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ウクライナ軍は、ヘルソン州都ヘルソン市を「無血奪還」に成功した。ロシア軍の兵站線を徹底的に叩いたことで戦意喪失し、3万とされるロシア軍を撤退に追い込んだもの。これからは、「冬将軍」を迎える。このことから戦線膠着が予想され、「停戦論」が聞かれるようになってきた。

 

これに対し、ウクライナ軍のザルジニー総司令官は17日までに、同国の目標はロシアが侵攻して奪った全ての自国領の解放であり、ロシアとの交渉に応じる唯一の条件は全占領地からの撤退であるとの考えを示した。ザルジニー総司令官は、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長との会談で改めてこれを主張。この条件が満たさなければ、「ウクライナ軍は一切の交渉、合意事項や妥協的な決定は受け入れない考えを伝えた」とした。『CNN』(11月17日付)が報じた。

 

このように、停戦論が聞かれ始めたが、米ロ高官は密接な連絡をとっていることが判明した。表向きは、米国がロシアへ核を使用せぬように警告しているとされる。だが、それだけにと止らず、「停戦」が議題に上がっていると推測される。そうでなければ、ザルジニー総司令官が停戦問題に言及する筈がないのだ。

 

問題は、ロシアのプーチン氏が「停戦」を決断できるかである。プーチン氏の政治生命にも関わる問題であるからだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(11月22日付)は、「停戦できぬプーチン氏の論理、戦況劣勢で権力に揺らぎも」と題する記事を掲載した。筆者は、同紙の上級論説委員 坂井 光氏である。

 

ロシア軍のウクライナ侵攻からまもなく9カ月。当初は首都キーウ(キエフ)に迫ったが、反転攻勢にあい、劣勢を強いられている。プーチン大統領はいつまで無謀な戦いを続けるつもりなのか。

 

(1)「戦況はロシアに不利だ。英国防省によると、ロシアが支配する地域は最大だった3月からほぼ半分にまで減少した。精密兵器に関しては保有していた80~85%を使用したと推定され、その精度の低さも露呈した。特筆すべきは失った兵力だ。その数は負傷や脱走などを含めると約10万人に達した。これは侵攻開始時の兵力の5割に及ぶ。新たに動員したがその士気は低い。十分な訓練や装備、食料なしで前線に送られるケースが多い。しかも、逃亡を企てる自国兵を後方から銃撃するなど非人道的な行動も報告されている。一方のウクライナは西側からの支援で勢いづいている。情報機関関係者によると、米英仏など約20カ国の特殊部隊が作戦を指導し、情報提供、兵器輸送、通信支援など幅広く活動。反転攻勢の原動力となっている」

 

ウクライナ軍は、米軍提供の「ハイマース」で攻勢に転じた。ロシアには、この種の兵器を保持しないので完敗である。もはや、戦争の帰趨は決まったような観さえある。

 

(2)「『このままでは勝てない』。戦況の詳細を知る立場にあるロシアのエリート層には危機感が広がっている。それでもプーチン氏から強硬路線を変える兆しは見えない。というより、劣勢だからこそ続けざるを得ないのだろう。現状で停戦すれば領土的な野望だけでなく、「ネオナチから解放する」という目的も達成できない。その責任は政治的な立場を失うだけでは済まされない可能性が高い。もはやプーチン氏が戦いを続ける目的は、自らの保身と野心のためのみに違いない。前線の兵士や国民の生活など眼中にないことだけは確かだ。かつての日本の指導部と同じような論理といえる」

 

プーチン氏は、絶体絶命の危機に立たされている。核使用は、中国やインドも反対している。もはや打つ手はないのだ。

 

(3)「米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル電子版』は11月6日、パトルシェフ安全保障会議書記と米国のサリバン大統領補佐官が極秘に複数回協議したと報じた。さらに、ナルイシキン対外情報局(SVR)長官もバーンズ米中央情報局(CIA)長官と14日にトルコで会談した。ロシア側の2人はプーチン氏と同じソ連国家保安委員会(KGB)出身のエリートで同氏の最側近だ。いずれの協議も停戦については話していないとされるが、無謀な戦争が招く悲惨な歴史を繰り返さないための取引の兆しとも推定できる」

 

米ロ間では、情報トップが会談しているほか、高官同士も話合っている。表向きの理由は、米国がロシアへ核使用反対であることと、使用した場合に米国の対応を通告したとされる。だが、それだけとは思えない。戦争終結方法を話合ったと見るのが常識的だ。

 

(4)「一方、オリガルヒ(新興財閥)のプリゴジン氏と南部チェチェン共和国のカディロフ首長がロシア軍への強烈な批判などを繰り返し始めた。プリゴジン、カディロフ両氏ともプーチン氏の盟友ではあるが、別動隊のような存在だった。彼らが野心をあらわにしたことは、プーチン氏の求心力の低下と、権力構造の揺らぎを示唆するものといえそうだ。ソ連時代の最高指導者はその最期まで権力を手放さなかった。例外は宮廷クーデターで失脚したフルシチョフだ。この戦争が終わるとき、プーチン氏のたどる道が見えてくるはずだ」

 

ロシアでは、プーチン氏を取り巻く非公式グループが積極的に発言している。プーチン氏の「タガ」が緩んでいる証拠と見える。ロシア国内が、てんやわんやの騒ぎに陥っていることは確実だ。中国は、こういう事態をどう見ているか。台湾侵攻への貴重な教訓が潜んでいるはずだ。