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ドイツはメルケル首相時代、親中ロ路線をひた走ってきた。メルケル氏は、訪日よりもはるかに多く訪中に勢を出してビジネスの後押しをしてきた。だが、このメルケル外交における親中ロ路線は、今になって見れば極めてリスクの高い外交路線であったことが判明している。中ロは枢軸を組んで西側の価値観に対抗する動きを見せている。ドイツは、こともあろうにこの中ロへどっぷりと浸って来たことに気づいたのである。

 

『日本経済新聞 電子版』(1月7日付)は、「対中政策、欧州の理念と現実」と題する記事を掲載した。

 

ドイツが対中政策の大幅な見直しを「政府方針」として宣言する見通しとなった。「親中」といわれたメルケル前政権の路線を放棄し「対中強硬」とも受け止められる新しい外交指針をつくる。「かなり強めの言葉を文書にちりばめる」。アジア政策にかかわる独政府高官は話す。独外務省が中心となって原案を策定中で、2023年夏にも閣議決定するという。

 

(1)「経済の中国依存度を下げるため、「対中投資に上限」「対中依存の独企業は政府の監視対象」と劇薬ともいえる強烈な策が浮かぶ。民間技術の軍事転用を避ける狙いで、学術交流すら制限するかもしれない。連立与党内では、強硬派の緑の党とやや穏健なドイツ社会民主党の間で綱引きがあるため、着地点はもっと現実的になる可能性はある。それでも中国と距離を置くシグナルになるのは明らかだ」

 

緑の党が連立政権に参加した時点で、対中強硬策に転じることは分っていた。しかも外務大臣ポストを握っている以上、中国けん制はますます強くなるはずだ。

 

(2)「米中対立のなかで旗幟(きし)を鮮明にすれば、外交の幅が狭まる――。少し前までは、そんな考えがドイツ政界の主流だった。半面、全方位外交は強権国家につけ込まれる隙を生む。経済を特定国に頼るのも危うい。エネルギーを依存して対話偏重だった対ロシア政策の失敗でドイツは痛いほど思い知った」

 

メルケル氏は、東ドイツ育ちである。共産主義への違和感がなく、「お友達意識」で中ロと関係を深めたと見られる。だが、ロシアのウクライナ侵攻で全てが泡と消えた。ご破算になったのだ。それにしても、メルケル氏は絶妙なタイミングで首相交代になった。集中砲火を浴びることはなかった。

 

(3)「海洋国家のフランスは、安全保障上の観点から中国への警戒心を強める。「仏領を一寸たりとも中国に渡すわけにはいかない」と語るのはアジア政策通の与党議員のジャネテ氏だ。ニューカレドニアなどインド太平洋の仏領の多くは南半球にある。同海域の北半球の民主主義国家との連携を深めたいという。日本や米国が視線の先にある。取材で具体策を尋ねると、日米豪印4カ国の枠組み「Quad(クアッド)」との協力に強い意欲を示した」

 

フランスが、親日姿勢を取って来た裏に、アジアに仏領があるからだ。自衛隊をパリ祭に招待して、シャンゼリゼを行進させるなど親日ぶりをアピールしている。その点では、ドイツの親中ぶりとは一線を画してきた。

 

(4)「フランスは対米感情が複雑な国だ。18世紀のアメリカ独立を助け、歴史的には米国と深い関係を持ちながら、弱肉強食の資本主義は嫌う。英米などアングロサクソン諸国をライバル視し、米国への追従をよしとしない。21年に米英豪がフランスを除いて安保の枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設すると仏米関係は冷え込んだ。それがロシアのウクライナ侵略で一変した。民主主義陣営と強権国家の対立が深まり、米国に寄り添わざるを得なくなった」

 

第二次世界大戦後、米仏は何かと対立関係にあった。ドルの基軸通貨にも反対姿勢を取るなど、対立の火種に事欠かない。だが、ロシア問題で米国の力に依存せざるを得ない現実から、米国と歩調を合わせている。皮肉な見方をすれば、ロシアが西側諸国を結束させたのである。

 

(5)「ロシアはこれまで以上に中国を頼るだろう。ロシアの天然資源と軍事力を手にする中国は世界秩序を大きく揺さぶる、との読みが欧州で広がる。仮に欧州と中国の貿易が制限されれば、ドイツの成長率は1ポイント近く下がり、他の欧州諸国も大きな影響を受けると独Ifo経済研究所は試算する。にもかかわらず台湾有事が起きれば、独仏が率いる欧州連合(EU)は対中経済制裁を発動する公算が大きい」

 

ウクライナ問題で、西側は結束している。中国の台湾侵攻が起これば、そのお返しで欧州も結束して中国へ対抗する。これはもはや、既定路線と見るべきであろう。将来、NATO(北大西洋条約機構)の拡大も起こり得る情勢になっている。日本・豪州などは加入候補である。