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ドイツは、西ドイツ時代に高成長を遂げた。東西ドイツ後は、統一負担が大きく低成長を余儀なくされた。だがその後、EU(欧州連合)誕生で共通通貨がユーロとなり、ドイツ経済は割安な通貨で得をしてEUの経済大国として復活した。さらに、ロシアからの安いエネルギーに依存して、競争力は抜群となって、日本経済との差を詰めてきたのである。

 

だが、「好事魔多し」のとおり、ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアからの安いエネルギー依存が、すべて裏目になった。ドイツ製造業は、エネルギー高コストによって、破綻の際に立たされている。米国は、かねてからドイツのエネルギー政策が、「ロシア依存・脱原子力」でその危うさを指摘し続けてきた。米国の「予言」が的中した形だ。

 


米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月30日付)は、「ドイツ産業、エネルギー高騰で崖っぷち」と題する記事を掲載した。

 

ドイツは9月29日、広範なエネルギー価格高騰への対応策を発表した。全土に経営破綻の波が押し寄せ、ドイツ最大の産業部門を支えるサプライチェーン(供給網)が断絶しかねないという懸念が企業の間で高まっていることを受けた措置だ。独政府は、ロシアのウクライナ攻撃後のエネルギー価格高騰から企業や消費者を保護する第4弾の措置として、電気と天然ガスの価格に上限を設ける方針を明らかにした。この背景には、長年ドイツ産業のエンジンを駆動し続けてきた豊富なロシア産エネルギーが枯渇し、企業が生産縮小や投資中止に乗り出したことがある。企業や消費者の信頼感は急落し、2008年の世界金融危機時に記録した最低水準に近づいている。

 


(1)「ドイツは長年、欧州の成長をけん引し、製造業の中枢を担ってきたが、今や欧州で最も脆弱な経済の一つとなっている。ドイツ銀行のエコノミストは、個人消費や投資、純輸出の縮小により、来年の経済成長率はマイナス3.5%になると予測している。ドイツの4大シンクタンクは、エネルギー危機を理由に同国の経済成長予測を下方修正した。連邦政府に提出された年2回の報告書によると、春の時点では来年の成長予測は3.1%だったが、現在の予測はマイナス0.4%となっている。ガス不足はいずれ幾分解消されるだろうが、価格は危機前をはるかに上回る水準で推移する可能性があると報告書は警告している。「これはドイツにとって繁栄の永続的な喪失を意味する

 

ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格高騰が、ドイツ経済の首を締めることになった。脱原子力発電を進め、ロシアエネルギーへ大きく依存してきた裏目が、ドイツ経済を苦しめている。

 


(2)「業界団体「ドイツ自動車工業会」が今月実施した調査によると、独自動車会社の10社に1社はエネルギーコスト高騰の結果、生産を減らしたと回答し、さらに3分の1がそれを検討していると回答した。同団体によると、半数以上の企業が予定していた投資を中止または延期し、4分の1近くが投資を国外にシフトしようとしている。ドイツ銀行のアナリストによると、ドイツの製造業界の生産高は今年が2.5%、来年は約5%減少する見込みだ。同国の近年の繁栄の基礎となってきた輸出は、インフレ調整後でコロナ前の水準を下回っている」

 

ドイツの主要産業である自動車が、エネルギー高コストで国内生産が不利になった。国内投資を延期して海外へシフトせざるを得なくさせている。これは、国内経済を冷やす要因だ。

 


(3)「エネルギー価格は構造的に高止まりする公算が大きいため、コスト高で市場から締め出されたドイツの生産設備のうち復活するのは一部に限られそうだとアナリストはみている。これは、労働人口の高齢化で既に圧迫されているドイツの長期的な成長力を低下させる可能性がある。
S&Pグローバル ・マーケット・インテリジェンスのエコノミスト、ティモ・クライン氏は「現在のエネルギーコストとそれに伴うインフレ危機は、単なる循環的な現象ではなく、大きな構造的要素をはらんでおり、ドイツの経済見通しに対する深刻な中長期的ダメージを防ぐためには、政府の大幅な介入が必要だ」と述べた。

 

エネルギー価格の構造的高止まりによって、ドイツ産業が長期的に大きな痛手を受けることは必至な情勢である。

 


(4)「中国はドイツ最大の貿易相手国であり、多くの独企業にとって最大の単一市場だ。こうした中国への経済的な依存は、中国がロシアと対西側で結束を固めた場合、経済に一段と大きな衝撃をもたらすことになりかねない。政府当局者は今、それを懸念している」

 

ドイツ企業は、多くが中国へ進出している。中ロ枢軸で両国が結束を固めれば、ドイツへの影響が懸念される。ドイツにとって、国際情勢の急変が企業経営へ大きな影響を与える局面になった。