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EU(欧州連合)は、12月5日からロシア産原油を輸入禁止にする。これに合わせて、原油価格の高騰を防ぐために、ロシア産原油価格に上限制を決めた。1バレル60ドルにし、価格上限を市場価格より少なくとも5%低く保つことになった。この決定に、G7と豪州が賛成している。

 

価格が上限を下回っていない限り、海運や保険、再保険会社がロシア産原油の貨物を扱うことを禁止する。主要海運企業や保険会社は、G7各国に拠点を置いているため、価格上限設定によりロシアが原油をより高い価格で販売することは極めて難しくなる。海上保険がつかないロシア産原油の輸送は、リスクが余りにも高くなることから、事実上の輸送禁止になるもの。ロシアにとっては、大きな打撃だ。

 

『ロイター』(12月3日付)は、「EU、露産原油価格上限で週末にも正式合意 禁輸後の高騰阻止」と題する記事を掲載した。

 

EU(欧州連合)は2日、ロシア産原油の輸入価格に対する1バレル=60ドルの上限設定で合意した。承認を保留していたポーランドが支持に転換したことを受け、週末にも正式承認される見通し。

 

(1)「ポーランドのアンジェイ・サドスEU大使は2日、記者団に対し、価格上限を市場価格より少なくとも5%低く保つとの条件が含まれた合意に賛成すると表明した。ポーランドは、ロシアの戦費調達を制限するため上限をより低く抑える調整メカニズムの検討を求め、提案された水準に抵抗感を示していた。価格上限の設定は主要7カ国(G7)の提案で、ロシアの原油収入を減らし、EUが12月5日にロシア産原油禁輸を開始した後の価格高騰を防ぐ狙いがある」

 

ロシア産原油価格の上限制を最初に提案した米国は、EUの決定を歓迎している。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、記者団に対し「価格上限はプーチン氏が石油市場から利益を得て罪のないウクライナ人を殺し続ける戦争マシンに資金を供給し続ける能力を制限するのに資する」と指摘。1バレル=60ドルでの価格上限は適切な水準で、望ましい効果を及ぼすとした。また価格上限には2つの意図があり、一つはロシアが石油市場から利益を得ることを制限すること、もう一つは需給のバランスに役立つこととした。『ロイター』(12月3日付)が報じた。

 

(2)「EUの輪番議長国を務めるチェコの報道官は、加盟27カ国全てがこの協定を正式に承認するため書面による手続きを開始したと明らかにした。4日に正式発表される見通し。フォンデアライエン欧州委員長は、上限の設定はロシアの収入を著しく減少させるとの認識を示した。また、市場の動きに対応できるように60ドルの上限の調整は可能とした上で、「世界のエネルギー市場を安定させる」という見通しを示した」

 

ロシア産原油価格の上限制は、60ドルで固定せず調整が可能になっている。これにより、世界のエネルギー価格は安定するとしている。

 

(3)「先週のG7の当初提案では、価格上限は1バレル当たり65~70ドルとし、調整メカニズムの設定はなかった。ロシアのウラル原油はすでにこれを下回って取引されていたため、ポーランド、リトアニア、エストニアは上限価格の引き下げを求めていた」

 

価格の上限を巡っては、ギリシャのように70ドル以上を主張する国もあった。ギリシャは船主が多いので、高価格のほうが運賃も上がるからだ。だが、バルト三国のようにロシアへ強い反感を持つ国々は、60~65ドルを主張。結局、最低ラインに落ち着いた。

 

(4)「G7の価格上限は、EU域外の国々がロシア産原油の海上輸入を継続することは認めるが、価格が上限を下回っていない限り、海運や保険、再保険会社がロシア産原油の貨物を扱うことを禁止するもの。主要海運企業や保険会社は、G7各国に拠点を置いているため、価格上限設定によりロシアが原油をより高い価格で販売することは極めて難しくなる。米ホワイトハウスは2日、これを歓迎し、ロシアの収入に対する制限につながると引き続き確信しているとした」

 

原油輸送には、海上保険が不可欠だ。主要保険会社は欧州に存在するので、EUのロシア産原油価格の上限制は、決定的な意味を持つ。EUの決定が、保険会社を拘束するからだ。

 

(5)「ロシア下院外交委員会のスルツキー委員長は2日、EU(欧州連合)はロシア産石油に価格上限を設定することにより、EU域内のエネルギー安全保障を危険にさらしていると述べた。タス通信が報じた」

 

ロシアのプーチン大統領とドイツのショルツ首相が12月2日、電話会談した。ロシア大統領府によると、プーチン氏はウクライナに関するドイツなどの西側の対応は「破壊的」だとし再考を求めたという。今回のロシア産原油価格の上限制について触れていないが、「破壊的」という意味にはこれも含まれているであろう。