ロシア軍の敗走が続いている。ロシア国防省が10月4日に行った戦況説明で使用した地図には、ウクライナ南部ヘルソン州での戦況悪化がはっきりと示されていた。前日の説明で使用した同地域の地図と比較して、ロシア軍が大きく後退している。
この地図では、ヘルソン州を流れるドニプロ川西岸のロシア占領地に向かってウクライナ軍が大きく前進したとする、ウクライナや親ロシア派の高官、そして親ロシア派の軍事アナリストの報告を裏付けている。ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、ウクライナ軍が、ロシア軍の占領する南部ヘルソン州の州都ヘルソン市に向けてさらに前進したと述べた。
こうした状況下で、ウクライナはロシア大統領にプーチン氏が止まる限り、交渉しないという規定を定めた。一方のプーチン氏は、欧州を相手に和平交渉するという前提で、準備が進んでいるという見方が出て来た。
米『CNN』(10月4日付)は、「追い詰められたプーチン氏、時計の針の音は増すばかり」と題する評論を掲載した。筆者は、CNNニック・ロバートソン記者の分析記事である。
ドナルド・トランプ前大統領の下で北大西洋条約機構(NATO)大使とウクライナ特使を務めたカート・ボルカー氏は、プーチン氏が平和に向けて準備を進めているのではないかと考えている。「同氏は核兵器をちらつかせ、欧州にあらゆる脅しをかけて、その上でこう持ちかけるつもりに違いない。『OK、和平交渉をしよう。ただ、すでに私が手に入れた物は渡さない』と」
(1)「3人の米大統領に対ロシア国家安全保障で助言をしてきたフィオナ・ヒル氏も、プーチン氏が幕引きを試みているのではと考えている。「プーチン氏は勢いを失っていることを痛切に感じている。そして今、戦争を始めた時と同じやり方で戦争から身を引こうとしている。自分が統括する立場にあり、どんな交渉であれ全体の条件を定めるのは自分だという姿勢で、だ」。こうした分析が正しければ、先月26日にバルト海で起きた不可解な事象も説明がつく」
プーチン氏は、戦況の不利を見て戦争終結への準備を始めたという。その小道具として、バルト海でのパイプラインの一部を爆破。これにより、欧州へ天然ガス供給を止める意思を示した。
(2)「ロシアのパイプライン「ノルドストリーム1」「ノルドストリーム2」の少なくとも4か所からガス漏れが発見された。西側の情報機関関係者によれば、数日前にこの付近でロシア海軍の複数の船が欧州の安全保障当局によって目撃されている。ヒル氏によれば、ノルドストリームのパイプラインの破壊行為はプーチン氏が投げた最後の賽(さい)となるかもしれない。「ガス問題で後戻りはない。欧州は冬に向けてガス貯蔵量を増やし続けることはできないだろう。プーチン氏は今まさに、すべてを投げ打っている」。
元スパイのプーチン氏が考え付く戦術である。欧州へのガスを止めて、和平交渉を始めたい意思を見せ始めている。
(3)「プーチン氏の思考を加速させているもうひとつの要因は、おそらく冬の訪れだろう。ナポレオンもヒトラーもモスクワ攻略に失敗したが、ボルカー氏によれば、今はプーチン氏の重荷になっているという。「今回、ウクライナにいる自軍を維持するために補給線が必要なのはロシアのほうだ。この冬、それは非常に困難なものになるだろう。こうした要因がすべてあわさり、プーチン氏の予定が急きょ前倒しになった」
これから訪れる「冬将軍」によって、ロシア軍は補給で悩まされることは確実である。歴史的に言えば、「冬将軍」によってナポレオンやヒトラーのモスクワ攻略は失敗した。今度は、プーチン氏が冬将軍で「敗北」側へ追いやられる決定的リスクを背負っている。
(4)「ヒル氏の言葉を借りれば、要するに「今回の出来事は、ウクライナが地上戦で勢いを増し、プーチンが劣勢に追い込まれた結果だ。同氏はこうした状況への適応を図り、主導権を握って優位に立とうとしている。ヒル氏によれば、プーチン氏はウクライナではなく、バイデン大統領や同盟国との交渉を望んでいるという。「プーチン氏が言おうとしているのは基本的にこうだ。『あなた方は私と交渉し、平和を求める必要がある。それはすなわち、我々がウクライナの地で行ったことを認めるということだ』と」。
プーチン氏は、ウクライナ相手でなく欧米との直接和平交渉をねらっている。だが、欧米はウクライナが最終決定権を持つと発言している。プーチン氏の思惑は早くも外れる。当のウクライナは、プーチン氏と交渉しないとの規定を作って和平交渉を遮断した。
(5)「ボルカー氏の予測では、プーチン氏はまずフランスとドイツに働きかけると思われる。「『我々はこの戦争を終わらせる必要があり、あらゆる代償を払い、あらゆる必要な手段を講じて自国領土を守る。あなた方はウクライナに対して和解するよう圧力をかける必要がある』と言ってくるだろう」。もしこれがプーチン氏の計画なら、これまでで最大の戦略的誤算となる可能性がある。西側諸国にはプーチン氏が権力に居座る状況を望む考えがほとんどなく、米国のロイド・オースティン国防長官も夏にそうした発言をしている。これまで受けた被害を考えれば、ウクライナを見捨てる考えがないのはなおさらだ」
最終的にプーチン氏の目指す和平交渉は、立ち往生して進むまい。この間に、ロシア軍の敗北は一段と鮮明になる。核をちらつかせること自体、ロシア敗北が決定的局面へ来ている証拠だ。
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