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ロシアは、核脅迫という「最後通告」とその後の「Uターン」を繰り返し、戦争目的も絶えず変化している。このため西側諸国の政府当局者の間では、プーチン氏は自分の手に負えなくなっているこの戦争で、行き当たりばったりに対処することを余儀なくされているとの見方が強まっている。 

ロシアは、欧米の制裁で重要産業の運営維持に苦慮している。このため、自動車、航空機、鉄道の部品を含む製品500以上のリストをインドに送付していたことが分かった。『ロイター』(11月29日付)が報じた。ロシアは、ここまで追込まれているが、「止めるに止められない戦争」という、最悪事態へ自ら落込んでいる。プーチン氏にも解決方法はないのだ。

 

米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月29日付)は、「ぶれるプーチン氏、戦争目的と『レッドライン』は」と題する記事を掲載した。 

ウラジーミル・プーチン大統領が主導したウクライナ侵攻後、ロシアはしばしば戦争をエスカレートさせるという脅しをかけてきたが、脅しの多くを後にトーンダウンするか無視している。米国とその同盟国は、プーチン氏の真のレッドラインはどこなのか推測せざるを得なくなっている。 

(1)「キングス・カレッジ・ロンドン戦争学部のマイケル・クラーク客員教授は、「プーチン氏の行動には現在、自暴自棄の要素がある。なぜなら、戦況が芳しくないこと、そして戦闘の長期化を覚悟しなければならないことを知っているはずだからだ」と述べた。ロシアはウクライナへの侵攻を拡大させている。ここ数週間でさらに数万人の兵士を前線に送り、ウクライナの電力網をはじめとする民間インフラへの攻撃を繰り返しており、首都キーウなどの都市はたびたび停電に見舞われている」 

プーチン氏は、自暴自棄になっている気配があるという。勝ち目のない戦争だが、自ら止めるワケにもいかない。そこで、ウクライナの厭戦気分や支援する西側諸国の支援疲れを待っているのであろう。

 

(2)「軍事アナリストらによると、ロシアの目的は、冬季にウクライナ国民を凍えさせることで士気を低下させ、西側諸国のウクライナ支援のコストをさらに高め、戦争が積極的に押し進められていることをロシア国内向けに示すことだという。ロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟国の双方が維持するレッドラインの一つは、ほとんど明言されていないが、相手との直接的な軍事衝突を望んでいないことだ」 

ロシアは、NATO軍との軍事衝突を望んでいない。全面衝突になればさらに勝ち目がなくなるからだ。ロシア大統領選挙は2024年3月である。プーチン氏が立候補するならば、早く戦争を切り上げる必要があろう。

 

(3)「ロシアのその他のレッドラインは、しばしば幻想であることが判明しており、特に好戦的な発言の一部は裏目に出ている。プーチン氏は9月21日、「ロシアとその国民を守るために利用可能な全ての手段」を講じると述べ、ウクライナで核兵器を使用する用意があると警告した。同氏は「これははったりではない」と付け加えた。ロシア政府はその後、ウクライナが放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」の準備を進めていると非難した」 

弱い犬ほど「遠吠え」するというが、ロシアはこれまで何回か「核威嚇」してきた。これにより、ウクライナやNATOの厭戦気分を引き出す計画であった。

 

(4)「西側諸国の当局者はこの動きについて、衝突をエスカレートさせる口実だと指摘した。西側の当局者やアナリストによると、この脅しの主な目的は、西側諸国の市民に戦争に関するパニックを起こさせ、ウクライナへの支持をやめて、ロシアが示す条件で和平交渉を進めるよう各国政府を説得してもらうことにあった。今のところ、この脅しは西側諸国によるウクライナ支援に影響しておらず、支援は順調に続いているように見える」 

米国は、ロシアへ核使用のリスクを伝えている。通常兵器での報復である。ロシア軍部は、これを聞いて震え上がったのであろう。ロシアの黒海艦隊を全滅させると通告されているのだ。

 

(5)「プーチン氏の核戦力による威嚇は、世界からの非難を浴び、ロシアを外交的に一層孤立させた。ジョー・バイデン米大統領はロシア政府に対し、戦術核兵器の使用が「極めて深刻な過ち」になると警告した極め付きは、中国の習近平国家主席が初めて公の場でロシアによる戦争行為を非難したことだった。習氏は、いかなる者も紛争で核兵器を使用したり、その使用をちらつかせたりすべきではないとけん制した」 

ロシアの盟友である中国は、ロシアの核使用に反対している。インドも表明した。こうなると、ロシアの核脅迫発言は国際社会で自らの孤立を深めるだけだ。

 

(6)「ロシア政府は、10月下旬までに姿勢を後退させた。プーチン氏はテレビの長時間インタビューで、ロシアにはウクライナで核兵器を使用する計画がないと述べた。世界中にいるロシアの外交官からも同様の発言が出た。西側専門家は、戦場における核兵器の使用はロシアの軍事侵攻の目的達成にほとんど役立たず、米国とその同盟諸国を戦争にさらに深く引き込むリスクがあると指摘する。また、1945年以来維持されてきた核兵器使用のタブーを破れば、ロシアへの非難が強まり国際的な孤立が一層深まるだろ」 

プーチン氏は、ウクライナで核兵器を使用する計画がないと述べた。自らまき散らした「核脅迫」は不発になりそうだ。こうなると、ロシアはどうするのか。「ダラダラ戦争」を行なって「偽正義」を言い募るという無益な試みで時間を空費するのだ。その間の人命の損失を考える余裕はなくなっている。自分の身の処し方で夢中になっているのであろう。