少ないことから、ドイツ与党も戦車を供与すべきという議論が高まっている。

 

英紙『フィナンシャル・タイムズ 電子版』(9月15付)は、「ドイツ与党、政府に『ウクライナへ戦車供与』求める」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナが反攻作戦を成功させたことを受けて、ウクライナへの戦車の供与を拒むドイツのショルツ首相に再考を求める圧力が高まっている。連立与党からも政策を疑問視する声が上がる。ウクライナへの武器供与について、ショルツ氏は慎重な姿勢を保ってきた。自走式の榴弾(りゅうだん)砲や対空砲を供与しているドイツ政府は15日、多連装ロケットシステム2基と装甲車50台を追加提供すると発表した。だが、ショルツ氏は戦車の供与には踏み込まなかった。

 


(1)「12日にランブレヒト国防相が、西側製戦車をウクライナ軍に供与している国はなく、「我が国は連携する国々との間で、ドイツが単独でそうすることはないとの了解に至っている」と述べ、従来の方針を改めて示していた。だが、ウクライナ北東部でのロシア軍の敗走を受けて、政策の転換を求める声が広がった。ロシアにとっては、首都キーウ(キエフ)と北部からの撤退を余儀なくされた3月以来の大敗北だ。北大西洋条約機構(NATO)内では、ウクライナ軍の装備が充実すればさらに多くの領土を解放できるとして、当局者が武器供与の大幅な拡大を求める国が増えている。長射程の米国製高機動ロケット砲システム「ハイマース」など、西側の兵器がウクライナの作戦成功に大きな役割を果たしていることも指摘されている」

 

ドイツ製戦車は、高性能で知られている。ウクライナ軍が、北東部でロシア軍を敗走させた実績を背景に、ドイツ製戦車を供与して占領地奪還を進めろという議論が起こっている。

 


(2)「専門家からは、反転攻勢でウクライナ軍の展開範囲が広がりすぎ、延びる一方の補給路をロシア軍に狙われやすくなる恐れがあるとの指摘も出ており、米国の「M1A2エイブラムス」や英国の「チャレンジャー2」、ドイツの「レオパルト」といった西側製の戦車や装軌車両を提供すべきだとする論拠になっている。「ウクライナの領土奪還にはスピードと防御、火力が求められる。その方法は装甲車両と火砲、防空、戦車を一体化させること以外にない」と指摘するのはドイツ国際安全保障問題研究所(SWP)の防衛アナリスト、クラウディア・メージャー氏だ」

 

下線のように、ウクライナの領土奪回には「装甲車両と火砲、防空、戦車の一体化」作戦が不可欠としている。ドイツ製戦車が、その重責の一端を担うとして注目されているものだ。

 


(3)「米国も、ドイツはもっとできるはずだと示唆している。「私はドイツがしていることの全てに敬意を表し、たたえる。それを上回るのは、ただひとつ。私がドイツと米国に行動を期待しているものが前に動くということだ」。米国のガットマン駐独大使は11日、独公共放送ZDFの番組で語った。「私たちはこれまで以上のことをする。もっとしなければならない」と指摘する」

 

米英は、ウクライナ軍へ積極的な支援をしている。EUの大国ドイツも、国格に相応しい武器支援を求められている。

 

(4)「ドイツのベーアボック外相も14日、武器供与に関する政策転換の可能性を示唆した。「新鋭戦車に関しては、私たちは連立政権内で、そして国際的に協調して決断を下さなければならない」と同氏は独紙フランクフルター・アルゲマイネに語った。「とはいえ、ウクライナが決定的な局面に差しかかった今、長く先送りすべき決断ではないと思っている」。ドイツ連邦議会のツィマーマン国防委員長(自由民主党)はさらに踏み込み、12日に地元ラジオ局の番組で「このような戦況において、ウクライナの成功は現在必要とする武器を得ることによってのみ支えられるということを、いまだに理解していない」全ての人たちに訴えかけると語った」

 

ウクライナ軍による北東部での奪回作戦成功は、当のウクライナだけでなく、西側諸国全体に勇気と希望を与えた。このチャンスを生かして、ウクライナ軍の勝利を不動のものにするには、それに相応しい武器が必要である。ドイツも、戦車供与の要請に応える時期に来た。

 


(5)「ショルツ氏自身のドイツ社会民主党(SPD)も、戦車供与に関して柔軟性を示し始めている。連邦議会で外交委員長を務める同党所属のミヒャエル・ロート氏は、西側製の戦車や歩兵戦闘車を供与した国はまだないというのは事実だと述べた。「だが、そのような取り決めは不動のものではない」と同氏は地元ラジオ局の番組で語った。「したがって我々は米国と話し合い、ほかに何を提供できるか答えを見つけ出すべきだ」と指摘」

 

ショルツ氏出身のドイツ社会民主党(SPD)も、戦車供与に柔軟姿勢になっている。ウクライナ軍の「勝ち戦」が、こういう環境を作っているのだ。