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米国は、中国の台湾侵攻を抑制すべく、台湾で新鋭武器の共同生産の検討を始めた。中国は、ロシアから武器を輸入しているが、現在のロシアは経済制裁によってほぼ武器生産が止まったままだ。中国国内での武器生産に限界がある以上、台湾が米国と武器の共同生産に着手すれば、装備面での格差は縮小する可能性も生まれよう。中国としては、気になる動きである。

 

『日本経済新聞 電子版』(10月19日付)は、「米国、台湾と武器共同生産へ協議 中国抑止へ提供前倒し」と題する記事を掲載した。

 

バイデン米政権が米国製の武器を台湾と共同生産する案を検討していることが分かった。関係者3人が日本経済新聞の取材で明らかにした。携行型の防空システムや弾薬を念頭に置く。台湾有事に備えて協力して生産能力を高める。武器提供を早めて中国抑止を急ぐ。

 

(1)「ブリンケン米国務長官は17日、西部カリフォルニア州で開いたイベントで「中国は以前に比べてかなり早い時間軸で(台湾との)再統一を目指すと決意した」と指摘した。22日まで開くだい20回共産党大会で中国の習近平国家主席は異例の3期目を決めるとみられ、台湾への軍事的圧力をさらに強める可能性がある。米台の共同生産をめぐって、関係者の一人は初期段階の協議が始まったと認めた。米国の防衛企業が技術供与をして台湾で武器を製造したり、台湾でつくった部品を使って米国で生産したりする案がある。別の関係者は「2023年を通して詳細を詰めることになるだろう」と語った」

 

先の習近平国家主席による演説で、台湾解放作戦の時期が早まるという見方が増えている。これに備えて、米台当局は武器製造で準備を早めることになった。

 


(2)「米大手防衛企業が加盟する米国・台湾ビジネス評議会は、「米国の弾薬や(戦闘機や艦船などの)プラットフォームについて米国と台湾が共同生産したことはない」とコメントした。米国の歴代政権は機密情報が漏れるリスクを懸念し、米国製武器の共同生産に慎重だったとみられる。バイデン政権が共同生産を検討するのは、引き渡しを早めるためだ。一般的に米政府が武器売却を承認してから引き渡しが完了するまで数年から10年程度を要するケースが多い。一方で米軍は中国が27年までに台湾侵攻能力を取得すると分析しており、台湾の自衛力向上に残された時間は限られる

 

米国は、中国が2027年までに台湾侵攻能力を得るものと観測している。残されて時間は限られていることから、武器の生産を早める手段として共同生産を検討するもの。

 

(3)「ウクライナ向けの武器供与が急増し、米国だけで世界の武器需要を満たすのが難しくなった事情もある。米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問は9月中旬のリポートで、携行型の防空システム「スティンガー」や高機動ロケット砲システム「ハイマース」の米国の在庫について「乏しい」と指摘した。スティンガーは米防衛大手レイセオン・テクノロジーズ、ハイマースは同ロッキード・マーチンがそれぞれ製造している」

 

米国は、ウクライナへの武器供与で在庫が減っていることもあり、台湾への武器供与が加わると、生産能力以上の需要が殺到する事情を考慮しなければならない。これも、台湾との共同生産構想の背景にある。

 


(4)「台湾の国防部(国防省)は5月、スティンガーについて26年3月までに順次受け取る計画だったが納入ペースが遅れる可能性があると明らかにした。自走りゅう弾砲は納入の遅れを理由に別の兵器に調達を切り替える構えだ。ハイマースの受け取り完了は27年、対艦ミサイルシステム「ハープーン」は28年ごろとみられている。日経が入手した22年春の米議会の資料によると、米政府が19年7月以降に売却を承認した案件では少なくとも10件の武器の引き渡しが完了しておらず、規模は米政府の見積もりで130億㌦(約1兆9000億円)を超える。台湾の国防部は日経の取材に「米国に台湾への武器納入を急ぐよう要請していく」と述べた」

 

米国は、これまでに台湾へ武器売却を承認した案件でも、引き渡しが遅れている件数が10件もある。これに新規の売却が加わると、2027年までに引き渡しが難しくなる。こうした事情も米台共同生産構想の背景にある。

 


(5)「バイデン政権は台湾の自衛力強化を加速させるため関係国にも台湾への武器支援を働きかける構えだ。台湾向けの武器や関連部品の提供について意向調査に着手した。主要7カ国(G7)は台湾海峡の平和と安定を維持する立場で一致し、武器支援に前向きな意見が出てきた。英国のトラス首相は9月、CNNテレビのインタビューで「台湾が自らを防衛できるように同盟国と協力する決意だ」と強調した。フランスはフリゲート艦や戦闘機について台湾との取引実績がある。英国の国際戦略研究所(IISS)によると、台湾の武器輸入元は16~20年に全て米国だった。台湾と国交を持たない欧州やアジア諸国による武器支援に中国が激しく反発する公算が大きく、各国は難しい判断を迫られる」

 

米国以外の国々で、台湾への武器生産で協力すれば、中国が反発することも考えられる。この問題をいかにクリアするか。新たな外交問題も生じよう。