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ロシアのプーチン大統領は、予備役30万人動員令を決めた。これは、大きな賭けとなろう。プーチン氏は、ウクライナ占領地で住民投票を行い、「占領地」をロシア「領土」にする意図を示した。これによって、ウクライナ軍の奪回作戦を逆に「侵略」と定義して、核爆弾を使う意図も仄めかしている。

 

問題は、このような手品が思惑通り進むかだ。ウクライナをはじめとして、西側諸国は一斉に反発している。西側諸国は、ウクライナへさらなる大型重砲を供与して、支援する姿勢を明確にした。こうなると、ロシアは、予備役30万人動員だけでは間に合わなくなって、動員数を増やさざるを得なくなろう。それは、プーチン氏の政治基盤に大きな打撃を与えるのだ。今回の決定は、危険な賭に手を付けたと言うほかない。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月22日付)は、「予備役動員はロシア負け戦の証明」と題する社説を掲載した。

 

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ここにきてウクライナ侵略戦争をエスカレートさせる動きに出たことは、ロシアの強さを示すものではない。プーチン氏が21日に発表した予備役動員と、新たに示した核兵器使用の脅しは、ロシア国内の強硬派から成る批判勢力を当分の間なだめる上で役立つかもしれない。しかしそれによって、ウクライナの攻勢を止めることはできない。また、それによって西側諸国によるウクライナ軍への軍事支援加速が妨げられることがあってはならない。

 

(1)「プーチン氏は「部分的動員」と表現された対応策を発表した。これによって最大30万人の予備役が動員される可能性があり、この数字は非常に大きいもののように聞こえる。しかしこの動員は、ロシア政府によるウクライナ侵攻作戦が失敗しつつあることや、現在の兵力が消耗し、不十分になっていると認めたことも意味する。予備役は、すぐに前線へ送り出せるような、戦闘経験豊富な部隊ではない。彼らの多くは、かつて徴兵された人々だが、職業軍人の経験を持っておらず、今後訓練が必要になる」

 

これまで、ロシア軍のウクライナ侵攻正規軍は約18万名だ。そのうち、8万人程度がすでに死傷していると推計されている。30万人の予備役が加わっても、武器や戦い方が同じである以上、多くの死傷兵を出すのは確実である。気の毒である。

 


(2)「プーチン氏はまた、開戦当初に示していた核兵器を使用するとの脅しを改めて行った。ロシア政府は、ロシア軍がウクライナで占領している4つの地域(ドネツク、ルガンスク、ヘルソンとザポロジエ)で、ロシア連邦に加わるべきかを問う住民投票を急いで行う準備を進め、この脅しを補強しようとしている。ロシアは2014年に同様の住民投票を行ってクリミアを編入した。プーチン氏はこうした不正に操られた投票を使って、自らのウクライナでの領地獲得にうわべだけの正当性を持たせようとしている。プーチン氏の脅しが暗に示しているのは、ウクライナがこれらの領地を奪回し続けるなら、ロシアの領地になる場所を守るために同氏が戦術核を使用することが正当化されるということだ」

 

ロシアの核使用については、米軍が24時間体制で監視している。仮に、核使用に動き出せば、ウクライナ空軍機によって事前に攻撃させることもあり得るだろう。米国が、手をこまねいている筈がない。

 


(3)「ウクライナが領地奪回を続けた場合、編入はプーチン氏にとってリスクを伴うものとなる。彼はロシアのものだと宣言したばかりの土地を失いつつある理由を説明しなくてはならなくなる。
プーチン氏は恐らく、核兵器を使う準備を進めており、その脅しは真剣に受け止める必要がある。しかし、そうした措置はNATOによるウクライナへの一層の支援につながるほか、彼が戦争に関して今もなお保持している一部の国際的な支持をすべて失うことが確実だ。インド首相は先週、戦争に関してプーチン氏に公の場で厳しい意見を述べた。ロシアの戦争に対する中国の支持は、徐々に熱意のないものになっている。トルコのエルドアン大統領は今週、ロシアがクリミアを含め、ウクライナの領地から離れる必要があると述べた」

 

ロシアが核兵器を使用すれば、国際社会から孤立することは確実である。これまで、「親ロ国」とみられていた国々も、立ち去るであろう。ロシアへは莫大な賠償金が科される。第一次世界大戦時のドイツと同じ過酷な負担を背負わされることは間違いない。ロシアは没落である。

 


(4)「プーチン氏の発表が示すように戦争は終わっていない。現時点でロシアにとっての最良の選択肢は、ウクライナとの交渉による決着を目指すことだろう。しかし、ウクライナ政府は、今が自国領土からロシアを追い出す絶好の機会だということを理解している。停戦は、ウクライナでの占領を強化し、今後新たな攻撃を仕掛ける時間的余裕をロシアに与えることになる。また、ロシアが占領し、その後ウクライナ軍によって解放された地域でロシアが働いた残虐行為を世界が知れば知るほど、早期停戦の可能性はますます遠のくとみられる」

 

ロシアは、「停戦」という目くらましを使ってくる可能性もある。それに対抗するには、「占領地撤退」という原則論で立ち向かい、妥協してロシアに時間の余裕を与えてはならない、としている。

 


(5)「ロシアが侵略を断念し、占領しているウクライナの領土を返還すれば、停戦は可能かもしれない。そうした動きがない場合、今は戦車、戦闘機、さらに長距離攻撃が可能な地対地ミサイル「ATACMS」を含むウクライナへの兵器供与を加速させる時期である。侵略が失敗し、損失を食い止める必要があるとプーチン氏を説得する上で、それが最速のルートである。

 

「ATACMS」は、最大射程が165キロメートルである。現在、ウクライナ軍がロシア軍を苦しめている「ハイマース」(最大射程77キロメートル)の2倍以上の攻撃力を持つ。30万人動員令でかき集めたロシア兵も兵站部を叩かれれば、武器・弾薬・食糧は干し上がるだろう。ロシア軍の犠牲者を増やすだけだ。