あじさいのたまご
   

習近平氏が、「一帯一路」構想を打ち上げてほぼ10年経った。多くの発展途上国は、中国からの経済支援に期待して飛びついたが、その副作用は大きかった。過剰債務を背負い込み、外貨準備を使い果たして、財政破綻国へ追いやられている。もはや、一帯一路なる言葉は色あせてしまった。

 

そこで中国は、新たに「アジア太平洋共同体」なる構想を発表して、局面転換を図ることにしたようだ。だが、中国の権威主義が一層高まって来た現在、近隣国は警戒姿勢を見せている。中国のこの新構想は、賛成国が出なければアドバルーンに終わる。中国にとっては最悪のケースになりかねないのだ。

 

『大紀元』(12月30日付)は、「『一帯一路』、アジア太平洋共同体に再ブランディングか」と題する記事を掲載した。

 

中国政府の一帯一路構想が華々しく発表されてから10年近くが経過したが、その行く手には論争が絶えない。共産党政権は前例のない国内問題に直面するなか、問題の多い看板政策の再ブランディングを試みているのではないかとの見方がある。

 

(1)「中国の国営メディアによると、2022年11月中旬に開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、習近平氏は「未来を共有するアジア太平洋共同体」の構築を呼び掛けたという。 習主席は、21の加盟国からなるフォーラムは、「マクロ経済政策に関する調整を強化し、地域のサプライチェーンと産業チェーンをより密接に結びつけ、地域経済統合を着実に進める」ことなどが必要だと述べた」

 

習氏は、APECでアジア太平洋共同体構想を呼びかけた。米国のIPEF(インド太平洋経済枠組)への対抗軸として出てきたのであろう。だが、中国は南シナ海で島嶼を占領して紛議を引き起こしている。こういう現実を棚上げして、アジア太平洋共同体構想を打ち上げても、賛同する国がいくつあるか、だ。

 

(2)「シドニー工科大学豪中関係研究所のマリナ・ユエ・チャン准教授は2022年12月上旬、オンラインニュース誌「ザ・ディプロマット」に「アジア太平洋共同体の未来構想では、中国は『ハブ』となり個々の国家とつながり、分散型サプライチェーン・ネットワークが形成される」と書いている。こうした説明は一帯一路構想にもしばしば適用される。大陸横断計画がいくつも頓挫し、世界銀行やその他の機関が、中国の金融機関に対する致命的な債務、コスト超過、手抜き工事、汚職、環境破壊、主権の喪失といった参加国へのリスクを挙げた」

 

アジア太平洋共同体なるものは、一帯一路に代わるものだ。10年前の中国経済への期待感と現在では大きく変化している。「ゼロコロナ」で3年間も閉じ籠もっていると思ったら、突然の「ウイズコロナ」で大混乱に陥っている。中国への評価は、大きく落ちているのだ。中国は、この事実を知るべきであろう。

 

(3)「バングラデシュ、インドネシア、マレーシア、モルディブなどのインド太平洋諸国は、こうした懸念から一帯一路プロジェクトを中止、縮小、再交渉している。2022年初頭、スリランカの経済がデフォルトに陥る中、スリランカの指導者たちは中国当局に債務支払いを再編するよう懇願した。インド洋に面したハンバントタ港は、中国の資金で建設された一帯一路プロジェクトで、スリランカが融資の支払いに窮したため、中国の国有企業の管理下に置かれた、問題のあるケースを指摘するアナリストもいる」

 

バングラデシュ、インドネシア、マレーシア、モルディブなどは、中国へ厳しい評価だ。フィリピンは、はっきりと「脱中国」を旗印に掲げている。日本、豪州、韓国も敬遠する筈だ。参加する国は、「親中国」国に限られるであろう。

 

(4)「中国政府は一帯一路へ「Belt and Road Initiative(BRI)」と新たな名前を付けたが、この計画がトロイの木馬であるという懸念を払拭することはできなかった。開発援助の申し出は、中国の政治的・軍事的影響力を拡大するための伝達手段に過ぎず、ハンバントタ港などは地元当局の監視なしに中国海軍の艦艇がアクセスできる可能性があるという」

 

中国は、一帯一路が悪評のために「BRI」と呼称を変えたが本質に変わりない。一度、ミソを付けた一帯一路が浮上できる機会はない。

 

(5)「アジア太平洋共同体の構築というビジョンを、少なくともガバナンスレベルで実現することが当面不可能である理由はいくつかある」と、(前記の)チャン氏は「ザ・ディプロマット」に書いている。 同氏は、「第一に、中国の近隣諸国の多くは、米国が主導する自由と民主主義の世界秩序を受け入れている。 権威主義的な政権を持つ中国の台頭は、これらの国々にとって安全保障上の挑戦と受け止められている」と述べている」

 

一帯一路構想は、中国の経済力に期待して盛り上がったが、現在の中国には最早そのような力はない。それは、経常収支の黒字幅の縮小が証明している。「世界の工場」も黄昏れてきたのである。米中対立の深刻化が、アジア太平洋共同体なるものの実現を阻むであろう。