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ロシアのプーチン大統領は19日、一方的に併合したウクライナ東・南部4州に戒厳令を導入する大統領令に署名した。ロシア軍は、ウクライナ軍の反転攻勢で戦況が不利になっており、戒厳令を出して立直しを図ろうという狙いであろう。

 

戒厳令が、侵略などの外敵脅威を理由に発令された地域では、市民の移動や政治活動を制限できるようになる。破壊された施設やインフラの復旧に市民を動員することも可能になるという。人的資源の活用が目的であろう。

 

ロシアは、戒厳令を出すほどウクライナ軍によって追込まれている。ロシア軍司令官セルゲイ・スロヴィキン将軍18日、ロシアが占拠してきた南部ヘルソン市が「困難」な状況にあるとし、住民を避難させると、ロシア国営テレビで述べた。司令官スロヴィキン将軍は、プーチン大統領から、戦線立直しの任務を与えられて着任したばかりだ。

 


スロヴィキン将軍は、「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を持つほど、「必要などんな手段も使う」というほど容赦ない攻撃で知られる人物である。そのスロヴィキン将軍が、もはやヘルソン市でウクライナ軍を押し返す手立てがないほどロシア軍は劣勢に立たされているのだ。

 

英『BBC』(10月19日付)は、「ロシア軍司令官、南部ヘルソンは『緊迫』 異例の厳しい認識」と題する記事を掲載した。

 

(1)「スロヴィキン司令官は、「アルマゲドン(最終戦争)将軍」の異名を持つ将軍である。最近、ウクライナでの戦争の作戦統括者に任命された。同将軍は、ウクライナ軍が高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使い、市内のインフラや住宅を攻撃していると主張。「ロシア軍は何よりもまず、ヘルソン市民の安全な避難を確保する」と述べた。また、「全体として、特別軍事作戦地帯の状況は緊迫していると言える」とした。スロヴィキン将軍が、大きな問題の存在を認めるのは珍しい」

 

スロヴィキン将軍は、戦争経験が豊富でシリアで多くの民間人の死者を出したロシアの空爆を指揮した。チェチェンでは、人権侵害で非難された部隊を指揮した経験も持つ。この百戦錬磨の将軍が、ウクライナ軍へ何らの対抗策も取れず、撤退を臭わせているのは、ロシア軍に武器弾薬もなくどうにもならない事態を迎えていることを告げている。

 


(2)「同将軍の見方には、ロシアに任命された現地の当局者、キリル・ストレムソフ氏も同調した。ストレムソフ氏はメッセージアプリのテレグラムで、ウクライナ軍が「ごく近い将来に」ヘルソン市を攻撃すると警告。「私の言葉を真剣に受け止めてください。できるだけ早い避難が大事です」と呼びかけた。ドニプロ川西岸の人々が最も危険だとした。同じくロシアが任命したヘルソン州のウラジーミル・サルド知事も、ビデオメッセージの中で、同様の状況認識を示した」

 

ロシア軍は、ウクライナ軍の攻撃でドニプロ川西岸の防衛戦を死守できなくなっていることを示唆している。ここには、約2万5000人のロシア軍が陣を構えている。ウクライナ軍の兵站線攻撃で、ロシア軍は武器・弾薬・食糧の補給がストップしている結果であろう。

 

(3)「ヘルソン市は、2月に侵攻を開始したロシア軍が最初に制圧した大都市。ウクライナ軍はここ数週間、同市付近の国土を着実に奪還している。ドニプロ川に沿って南に30キロメートル近く進んでおり、ロシア軍を追い込む勢いだ。ヘルソン市は、ロシア軍が占拠した唯一の州都。ロシアは現在、ヘルソンなど4州をロシアの一部だと主張している。国際社会はこれを認めていない」

 

ヘルソン市は、クリミア半島防衛にも関係を持つ重要拠点である。ロシア軍がここから撤退することになれば、ロシア軍のウクライナ侵攻は大きなヤマ場を迎えたことになる。敗色濃厚という烙印を押されるだろう。

 


(4)「
スロヴィキン将軍はさらに、ウクライナのロケット弾がヘルソン市のアントニフスキー橋とカホフカ水力発電ダムを損壊させ、幹線道路の交通を遮断したと説明した。そして、食料配送、水、電気といった生活に不可欠なサービスの提供に問題が生じているとした。同将軍はまた、ウクライナ軍が広範囲にわたる前線で、絶え間ない攻撃を仕掛けていると述べた。東はクピャンスクとリマン、南はミコライウからクリヴィー・リフにかけての戦線を挙げた」

 

スロヴィキン将軍は、戦争経験が豊富である。その「鬼将軍」が、手も足も出ないほどの追詰められ方をしている。ウクライナ軍の兵站線攻撃が、見事な成果を上げている証拠だ。ロシア軍は、もはや挽回不可能になった。