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プーチン・ロシア大統領は、昨年12月にG7による価格上限を「愚策」と呼び、「予算について案じる」必要はないとして、ウクライナ侵攻の資金は「無制限」に調達できると豪語した。現実は、そんな甘い状況にはない。プーチン氏は1月11日、「予算にいかなる問題も生じないよう、原油の値引きに対応しなければならない」と政府幹部に指示した。懐状況は苦しいのだ。

 

だが、戦費調達手段としていくつかの「財布」がある。政府系ファンド、国内銀行からの融資、外貨準備高に組入れている中国人民元の市中売却である。こうなると、「あと数年」持ち堪えられる可能性がある。だが、使い果たした後は「ゼロ状態」になり、再起は著しく困難になろう。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(1月19日付)は、「ロシア原油のさらなる下落、23年の財政を圧迫へ」と題する記事を掲載した。

 

ロシア産原油は、2023年はエネルギー価格の下落に加え、主要7カ国(G7)が1バレル60ドルの上限を設けたことで、大幅な値下がりが予想される。ロシア大統領府のエコノミストは頭を痛め、昨年よりはるかに厳しい1年となるだろう。

 

(1)「ロシアの22年財政赤字は、石油価格の急落と戦費増加により、国内総生産(GDP)比で2.%に膨らみ、プーチン氏ら政府幹部は今後に財政リスクが生じると危惧する。石油・ガス収入はロシア財政の4割を占める。ロシアにとって上限価格の設定による値下げやエネルギー価格の下落は、最大の課題になる。調査会社ケプラーの石油市場専門家、ビクター・カトナ氏は、「『値引き』は制裁がもたらした重大な影響だ。長期間にわたり、ロシア産石油は実際に値引きされるようになった」と指摘する」

 

石油・ガス収入は、ロシア財政の4割を占めている。これら石油・ガス価格がどう動くかで、大きく響く構造になっている。

 

(2)「ロシア産原油の輸入国は、原油価格の指標となる北海ブレント原油に比べて、さらなる値引きを迫っている。キーウ経済大学(KSE)は22年、ロシアが値引きによって失った歳入は500億ドル(約6兆5000億円)と当初計画から12%減ったと試算した。ブレントと、ロシア産原油の指標となるウラル原油のスプレッド(価格差)は35〜40ドルと、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻開始前に比べ10倍に広がった。英調査会社アーガス・メディアによると、ウラル原油は12月5日に1バレル60ドルの上限設定後に下落し、足元ではブレントに比べ48%安い44ドルで取引されている。ロシアの23年予算が想定する1バレル70ドルを大きく下回り、GDP比2%の財政赤字に陥ると推計される」

 

ウラル原油は、12月5日に1バレル60ドルの上限設定後に下落。足元ではブレントに比べ48%安い44ドルになっている。政府の想定価格は70ドルである。4割弱も下回る価格だ。

 

(3)「フィンランドのシンクタンクCREAの試算によると、ロシア産原油価格上限制などによりロシアが被る損失は1日1億6000万ユーロ(約220億円)に上る。ロシア政府は、23年予算の全石油・ガス収入は22年比で23%減ると見積もる。一方KSEは、減収幅はその2倍になる可能性があると試算する。財務省のデータによると、ノワク氏が述べたように石油生産量が22年比7〜8%減少し、ウラル原油が平均1バレル50ドルで推移すると、ロシアの23年の石油・ガス収入は当初予算を23%下回る。ウラル価格が平均35ドルなら不足は45%に膨らむ。西側によるロシア産石油製品の禁輸措置が、2月発効すれば、減収幅はさらに大きくなる可能性がある」

 

西側諸国のロシア産原油価格上限制で、ロシアは大きな損失を被る。23年にウラル原油が、平均1バレル50ドルで石油・ガス収入は当初予算を23%下回る。平均35ドルなら不足は45%に膨らむ。

 

(4)「23年が予測通りになったとしても、ロシアは損失を補塡し計画通りに戦争資金を捻出できる。主に国内銀行から対内融資を受け、中国人民元を売却するなど総額1480億ドルに上る政府系ファンドの資金を流用できる。ロシア政府は13日、1月見込まれる石油・ガス収入の不足分545億ルーブルを補塡するため人民元売りを始めた。ズベルバンクCIBのアナリストは、ロシア政府は今後数年間、介入するのに十分な人民元を外貨準備に十分に保有しているとの見方を示す」

 

前述のように、ウラル原油が平均35ドルに値下がりしても、ロシアは歳入不足を補填する手段を持っている。外貨準備に保有している人民元が今後、数年間にわたり市場で売却できる余力があるのだ。また、国内銀行から融資を受けることも可能である。

 

(5)「元中央銀行職員のアレクサンドラ・プロコペンコ氏はこうみている。歳入が減り、22年のように歳出が当初予算を上回るような場合、ロシアは借金を増やし、プーチン氏は後ろ向きだが、ファンドに手を付けなければならない。あるいはこれまでの難局で実施してきたように経済発展やインフラへの支出を減らさなければならないと。だがプロコペンコ氏は、ロシア政府の政策決定の中心がウクライナ戦争に置かれている限り、軍事支出が影響を被るのは本当に最後だと主張する」

 

プーチン氏は、ウクライナ侵攻が予算的に行き詰まるまでに、いくつかの資金「引出箱」を持っている。万策尽きる時期は、数年後ということも計算に入れておくべきだろう。