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米国は、米中デカップリングの重要な一環として、台湾半導体メーカーTSMCによって最先端半導体「5ナノ」(ナノは、10億分の1)生産で工場建設に着手している。続いて、「3ナノ」の工場も建設するとTSMCが発表した。これで米国は、台湾の地政学的リスクから自由になれるという「特等切符」を手に入れた。だが、台湾防衛という責任を負っていることに変わりない。

 

2次世界大戦では、鉄鋼の生産能力が各国の戦争遂行能力を左右した。米国が、日独伊枢軸を打ち破れたのは鉄鋼生産力が物を言った。1990年の湾岸戦争あたりから、半導体が戦争遂行能力を規定することになった。

 

ロシアのウクライナ侵攻をめぐる現状では、半導体が戦局を圧倒的に左右している。ロシアは、経済制裁を受けて半導体輸入がストップした結果、家電製品から半導体を取り出して、戦車の部品に使っているほど。安全保障においては、高度の武器になればなるほど、最先端半導体が必要になるのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(12月6日付)は、「TSMC、最先端半導体も米国生産 投資3倍の5.5兆円に」と題する記事を掲載した。

 

半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)は、米西部アリゾナ州に最先端半導体の工場を新設する。「3ナノ(ナノは10億分の1)メートル品」と呼ぶ製品を生産し、米国での総投資額を従来計画比3倍超の400億ドル(約5兆5000億円)に拡大する。台湾有事などのリスクを念頭に、半導体を安定調達したい米国の要請に応え、生産拠点を分散する。ホワイトハウス当局者が明らかにした。

 

(1)「先端半導体はスマートフォンやサーバーに搭載され、頭脳の役割を果たす。特に最先端の3ナノ品は現在、世界でもまだ量産レベルになく、TSMCはまず台湾で2022年中の量産を予定している。米国の新工場はそれに続く形で、26年の量産開始を目指す。TSMCは先端半導体の生産で世界シェア9割を占め、これまで全量を台湾で生産してきた。だが仮に台湾有事などで供給が途絶えれば、関連産業に広く打撃が及ぶことになる」

 

TSMCは現在、アリゾナ州で「5ナノ品」と呼ばれる先端の半導体を生産する新工場を建設している。120億ドル(約1兆7000億円)を投じて建設する海外初の先端工場で、2024年からの量産を予定する。今回、新たに明らかにした3ナノ品の新工場は、5ナノ品を超える技術で、米国の第2段階の大型プロジェクトになる。

 

3ナノ品は現在、世界でもまだ量産レベルにはない。TSMCが台湾の新工場で年内に量産を予定しており、米国もTSMCに対し、3ナノ品の米国での量産を求めていた。それが、26年に実現の運びとなった。米国が、国内に「5ナノ・3ナノ」の工場を持つことは、戦略上も大きな強みを持つことになる。

 

先端半導体の量産に不可欠な製造装置市場を牛耳るのは、オランダASML、米アプライドマテリアルズ、東京エレクトロンなど日米欧のビッグファイブ(5社)だ。ハイエンド半導体の設計ソフトは米国がほぼ独占する。TSMCが、米国に工場を持つメリットは、需要先のほかに、半導体製造に関わる一切の技術の起源が米国にあるということの目に見えないメリットを享受できることだ。

 

米国が、「5ナノ」に続き「3ナノ」という世界最先端半導体工場を持つことは、中国に対して圧倒的な優位性を確立することになる。中国は、米国から半導体の製造装置・技術・ノウハウなど一切の入手を禁じられた。中国の早まった「米国打倒宣言」が招いた事態である。

 

(2)「米国は中国への対抗を念頭に、台湾や日本などの主要国・地域と先端半導体での国際連携を進めている。8月には半導体の国内生産強化に向けて総額527億ドルの補助金を投じる新法を成立させた。TSMCの投資拡大はこの流れを受けたものとなる。バイデン米大統領やTSMC幹部らは現地時間の6日午後(日本時間7日朝)、工場建設予定地の視察を予定する。TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏や、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)も参加する見通しだ。米政府の政策を背景に、米インテルや韓国サムスン電子も、米国内で数兆円規模の投資を進めている」

 

米国は、TSMCだけでなく米インテルや韓国サムスン電子も、国内に半導体工場を新・増設する。半導体のメーカーが、米国へ集結する格好だ。米国の早手回しな米中デカップリングが、中国を大きく引き離すことは言うまでもない。