a1320_000160_m
   


プーチン大統領は、非常に拙いタイミングで「30万人動員令」を掛けてしまった。原油価格の下落がはっきりして、ロシア財政は8月から赤字に転落した。ウクライナ侵攻に伴う軍事費負担が歳出増加の要因だ。そこへ、この動員令という新たな財政負担が加わる。財政破綻は近い。

 

こうして、ロシア経済は開戦当初の原油価格高騰時とは真逆の状況へ追込まれた。戦争が長引くほど、ロシア経済を窮地に追込む構造が定着したのだ。人材流出も痛手である。高度の技能保持者ほど脱出している。この影響は今後、何十年も影響するとみられている。プーチン氏は、自ら「貧乏くじ」を引いてしまった。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月29日付)は、「プーチン氏の動員令、ロシア経済に痛烈な打撃」と題する記事を掲載した。

 

プーチン氏がウクライナ侵攻にさらなる資源をつぎ込むことを決めたことで、ロシア経済に暗雲が立ちこめてきた。動員令に伴い30万人以上を新たに投入すれば、徴集兵の軍装備や訓練、給料を手当てする必要が出てくるためだ。さらに民間企業にとっては、兵役または徴兵逃れの国外脱出によって人手が奪われ、新たな問題に直面することになる。

 

(1)「折しも、エネルギー価格高騰による収益押し上げ効果はピークを過ぎたもようだ。ロシアの財政収支は8月、エネルギー収入の落ち込みが響き、赤字に転落した。これには足元の原油急落や、ロシアが欧州への天然ガス供給をほぼ完全に遮断した影響はまだ反映されておらず、すでにそれ以前の段階で国家財政が手当てできていないことになる。戦争では往々にして、長期的に戦費を確保できる経済力を持った側が勝利することが多い。ウクライナ経済も壊滅的な打撃を受けているが、西側から巨額の資金援助を受けている」

 

ロシア経済は、原油価格の急落と戦費の増大という「ダブルパンチ」を受け、急速に悪化している。長期の戦争には、耐えられない状況に追込まれてきた。

 


(2)「ロシア経済の崩壊が迫っていることを示す兆候はないが、国内の経営者や投資家の間では、部分動員令を受けて動揺が広がっている。プーチン氏の発令がさらなる徴兵に扉を開いたとの指摘もある。ほぼ国内投資家のみに限られるロシアの株式市場は、動員令の発表を受けて急落した。動員令の発令前に公表された政府データによると、8月の財政収支は大幅な赤字となった。その結果、今年1~8月の財政黒字は1370億ルーブル(約3400億円)と、1~7月の約4810億ルーブルから大幅に縮小した」

 

単月では、8月に財政赤字になった。ただ、これまでの黒字によって、1~8月は財政黒字だが、間もなく正直正銘の財政赤字国になる。いつまでも、戦争継続が不可能になる。来年は転機となろう。

 


(3)「ロシア経済が抱える問題は、自らの政策が招いた「自業自得」の側面もある。ウクライナ侵攻によるエネルギー価格の跳ね上がりは当初、ロシアに巨額の収入をもたらしていた。国際金融協会(IIF)では、1~7月のロシア連邦予算のうち、石油・ガス収入は約45%を占めていたと分析している。ところが、エネルギー価格の高騰は世界経済の成長に急ブレーキをかけ、各地で石油需要の減退を招いた。原油の国際指標である北海ブレントは6月の高値から約3割下げ、バレル当たり85ドルを割り込んでいる。ロシア産原油が約20ドルのディスカウントで取引されていることを踏まえると、ロシアはすでに財政収支を均衡させるのに必要な水準を下回る価格で原油を販売していることになる

 

財政収支を均衡させる原油価格は、S&Pグローバル・コモディティ・インサイツは2021年に、この水準をバレル当たり69ドルと推定している。現行のディスカント価格65ドルでは赤字になっている。

 

(4)「キャピタル・エコノミクスでは、ロシアの石油・ガス収入が2023年に今年の推定およそ3400億ドル(約49兆1300億円)から1700億ドルに半減すると試算している。落ち込みの規模は昨年のロシア国防予算の2倍以上に相当する額だ。西側諸国はさらに制裁を強める構えで、主要7カ国(G7)はロシア産石油に価格上限を設定する方向で調整している」

 

23年の石油・ガス収入は、今年の半分程度に落込むという。落込み幅は、国防予算の2倍以上に相当する。これでは、ロシア経済はお手上げ必至だ。

 

(5)「高まる不安から、国外脱出を図る兵役年齢のロシア人男性が国境へと殺到しており、ウクライナ侵攻以降、すでに相当な規模に達していた頭脳流出がさらに加速している。IEビジネス・スクール(マドリード)のマクシム・ミロノフ教授(金融)は、「人々は行けるところに逃げている」と話す。「彼らは高い技能を持ち、教育水準の高い労働者が中心だ。そのため今回の動員令は、来年のみならず、数十年にわたって経済に重大な影響をもたらすだろう」と指摘」

 

人材の流出が、ロシア経済の成長でブレーキになる。すでに、IT関連技術者は大挙して出国している。