a1320_000159_m
   

ロシアのウクライナ戦争は、間もなく2年目を迎える。ロシア軍は、ウクライナ軍が戦場で得ている勢いを阻止し、逆転できるのか――。その手掛かりを得るには、今後数カ月が重要になってくると観測されている。 

米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月29日付)は、「冬のウクライナ戦争、カギ握る6つの要因」と題する記事を掲載した。 

(1)「ウクライナ東部ドネツク州バフムート市を掌握するロシアの取り組みは、戦略的な意義よりも心理的な重要性を帯びている。ウクライナ軍にとって、この戦いに敗れれば、より高所の防御しやすい陣地まで退却できるが、プロパガンダ上の勝利をロシアに譲り渡すことになる。バフムートはロシア軍が前進しようとしている数少ない地域の一つだが、ここ数カ月のウクライナ陣地への容赦ない攻撃は最小限の前進しかもたらさず、非常に多くの死傷者を出している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)の現地からの報道によると、ウクライナ軍はロシアの砲撃が最近減速しており、恐らく弾薬不足が原因だろうと報告している」

 

ロシア軍は、すでに戦略的に重要性を失ったバフムートへ、執拗な攻撃を続け多くの犠牲者を出している。政治的な勝利を狙った無謀な攻撃とみられるのだ。つまり、プーチン大統領、私兵ワグネル創始者プリゴジン氏、ロシア軍司令官スロビキン大将という3人のメンツを保つための攻撃とされる。 

(2)「ウクライナの首都キーウ(キエフ)にある政府系シンクタンク、国家戦略研究所のミコラ・ビリエスコフ研究員は、ロシアのバフムートへの注力は、軍事的目標が政治的配慮によって決められていることを示していると指摘する。同氏は、それはロシアには「ウクライナと異なり、依然として健全な政治・軍事関係がない」ことを示していると述べた。英国防省は21日、バフムートを巡る戦闘の多くは、同市東部の開けた場所で行われていると指摘した。戦闘が市街地に移った場合、訓練不足のワグネルの戦闘員やロシアの予備兵よりも、ウクライナの有能な下級指揮官が率いるよく訓練された歩兵隊の方が有利になる可能性が高い」 

バフムートの攻防戦が仮に市街戦になれば、ウクライナ軍の有能な将校が指揮する歩兵部隊が有利な戦いをすると見られる。

 

(3)「ほとんどの軍事アナリストは、秋にロシア占領地の多くを奪還して以降は、ウクライナが戦争の戦略的主導権の多くを握っていると考えている。ウクライナは冬の間も攻勢を維持し、可能であればロシア軍をさらに後退させる構えだとアナリストはみている。(前出の)ビリエスコフ氏は、次の進軍のタイミングは重要ではないと話す。「われわれに能力があり、冬に絶好の機会が訪れれば、冬に実行すればいい。春を待つ必要があるのなら、恐らく春まで待って実行することになるだろう」 

ロシア軍は、すでに多くの下士官を失っている。半年程度で下士官を育成するのは無理だ。指揮官のいないままに、兵士だけが戦うのは力を発揮できず「バラバラ」の戦いになるという。こうして、戦場の支配権は、ウクライナ軍が握っているとしている。

 

(4)「ウクライナの攻撃には、明白な方向が二つあると軍事アナリストは話す。一つは、東部ルガンスク州のスバトベ・クレミンナ間の幹線道路R66で結ばれた線を標的にするものだ。もう一つは、南部ザポロジエ州のメリトポリとベルジャンスクを狙うものだ。この目標を達成すれば、ロシアとクリミアを結ぶ重要な補給線と通信線を断つことになる」 

ウクライナ軍が、東部ルハンシク(ルガンスク)州の主要都市クレミンナを近く奪還するという見方が出てきた。ウクライナ側のハイダイ・ルハンシク州知事は27日(現地時間)、ツイッターで「ロシア占領軍の軍指揮部は、ウクライナ軍隊が接近しているクレミンナを離れた」とし「都市から遠くないところですでに戦闘が行われている」と伝えた。ハイダイ知事は同日、テレグラムで「ロシア人はクレミンナを失えば全体の防御ラインが崩れることを知っている」とも強調した。事態は、急進展している。

 

(5)「ロシア軍は前線の大部分とその周辺を守るために塹壕を掘っており、ウクライナ軍の海からの上陸を阻止するためクリミアのビーチにまでそれを伸ばしている。既存のロシア軍に予備兵が加わり、隊形は深く構築されつつある。ウクライナにはロシア軍がどこを掘ったかが分かる上、木々の葉が落ちることで陣地を隠すのは難しくなる。ビリエスコフ氏は、ロシア軍が広範な地域に塹壕を掘っていることは、ロシアが「あらゆる不測の事態に備えている」ことを示しているが、「最終的にわれわれが詳細な計画を立て、適切な能力で古典的な攻勢作戦を行えば、彼らは攻撃を免れないだろう」と述べた」 

ロシア軍が塹壕を掘って防衛戦を固めているが、ウクライナ軍は古典的な攻撃作戦で突破できると見る。事前に塹壕をしらみつぶしに攻撃するという意味だろう。 

(6)ウクライナ高官は最近、ロシアがウクライナでさらなる大規模攻撃を準備しており、まだ戦線に派遣されていない30万人の予備兵の半数を既存部隊と組み合わせ、来年序盤に攻勢に出る計画だと述べた。これには、ベラルーシ領内からキーウに向けたさらなる攻撃も含まれる可能性があるという。西側のアナリストは、より能力の高い部隊が今年序盤に達成できなかったことを予備役が達成できる可能性に懐疑的だ」 

ロシア軍は、昨秋の動員兵30万人のうち、残り15万人が訓練を終えて前線へ投入される。だが、今年序盤において能力の高い部隊は、ウクライナ軍に撃退されて作戦目的を達成できなかった。訓練期間の短い動員兵が正規部隊以上の戦い方ができるとは思えないというのだ。ウクライナ軍は、さらに兵器を充実させてもいる。