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ロシアが、動員令を発令したのは第2次世界大戦以降初めてだ。ウクライナ戦争で戦闘力の補強がそれだけ急がれる状況ということだ。これまで、プロパガンダで「大勝利」を喧伝してきただけに、国民は「だまし討ち」にあった感じである。それだけに反発も大きい。果たして、動員令は戦闘力に実質的なプラスになるのか。元韓国軍少将によると、ロシア軍の戦力にならないという厳しい診断である。

 

韓国紙『中央日報』(9月23日付)は、「焦るプーチンの動員令『むしろロシア軍を亡ぼすことも」3つの根拠』と題する記コラムを掲載した。筆者は、パク・ジョングァン/韓国国防研究院客員研究員/予備役陸軍少将である。


冷戦時代、ソ連軍の平時兵力は約340万人にのぼった。戦時に動員令が発令されれば1、2週以内に約500万人が追加され、全体兵力は約840万人以上に増えるという計画だった。こうした大規模な軍隊に必要な装備と物資を管理するため、補給廠では約120万人が勤務した。冷戦以降、このような巨大システムは消えた。第2次チェチェン戦争(1999年)とジョージア戦争(2008年)では、全体規模10万人以下の範囲内で特殊部隊と臨時編成部隊で作戦を遂行した。



(1)「こうした経験を基づいてロシア軍は2008年になって大規模な動員を放棄した。その代わり契約による募兵で約100万人の兵力を維持することにした。2009年に徴集兵士の服務期間を18カ月から12カ月に短縮し、徴集兵士が海外に派兵されることを法で禁止した。しかし募兵は計画通りには進まなかった。ウクライナ侵攻直前まで募兵人員は全体兵力の約40%未満だった。問題は、海外軍事作戦に投入できる実際の兵力が約20万~30万人に限られたという点だ。さらに戦争が長期化する場合、作戦持続の限界もあった。2012~13年、ロシア軍もこうした問題点を認識し、米軍の州防衛軍制度と似た方法の導入を検討した。しかし実質的な措置はなかった。結局、プーチンの動員令はこうした構造的な問題点ために避けられない選択だ」

 

ロシア軍は、冷戦時代のような大規模な補給廠を持たずに、その場しのぎの小規模な兵站でことを済ませてきた。今回は、30万人(一説では100万人)の動員令になったが、これに即応できるバックアップ体制が取れるか疑問視されている。

 


(2)「次のような理由で、実質的な戦闘力増強効果は期待しにくいと予想される。動員兵力が装備および物資、訓練の側面で準備できていない可能性が高い。2009年から徴集兵士の服務期間が12カ月に短縮されたからだ。現在30歳過ぎまでの予備軍は、部隊で約6カ月だけ生活し、戦術訓練に熟達する前に転役した。こうした兵士にまともな戦闘力発揮を期待するのは無理だ。さらに動員のために必要な装備と物資が準備されていない可能性がある。2000年代初めまで続いたロシアの経済危機は、動員装備および物資管理体制を含め、優先順位が低い軍事システムから瓦解させた。2008年以降に本格化した国防改革は現役の将兵と部隊に集中した。動員戦力に関心を向けて予算を投入する余裕がなかったのだ

 

このパラグラフでは、ロシア軍の弱点を公にしている。30万人の動員兵力が、装備および物資、訓練の側面でバックアップできる準備できていない可能性が高いというのだ。敗戦直前の日本軍は、兵士を召集しても鉄砲を十分に与える数がなかった。ロシア軍でも、ソ連崩壊後の財政危機で、兵站部が充実しているか疑問という。

 

(2)「動員した兵力を戦場に補充する方法は2つある。各個兵士単位で補充する方法と部隊単位で補充する方法だ。戦闘力発揮の側面では当然、前者よりも後者が望ましい。米軍はベトナム戦争で個別補充方式を適用して失敗した。80年代に全般的な国防システムの革新を経た後、米軍は湾岸戦争とイラク戦争では部隊補充方式を適用して成功した。ロシア軍は個別補充方式を適用するしかないだろう。動員した兵力を受け入れる部隊が準備されていなかったからだ。すなわち、東部および南部の戦線に投入された部隊の死傷者発生で生じた空席を個別に満たすということだ。その兵力が従来の部隊員と戦闘に必要なチームワークを形成していく過程は決して簡単でない。このため新兵の半分以上が最初の戦闘で死傷する。ウクライナ戦争でもこうした現象が再現される可能性が高い」

 

動員した兵力を戦場に補充する方法は2つある。各個兵士単位で補充する方法と部隊単位で補充する方法だ。ロシア軍は、各部隊へ個別兵士を補充する方法を採用するとみられる。これは最悪で、新兵の半分以上が最初の戦闘で死傷するという。そうではなくて、部隊全体を入れ換えて戦う手法では戦闘力を増すという。ロシア軍に、兵站面でその余力がないのだ。



(3)
結論的に言えば、ロシア軍の動員令は戦闘力にも実質的なプラスにならず、国民の戦争持続意志を決定的に弱める可能性に注目する必要がある。ブリンケン米国務長官も「ロシア軍がそれだけ弱まったという信号であり、失敗の信号でもある」と評価した。プーチンの立場でそのような状況は最悪だ」

30万人動員令が、何ら成果を上げずに「討ち死」という最悪事態になれば、ロシア国内は収拾のつかない事態に陥るだろう。その危険性が、極めて高いという結論である。