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米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は16日の記者会見で、「ウクライナが軍事的に勝利することも当面ないだろう」と指摘した。その上で「ロシア軍は大きなダメージを受けており、政治的判断で撤退する可能性はある」と述べ、攻勢に出ているウクライナにとっては交渉の好機だとの考えを示した。

 

ミリー氏は、「冬将軍」の到来で、勢いに乗るウクライナ軍も思うに任せた作戦が不可能になろう、と推測している。この冬将軍は、ウクライナ軍とロシア軍へ「平等」な重荷となるが、ウクライナ軍のほうが有利な戦いをするだろうという専門家の意見を紹介したい。

 

『ニューズウィーク 日本語版』(11月17日付)は、「冬将軍はウクライナに味方する」―専門家」と題する記事を掲載した。

 

ヨーロッパは本格的な冬を迎えつつある。厳寒期のウクライナでは、ロシア、ウクライナ両軍が苦戦を迫られることになる。寒さ以上に凍結が兵士たちを苦しめるだろう。気温低下と日照時間の短縮は、ロシア軍にとっても障害となる。日照時間が短くなると負傷兵を救出できる時間が短くなる、氷点下で兵器の不具合が起きやすくなることなど、厳冬の到来はロシア・ウクライナ両軍を手こずらせるだろう。英国防省は11月14日朝、ツイッターの公式アカウントに厳寒期に両軍が直面する問題を詳述した情報機関のリポートを掲載した。以下はその要旨。

 

(1)「冬を迎えることで戦闘の条件は変化する。日照時間、気温、天候の変化で、前線の兵士たちはこの季節特有の困難な状況に直面することになる。ロシア参謀本部は冬の気象状況を考慮に入れてあらゆる決定を下すことになるだろう」と、リポートは述べている。夏の間は1日15、16時間だった欧州大陸の日照時間は、平均9時間足らずになる。それにより、両軍とも支配地域拡大のための攻撃から、前線を守るための防衛へと、戦略をシフトさせることになると、リポートは指摘している」

 

欧州の冬の日照時間は短い。昼間の戦闘が中心になろうから、両軍ともに戦略の知恵を絞った攻撃を展開するはずだ。冬季の睡眠ではない。

 

(2)「米シンクタンク・戦略国際問題研究所の上級顧問、マーク・カンチアンは極寒期にも戦闘は続くとみている。「そもそもこの戦争が勃発したのはまだ寒さが続く2月24日だ。それに第2次大戦ではソ連軍は冬の間も日常的に攻勢に打って出ていた」と、本誌宛のメールでカンチアンは指摘した。「寒い時期には、戦闘が集落の周辺に集中する傾向がある。そのほうが兵士たちは暖をとりやすいからだ。また短い日照時間に戦闘が集中することにもなる。今は暗視ゴーグルがあるから、夜間の作戦行動も可能だが、両軍とも兵士の訓練レベルはさほど高くない。夜間の作戦遂行には高度なスキルが求められる」。リポートによれば、暗視装置は「貴重な装備品」であり、両軍とも夜間の攻撃を仕掛けることには及び腰だという」

 

ロシア軍がヘルソン市を撤退したのは、「冬将軍」到来を考えれば賢明な策である。兵站で大きな打撃を被ったロシア軍が、「丸裸」状態でウクライナ軍と対峙するのは自殺行為であるからだ。

 

(3)「12月以降の数カ月、ウクライナでは平均気温が0度近くか氷点下まで下がる日々が続く。戦闘での負傷に加え、凍傷、低体温症なども兵士たちを苦しめるだろう。「しかも、重傷を負った兵士を救出できる時間帯がざっと半分に減り、救出中に敵に遭遇する危険性も高まる」と、リポートは述べている。気温低下で兵器の不具合も増える。部隊が戦闘を終えて拠点に戻ると、兵器は比較的暖かいシェルターに収められる」

 

ウクライナ軍は、NATOからの支援で防寒具も完備している。一方のロシア軍は不足しているという。むしろ、ウクライナ軍が冬将軍を利用した形で、ロシア軍へ圧迫を加えるという見方を取り上げたい。

 

「次の激戦地になるとみられるのは、東部ドンバス地方のドネツク州付近、特にバフムト、アウディーイウカの周辺と、南部の戦略的要衝メリトポリとマリウポリへとつながる一帯だ。ドネツクでは、すでに集中的な砲撃や近接戦闘で両軍が激しくぶつかり合っている」。『フィナンシャル・タイムズ』(11月16日付)は、次の攻防戦をこのように推測してみせるのだ。

 

(4)「急激な温度の変化で、機械の内部に結露が生じ、兵器が再び野外に持ち出されたときに、それが凍結して、動かなくなることがあると、米軍の情報サイト、ミリタリー・ドットコムと米陸軍の報道資料は述べている。こうした冬特有の問題は両軍を悩ませるが、うまく対処すれば戦況を有利に持ち込める可能性もある。「ウクライナ軍が有利になるだろう。補給がまずまず機能しており、アメリカはじめNATOが寒冷地仕様の装備を提供しているからだ」と、カンチアンは言う。「ロシア軍は冬の実戦経験を豊富に積んでいるが、兵站が脆弱な状況では、培われたスキルや戦法を生かしきれない」。アメリカ・カトリック大学の歴史学部長で、冷戦史と米ロ関係の専門家であるマイケル・キメジ教授も冬への備えではウクライナに分があるとみている。」

 

ウクライナ軍が有利という読みだ。地元だけに、国民からの圧倒的な支援を受けられる。ロシア軍は占領地での「冬将軍」襲来である。この差は大きいのだ。