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習近平氏は、異例の中国国家主席3期目を実現させた。「公約」は、台湾解放である。ただ、習氏は4期目も視野に入れている。こうなると、台湾侵攻は今後10年間の課題という見方も出てくる。いずれにしても、台湾侵攻の旗印を掲げているだけに、台湾リスクも高まらざるを得ない状況だ。

 

だが、台湾リスクを嘲るように投資の「神様」バフェット氏が、台湾半導体を代表するTSMC(台湾積体電路製造)株へ41億ドルもの巨額の投資をしたことが判明した。バフェット氏は、長期投資が原則である。とすれば、台湾リスクをどう読んでいるのか興味深い。中国のEV(電気自動車)メーカーBYD株は最近、一貫して売却している。「中国売りの台湾買い」に出ているのだ。

 

『ロイター』(11月15日付)は、「バフェット氏のバークシャー、台湾TSMC株41億ドル超取得」と題する記事を掲載した。

 

著名投資家バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハザウェイは14日、半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の株式を41億ドル余り購入したと明らかにした。

 

(1)「規制当局への提出文書によると、バークシャーが保有するTSMCの米国預託株式(ADS)は9月末時点で約6010万株。同社がテクノロジー分野に大規模投資をするのはまれ。ガードナー・ルッソ&クインのパートナー、トム・ルッソ氏は「バークシャーはTSMCの製品なしで世界は成り立たないとみているのではないか」と述べた」

 

バフェット氏は、ハイテク企業への投資に慎重であった。それにも関わらず、41億ドル強の投資に踏み切ったのは、TSMCの抜群の技術力と財務内容の良さを評価したのであろう。「台湾リスク」も当然、検討している筈。その点は、「当面は起こらない」という判断かも知れない。どういう筋の情報を得たのかは不明だが、目先の台湾侵攻はないと見ているのだろう。

 

『ロイター』(11月16日付)は、「台湾総統、半導体産業巡るリスクを否定 ASMLの投資を歓迎」と題する記事を掲載した。

 

台湾の蔡英文総統は、半導体産業への投資リスクに関する「うわさ」を否定し、政府は投資を継続できるよう取り組んでいると強調した。

 

(2)「台湾は中国軍による威嚇を受けており、半導体業界は台湾を巡るリスクを見直している。こうした中、蔡氏は15日にオランダの半導体製造装置メーカー、ASMLホールディングのフレデリック・シュナイダーモーヌリ最高執行責任者(COO)と会談。総統府の発表によると、COOは今後も台湾への投資を増やす方針を伝え、ASMLが台湾に5つの工場を保有し4500人以上を雇用していることに言及した」

 

世界一になったオランダの半導体製造装置メーカー、ASMLホールディングは、今後も台湾投資を続けると発表した。また、韓国へも初進出する意向を見せている。ASMLが、アジア進出へより積極姿勢を見せている裏には、日本が国策事業として先端半導体「ビヨンド2ナノ」宣言を発したことに刺激されているのかも知れない。日本が、いずれ巻き返してASMLへ再挑戦することを恐れているのであろうか。かつての「日の丸」半導体は、世界屈指であった。

 

(3)「蔡氏は声明で、「世界が台湾に注目し懸念している中で、具体的な行動を示し台湾に投資しているASMLに非常に感謝している」とし「台湾のリスクを誇張するうわさを払拭するものでもある」と指摘した。蔡英文総統はまた「台湾が民主的な友好国と協力を深め、より安全で強靭なグローバルサプライチェーンを構築する」ことを期待していると表明した。台湾の王美華経済部長(経済相)は16日、米投資会社バークシャー・ハザウェイが台湾積体電路製造(TSMC)の株式を41億ドル以上購入したことについて、信頼感が高まると記者団に述べた」

 

台湾半導体が、世界注目の存在になった。システム半導体では、台湾が世界一の実績を上げているからだ。米議会は、こうした貴重な存在になっている台湾の地政学的リスクを減らそうと「防衛」努力をしている。

 

『日本経済新聞 電子版』(11月16日付)は、「米議会委「対中国制裁策定へ新組織を」、台湾有事に備え」と題する記事を掲載した。

 

(4)「元政府高官らでつくる米議会の超党派諮問委員会は15日、中国の軍事力や経済に関する報告書(2022年版)を公表した。中国が台湾に侵攻する場合に備え、中国に対する経済制裁を策定する省庁横断の組織を創設するよう求めた。米軍と台湾軍の相互運用性の向上も訴えた」

 

報告書は、米中経済安全保障再考委員会(USCC)がまとめた。米中関係の主要テーマについて専門家にヒアリングして年次報告書をまとめているもの。安全保障関係者の関心が高く、米政府や議会への影響力が強いとされる。その中で、中国の台湾侵攻に備えて、中国に対する経済制裁を策定する省庁横断の組織を創設するよう求めたのだ。米軍と台湾軍の相互運用性の向上も訴えている。これらは、実現の方向であろう。

 

「台湾リスク」は、「中国リスク」になることは確実である。習氏も、安易に侵攻できない困難性を伴っているのだ。失敗すれば、習氏の首が確実に飛ぶ問題である。