あじさいのたまご
   


衣の下に鎧が見える

先端半導体から排除

戦狼外交止め低姿勢

中ロ枢軸は破綻運命

 中国は、台湾統一が最大の政治課題としている。これまでは、「一国二制度」で平和統一を提案してきた。だが、その可能性が薄れると見るや、「武力統一」も厭わずと強行姿勢である。 この台湾で11月26日、中国にとって耳寄りのニュースが飛び出した。台湾与党の民進党が、地方選挙で大敗したことだ。蔡総統は、その敗北責任を負って即日、党代表を辞任した。総統職は継続する。 

野党の国民党は、中国寄りとされる。それだけに、国民党の地方選勝利が中台接近をもたらすかである。台湾では、国政と地方政治を分けている。国政では、中国と距離を置いて民主主義を守るという傾向が強いのだ。現に、自らを「台湾人」として認識し、「中国人」意識が薄い点にそれが現れている。中国は、こういう台湾人の「中国観」を見落とすと失敗するであろう。

 

衣の下に鎧が見える

習近平氏が、中国国家主席3期に就任できた最大の理由は「台湾統一」目的である。武力を用いてまで統一するというのは、台湾を足掛かりに太平洋へ軍事的に進出して、米国と対抗する狙いがあるからだ。そうでなければ、台湾と平和的な関係を維持して、貿易関係を強化する方がはるかに経済的なメリットがあるはず。それを投げ捨ててまで、勝つか負けるか分からない戦争に訴えようというのは、米国と軍事覇権を賭けている証拠であろう。 

習氏は先の米中首脳会談で、米国の覇権に挑戦する積もりはないと発言した。その一方で、台湾問題は「核心中の核心」と発言している。台湾統一には武力を用いると示唆しているのだ。中国が台湾を武力統一し、台湾を軍事基地にした後は、米国と太平洋で決戦を挑む予定が隠されている。これが、既定路線である。 

米国は、こういう中国の野望に気づかないほど「お人好し」ではない。20~30年先を読んで「米国覇権防衛」に手を打っている国だ。米国は、習氏の「米国覇権に挑戦する積もりはない」との発言を内心、せせら笑って聞いていたことであろう。一層の警戒感を強めたはずだ。

中国が、選択しうる進路は2つある。

1)国際社会において、協力的姿勢で経済発展を追求する。

2)経済規模が大きくなったので、中国中心の世界秩序を形成する。 

現在の中国は、明らかに2)のコースである。民主化路線を捨てて、共産党へ権力を集中させ、米国へ戦いを挑む誘惑に駆られているのだ。戦前の日本が陥ったコースである。日本の場合、アジアの覇者を目指したが世界秩序を塗りかえようという、とてつもない妄想を抱くことはなかった。日本の方が、はるかに世界を知っていたのだ。 

中国覇権論では、ロシアという権威主義国家と中ロ枢軸を組み、西側諸国へ対抗する構図を描いていたはずである。そのロシアが、ウクライナへ侵攻して軍備・兵員ともに相当の消耗を余儀なくされている。厳しい経済制裁によって、核を除けば再び軍事大国になれるかどうか疑問符がつくほどの状態になっている。

 

米・英・カナダは、特殊チームを編成してウクライナ軍支援に全力を挙げている。機密情報もすべてウクライナ軍へ提供しているのだ。前記三ヶ国が、なぜここまで深入りしているか。ロシア軍を勝たせないことが目的である。それは、中ロ枢軸に大きな打撃を与えて、中国の世界覇権狙いを完膚なきまでに打ち崩すことだ。台湾へ侵攻し、さらに米国を軍事的に追い落とす「妄想」を抱かせない。これが目標である。 

先端半導体から排除

米国が、中国の覇権狙いを封じるには、最先端半導体の技術・ノウハウ・製造設備を中国へ与えないことである。半導体は戦略物資である。従来は、鉄鋼と石油であった。戦前の日本は、経済制裁で鉄鋼と石油の輸入を禁じられた。現在の中国は、すでに戦前の日本と同じ「敵国」扱いになっている。中国にとって、これがどれだけ不利であるか。計り知れないものがある。 

中国が、前述の2つのコースのうち、1)「国際社会において、協力的姿勢で経済発展を追求する」という平和コースであれば、今回のようは「半導体封じ」という事態に遭遇する筈もなかった。習近平氏の「終身国家主席になりたい」という個人的野心が、中国にとって自業自得の結果をもたらしているのである。

 



習氏の個人的野望は、明らかに中国の未来を「潰した」と言える。中国が、かけがえのない先端技術の半導体から締め出される損害は、軍事的発展を阻止されるだけでない。21世紀の技術進歩から除け者にされるので、生産性向上から取り残されることを意味する。AI(人工知能)・量子コンピューターなど無限の範囲に及ぶのだ。 

米ユーラシア・グループを率いるイアン・ブレーマ氏は、極めて示唆的な発言をしていた。「中国の未来を決める重要な要素の一つは、欧米や日本が中国の次の段階にどう対処するかというさらに難しい問題だ。ウクライナ侵攻で、欧米は今のところ冷戦終結後で最も固く結束している。一方で中国はロシアへの支援を限定的ながらも続けており、西側諸国は中国の外交政策の意図に根深い疑念を抱いている」(『日本経済新聞 電子版』(2022年5月25日付) 

この予測は半年後に、米国の対中国「半導体封じ」として現れたのである。中国の急所をズバリ突いてきたのだ。中国は今、「自立自強」という精神論を唱えている。人間が宇宙へ行く時代に、やせ我慢の精神論を説いたところで何ほどの意味があるかだ。習氏の責任回避だけが目的であろう。(つづく)

 

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