浮上した27年台湾侵攻説
中国は西側へ高い経済依存
半導体では手も足も出ない
「派閥争い」絡む政策転換
習近平氏は、念願の中国国家主席3期目を実現させた。最高指導部メンバーは全員、習氏に近い人脈で固めた。これで、心置きなく台湾侵攻作戦を発動できる体制ができ上がったと言えよう。習氏と中国経済の運命は、ここからどう転ぶかである。習氏は、むろん必勝体制を組むであろうが、それを阻止する要因も極めて大きいことに留意する必要がある。
最大の問題は、中国経済が2001年のWTO(世界貿易機関)加盟以来、世界経済と深い関わりを持ったことである。西側諸国は、中国の輸出国6位までのシェアが30.6%(2020年)を占める。輸入国6位までになると、西側諸国が44.0%(同)にも達している。この事実は、中国が台湾侵攻と同時に受けるであろう西側諸国からの制裁によって、経済をマヒさせられることを予告している。主要の輸入がストップするからだ。
中国が、事前にこの制裁を回避すべく輸入を急げば、必ずその意図を詮索される。そして、「台湾侵攻作戦」準備と気取られれば、西側は黙って見ているはずがない。米上院外交委員会ではすでに、この段階から中国へ制裁を発動させる法案を可決している。要するに、ロシアのウクライナ侵攻という前例があるので、中国の台湾侵攻へは「万全の阻止体制」が組まれることになろう。
その上、台湾海峡(最短部で140キロメートル)という天然の要塞が存在する。ロシアのウクライナ侵攻では、国境を接していることから、易々と国境線を越えられた。台湾侵攻ではそういう「利便性」がなく、台湾海峡という存在が最初に立ちはだかる難所になる。
浮上した27年台湾侵攻説
現在、中国はすでに台湾侵攻の準備を始めているのか。2021年春まで務めた米インド太平洋軍司令官は21年の米議会証言で、中国が2027年に台湾を侵攻すると予測した。米軍のマーク・ミリー統合参謀本部議長も、2027年が人民解放軍創設100周年にあたることから、この予測を支持している。
27年はちょうど、習氏の国家主席3期目が終わる年だ。習氏が、4期目を狙う足掛かりとして、台湾侵攻を始めるというものであろうか。個人の栄達目的で、習氏が戦争を始めるという民主主義社会では、想定もできない「おぞましい」推測である。
中国が台湾侵攻作戦を始めるには、大部隊が台湾海峡を超えなければならない。軍事専門家によれば、その準備に半年から1年はかかるという。西側諸国に気づかれずに、そのような準備をすることは不可能とされる。人工衛星などで事前に把握できるからだ。
米国の情報機関は現在、中国において、ロシアがウクライナ侵攻前に見せたような、軍の全体的増強に向かう気配を感じていない、としている。中国軍が、近代戦史上で最大の水陸両用攻撃に必要な準備は、まだ始めていないと判断しているのだ。中国と習氏は、この大掛かりな戦争に運命を賭けようとしている。賢明な選択ではない。
ヘインズ米国家情報長官は、22年5月の米上院委員会で、中国は2030年までに「欧米の介入をものともせずに、軍事力で台湾を奪える立場を確立しようと懸命に取り組んでいる」と述べた。この見方によれば、台湾侵攻は習氏の国家主席4期目になる2027年以降に持ち越される可能性を示唆している。
習氏が開戦に踏み切れば、短期戦で終わる可能性のないことは、ロシアのウクライナ侵攻で証明済である。西側諸国が、結束して台湾を支援するからだ。「価値同盟」という視点でウクライナを支援した西側諸国が、台湾を支援しないことは道義的にもあり得ないことである。中国は、こういう「計算外」のことを考えておかなければならないのだ。
欧州は、ウクライナ侵攻への制裁において、ロシアからエネルギー供給で報復を受けた。西側が、台湾侵攻で中国へ制裁を課しても、エネルギーや食糧の面で報復される懸念はない。ましてや、台湾侵攻が2030年以降になれば、サプライチェーンの切り変え時間も増える。こうなると西側諸国は、台湾支援・中国制裁でかなりゆとりを持って行なえるだろう。
中国は西側へ高い経済依存
西側諸国が、中国へ経済制裁を課して、輸出入を禁止ないし制限した場合、中国はどのような影響が出るだろうか。中国の主要輸出入国のシェアは、次の通りである。
輸出(2020年)
米国 17.4%
香港 10.6%
日本 5.5%
ベトナム 4.4%
韓国 4.4%
ドイツ 3.3%
輸入(2020年)
台湾 9.8%
日本 8.5%
韓国 8.4%
米国 6.6%
豪州 5.6%
ドイツ 5.1%
(資料出所:日本貿易会)
輸出主要国では、香港やベトナム以外の全てが西側であり、シェア合計は30.6%である。輸入主要国では、上位6ヶ国がすべて西側で44%も占める。中国は、西側から素材や中間品を輸入して製品化し、西側へ輸出する「加工型貿易」である。西側からの輸入が止れば、輸出も不可能という国である。西側への依存度が、極めて大きいのだ。(つづく)
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