テイカカズラ
   


ロシア軍は、ウクライナ侵攻で重大局面を迎えている。ウクライナ軍がクリミア半島奪回に向けて作戦計画を練っているからだ。これまで、冬季の作戦は膠着状態になると予想されていたが、地表の凍結によって作戦が容易になるというのである。

 

冬季作戦では、ロシア軍が不利と見られている。耐寒装備が、不十分であろうと見られていることだ。ロシア軍兵士は、耐寒装備が行き渡っておらず、凍死などの危険性と隣合わせになれば、士気は一層の低下を余儀なくされよう。

 

『日経ヴェリタス』(12月4日付)は、「ウクライナ軍『迫るレッドライン』ロシア核使用の懸念も」と題する記事を掲載した。

 

ウクライナでは、侵攻中のロシア軍が戦力を南部から東部に再配置し始めたことで、今後の戦闘の焦点は東部に移るとの見方が浮上している。ただ、ウクライナ軍は東部だけでなく、南部でも反転攻勢を続けており、ロシア軍が南部で大きな後退を強いられれば、化学兵器や小型核兵器といった大量破壊兵器の使用に踏み切る事態がかつてなく現実味を帯びそうだ。

 

(1)「ロシア軍は11月、南部へルソン州のドニプロ川西岸から部隊を撤退させ、東岸地域で防衛線を構築している。同時に、後退させた部隊の一部を東部戦線に振り向けたことで、東部地域で攻防が激化するとの見方が多い。ただ、主戦場が東部に限定される保証はない。ウクライナ軍は9月以降、南部にロシア軍主力を引き付けたうえで、東部で一気に占領地を奪回してみせた。一方、現在はロシア軍が東部を重視していることで、南部でのロシア側の守りは手薄になっている」

 

軍事専門家の見方では、ロシア軍の作戦に迷いがあると指摘している。ウクライナの東部と南部のどちらに防衛の力点を置いているか不明というのだ。ウクライナ軍は、南部でクリミア半島奪回に向けて動いている。ロシア軍はそれを気づきながら、東部で不要な攻撃をかけているのは解せないというのである。

 

(2)「ウクライナ軍にとって9月と状況が異なるのは、南部での前進を阻むドニプロ川という地理的障害があることだ。ただ、これまでの戦闘でもウクライナ軍は渡河作戦を実施しており、ロシア軍がウクライナ軍のドニプロ渡河作戦を警戒しているとの情報もある。仮にウクライナ軍が東岸に橋頭堡(きょうとうほ)を築ければ、そこを起点に障害が比較的少ないヘルソン州南西部を経てクリミア半島の付け根部分まで短期間に進出する展開がみえてくる」

 

ウクライナ軍が、ドニプロ川を渡河するのは極めて危険を伴う。対岸にはロシア軍が防衛戦を築いているからだ。こういうリスクを冒すよりも、ザボリージャ州を南下してロシア軍を分断し、クリミア半島への兵站線を絶つ戦術を取るだろう。これが、軍事専門家の見方だ。ウクライナ軍は、「敵前上陸」のような危険な作戦を回避するであろう。

 

(3)「一方、そこはロシア軍にとってはレッドライン(越えてはならない一線)で、「過激な反応」を誘いやすい。これには二つの事情がある。まず、ロシア軍が2014年の電撃侵攻の成果であるクリミア半島を失う可能性が出てくる。これが現実になると、ロシア国内の厭戦(えんせん)気分や、強硬派によるプーチン政権への突き上げが強まるのは避けられない」

 

ロシア軍が、クリミア半島奪回が視野に入れば、ロシア軍が核を使うだろうという予想がある。西側諸国もこれをもっとも警戒している。だが、軍事専門家によれば、軍事的な意味はないという。ロシア軍は、報復を受けることを十分に認識しているからだ。米国が、ホットラインでロシアへ警告したほか、両国の情報当局トップが会談して意思疎通を図っている。核を使えば、NATO(北大西洋条約機構)が参戦する危険性が高まる。ロシアは、これを最も警戒しているのだ。

 

(4)「(クリミア半島を失えば)ロシアの中長期的計画が狂うことだ。「ロシア軍はヘルソン州からさらに西に支配地域を広げ、モルドバを制圧することで、ウクライナを海への出口を持たない内陸国にしてしまうことを企図している」(防衛省情報部局関係者)。できれば、目下の戦闘を膠着状態に持ち込んだ上で、今後数年間かけて軍を再建し、14年、22年に続く3度目となる次回侵攻でウクライナの内陸国化を果たしたいと考えているわけだ。その意味でも、ロシア軍はドニプロ東岸(へルソン州南部)を失うわけにはいかない」

 

このパラグラフは、完全にロシア側の身勝手な青写真である。西側諸国は、絶対にこれを認める訳にいかないのだ。ロシアが受けている経済制裁は、これから一段と厳しくなる。EU(欧州連合)とG7・豪州は、12月5日からロシア産原油価格の上限制(当面は1バレル60ドル)によって、ロシアの収入減を実現させる。これによって、戦争継続を困難にさせる戦術を発動させるのだ。ロシアは、自らの思惑が実現できるほど、世界が甘くないことを知るであろう。