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習近平氏は、国家主席3期目を目指して「自立自強」を強調した。毛沢東の「自力更生」をもじった言葉とされる。西側諸国の技術(力)を借りずとも、2035年に一人当り名目GDPを先進国(イタリアを想定)並みにすると力んで見せたのである。

 

この構想は、実現するだろうか。専門家は、即座に「ノー」と否定している。本欄でも、これまで一貫してこれを否定してきた。中国の前途には「中進国のワナ」が控えていることを忘れた「夢物語」である。

 

米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月28日付)は、「『中所得国のわな』に陥りつつある中国」と題する寄稿を掲載した。筆者は、ミッキー・D・レビー氏。ベレンバーグ・キャピタル・マーケッツの上級エコノミストで、米シンクタンク、フーバー研究所の客員研究員である。

 

習近平総書記(国家主席)の権力が確固たるものになり、中国の未来に関する同氏のイデオロギー的な見解が確認された。それ以外に、中国政府が低迷する同国経済にどう対応するかについてはほとんど明らかにされなかった。成長は減速しており、独裁体制の強化は長期的な問題を悪化させるだけだろう。指揮統制型の統治モデルには本質的な欠陥がある。中国政府が統制を強めるにつれて、経済成長への足かせは大きくなり、その度合いは増すだろう。

 

(1)「習主席が、市場経済離れを加速させているのは全く皮肉なことだ。中国を現在のような経済大国に発展させたのは、まさに市場経済だからだ。中国を貧困から救い出した力強い経済成長は、ハイブリッド型のモデルによって推進された。それは国家資本主義の一形態で、中国政府は、生産性の低い大規模な国有企業と並行して、民間による所有と米国式の自由な企業活動の隆盛を認めた」

 

下線は、重要な指摘をしている。中国の急成長を実現したものは、「一人っ子政策」による生産年齢人口比率の急上昇と市場原理の導入である。習氏は、市場原理導入が政敵の隠れ蓑になることを恐れている。そのため、市場経済を抑制して計画経済へ戻すとしている。これは、生産性を抑制するのだ。さらに悪いことに、すでに2011年から生産年齢人口比率は低下に向かい経済成長率を押し下げるのだ。こういう、状況下では、市場経済原理の継続が不可欠である。習氏は、逆行しているのだ。

 

(2)「輸出関連の中国製造業は、低コストの労働力や政府による投資に加えて、国外の技術とノウハウを効率良く獲得したことを原動力にして活況を呈した。自由な企業活動が認められたことによって、人材が中国に流入し、技術革新と生産性向上をけん引した。世界の輸出に占める中国のシェアは2000年の4%から2015年には14%に高まり、高賃金の雇用を生み出すとともに、国内の繁栄をもたらし、それが近代的な都市インフラを資金面で支えた。この期間の世界経済成長の30%を中国が占めた」

 

中国は、まさに1)によって急成長を遂げた。今後は、人口動態面からも成長率は低下する。それだけに、市場経済原理を重視した政策を続けなければならない。決して止めてはならならないのだ。習氏は逆のことをしようとしている。

 

(3)「一部の論客は、中国の経済成長モデルが米国の資本主義に代わる好ましい選択肢になると謳い、遠い未来まで急成長が続くと予測していた。それは甘い考えだった。経済はそのようには機能しない。中国の安価な労働力供給が底を突くのに伴い、賃金や生産コストが急増する一方、投下資本利益率は低下した。資本と労働力の投入による総合的な生産性は下がった。輸出関連の製造業を中心とするモデルから国内消費を中心とするモデルに移行するという中国の目標は達成できず、成長はますます政府支出に依存するようになっている。これは失敗が運命付けられた政策だ」

 

経済成長に「中国式」は存在しない。存在するものは、市場原理による生産性の増加だ。習氏の描く「中国式」は、反市場原理であって滅亡の経済方程式である。毒薬を飲んではいけないのだ。

 

(4)「習政権は自由な企業活動を抑制し、中国に繁栄をもたらしたものをむしばんでいる。より厳しい締め付けは、民間の起業家精神や、技術革新と資本の移動を押さえつけている。政府が産業の所有を進め、国家の資源配分が官僚的に行われていることにより、非効率性と余剰が生じている」

 

習氏は、マルクス主義によって目を塞がれている。経済は、マルクスという政治原理によらず、合理的な市場経済システムによって発展する。この分かりきったことが、なぜ分からないのか。歯がゆい思いだ。習氏は、マルクス主義という「麻薬」によって、正常な判断力を奪われているとしか言いようがない。

 

(5)「中国の不動産問題を例に取ろう。中央政府の計画立案者は、著しく高い国内総生産(GDP)の目標を掲げ続け、インフラや居住用不動産に対する政府支出を増やすことで、それを達成した。従順な地方の党指導者は土地の売却益や不動産開発業者が創出した雇用から恩恵を受けた。開発ブームと不動産価格の上昇により、不動産関連の活動がGDPに占める割合は25%以上、家計の純資産に占める割合は約75%と、非常に不健全かつ持続不可能な水準に到達した。そうした行き過ぎた状態は破綻をきたしつつあり、住宅価格の急落と先行きの見通しの悪化は家計の純資産に打撃を与え、信頼感を低下させている」

 

中国の現状は、このパラグラフの通りになっている。もはや限界にぶつかっている。この状況では、2035年に一人当り名目GDPがイタリア並みの3万ドルへは達しない。その前で挫折して「中進国のワナ」へ落込むのは必至である。今後、平均して5%強の成長を35年まで続けられる保証はないのだ。人民元高は続かない。人民元売りを警戒する段階になった。これも、「中進国のワナ」に拍車をかける。